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お前など大嫌いだ
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「さて、サラーサよ。最後だから名前くらいは呼んでやる。だが、お前の亡骸は決して王家の墓に入れぬ。そして墓標に名も刻まぬ。ただの犯罪者として無縁墓地に埋葬してやるからな」
「え、な、亡骸……? 何を言っているの、お兄様……」
王女──サラーサは兄の言葉の意味が分からず困惑した。
そんな妹を蔑んだ目で見た後、ワーヒドは低い声で告げる。
「相変わらず理解力が乏しいな。これだけのことを……しかも他国でやらかしておいて、無事で済むと思っているのか? 死刑になるのは当然の結果だろう」
「死刑ですって!? い……いや! なんで! なんで? たかが恋敵を始末しようとしただけじゃない!」
「そうか。お前がそう思うなら、死ぬまでそう思っていればいいんじゃないか? 私にはお前の動機などどうでもよいことだ。くだらな過ぎて聞く価値すらない」
「なっ……!? ひ、ひどい! くだらなくなんてないわ! わたくしの運命の人の近くにいる邪魔な蠅を始末して何が悪いの! そんなことで王女のわたくしが死刑になるなんておかしいわよ!!」
「だから、ずっとそう思っていればいいと何度言えば分かる? 私はお前に罪を自覚させるつもりなどない。他人の意見を聞く気などないお前にそんなことをするのは時間と労力の無駄だ」
ワーヒドはサラーサに自分がどんなおぞましく酷い罪を犯したのかを自覚させるよう説得する気はなかった。
自分に都合のいい話しか耳に入れず、常識を欠いた妹には、何を語ろうとも無意味だと知っているからだ。
「ああ、それと、お前の命令に従って放火と殺人未遂を働いた召使いたちも、もちろん処刑する。奴らはお前に対して妄信的で、ほんと気色悪いな。命令により無理やりやらされたというなら多少の情状酌量の余地はあったが、お前が望むからやったと言うではないか。だったらお前の死出の旅路の共をさせてやろう」
ワーヒドはここに来る前、ただの王女にすぎないサラーサがどうやって他国の貴族家を襲撃できたのかと疑問を抱いていた。襲撃や暗殺を実行する、いわゆる”暗部”は王や王太子の命令で動くもので、いくら王女といえども動かすことは不可能だ。しかも、自国の暗部は一人もサラーサの共をしていない。
それでは一体誰がそんな暴挙に出たのか。疑念が渦巻く中、驚くべき事実が明らかとなった。実行犯は特殊な訓練を受けた者などではなく、ただの召使いにすぎなかったのだ。
「ただの召使いを自分に忠実な信者にさせるとはたいしたものだ。そこだけは褒めてやる。もっと上手く使えばいいものを、こんなくだらないことに使うなんて馬鹿すぎるがな。いずれにせよお前を含めた馬鹿共は二度と我が国の地を踏ません。ここで全て始末する」
「いやっ! いやよ! わたくしだけでもいいから王宮に帰して! これからは大人しくするから……お願い、お兄様!」
「ははっ、お前の為に犯罪に手を染めた召使いを簡単に切り捨てるか。流石、屑は言うことが違うな。今の発言をこれから死にゆくお前の召使いたちに聞かせてやろう。さぞかし絶望した顔を見せてくれることだろう」
「あ……そ、そうよ! やったのは召使いで、わたくしではないわ! だったら悪いのは召使いじゃない? 処刑するのは実行犯だけでいいでしょう! わたくしだけは助けて!」
おぞましいほどの自己中心的で自己愛に満ちた発言にワーヒドは眉根をひそめた。
この妹が配下を顧みることなどしないとは分かっていても、実際に耳にすると不快感が胸に広がる。
「叶わぬ話だ。お前はやり過ぎた。三度に及ぶ離婚と、その都度行われた夫への暴力ゆえに、国外追放を求める声が高まっている。故郷においてお前を待つ者はなく、かえってお前の処刑によって人々は安堵するであろう。──そうすれば、各家は令息をお前への生贄として差し出す必要がなくなるのだから」
三度の離婚、その都度原因となった王女の暴力により、国内では王家への不満が高まっていた。
ワーヒドは何度も「サラーサを罪人用の塔にでも閉じ込めたほうがいい」と父王に訴えたが、甘すぎる王にはまるで響かなかった。しかし、国内ではもう嫁ぎ先がないので、他国で結婚相手を見つけてくれたらいいくらいの軽い気持ちで留学させてしまった結果がこれだ。王は国内のみならず、国外からも批判を受ける羽目になり、もはや退位は決まったようなものである。
「なっ、なに、それ? 皆、わたくしのことをそんな風に思っていたの? ひどい……」
「ここで被害者ぶれるのは流石だな。まあ、もうどうでもいい。どうせ数日後には死ぬ相手を諫めるつもりはない。せめて最後くらい、王族として潔い死にぶりを見せることだな」
悲劇のヒロインを気取ってぽろぽろと涙を流すサラーサに、ワーヒドはまるで化け物でも見るかのような蔑みのこもった視線を向けた。これだけのことをしておいて被害者ぶれる妹の思考を理解する日は永遠にこないだろうと。
「ひどい……ひどいわ。お兄様はそんなにわたくしが嫌いなの……?」
上目遣いの涙に濡れた瞳でじっと見つめるその姿は、誰もが手を差し伸べたくなるほどに可憐だった。
だが、ワーヒドの表情にはひとかけらの同情もない。ただ、冷ややかな軽蔑だけが宿っていた。
「ああ、大嫌いだ。お前なんかに母上が苦労させられ、その努力も全て無駄に終わったと思うと、この手で殺したくなってくる」
冷酷な兄の表情にサラーサは思わず息を呑んだ。そこに浮かぶのは紛れもなく自分への憎しみに満ちた暗いまなざし。恐怖に手が震え、掴んでいた鉄格子から手を離して一歩、また一歩と後ずさった。
「ああそれと、父上に訴えようとしても無駄だ。今回のことであの人の権威は地に落ちた。もはや誰も言うことを聞かないだろうよ。分かったら死刑の日まで大人しくしてろ」
それが、兄の最後の言葉だった。
背を向けたワーヒドの足音は冷たい石の廊下に無慈悲に響き、やがて消えていった。
残されたのは、崩れ落ちたサラーサのすすり泣きだけだった。
「え、な、亡骸……? 何を言っているの、お兄様……」
王女──サラーサは兄の言葉の意味が分からず困惑した。
そんな妹を蔑んだ目で見た後、ワーヒドは低い声で告げる。
「相変わらず理解力が乏しいな。これだけのことを……しかも他国でやらかしておいて、無事で済むと思っているのか? 死刑になるのは当然の結果だろう」
「死刑ですって!? い……いや! なんで! なんで? たかが恋敵を始末しようとしただけじゃない!」
「そうか。お前がそう思うなら、死ぬまでそう思っていればいいんじゃないか? 私にはお前の動機などどうでもよいことだ。くだらな過ぎて聞く価値すらない」
「なっ……!? ひ、ひどい! くだらなくなんてないわ! わたくしの運命の人の近くにいる邪魔な蠅を始末して何が悪いの! そんなことで王女のわたくしが死刑になるなんておかしいわよ!!」
「だから、ずっとそう思っていればいいと何度言えば分かる? 私はお前に罪を自覚させるつもりなどない。他人の意見を聞く気などないお前にそんなことをするのは時間と労力の無駄だ」
ワーヒドはサラーサに自分がどんなおぞましく酷い罪を犯したのかを自覚させるよう説得する気はなかった。
自分に都合のいい話しか耳に入れず、常識を欠いた妹には、何を語ろうとも無意味だと知っているからだ。
「ああ、それと、お前の命令に従って放火と殺人未遂を働いた召使いたちも、もちろん処刑する。奴らはお前に対して妄信的で、ほんと気色悪いな。命令により無理やりやらされたというなら多少の情状酌量の余地はあったが、お前が望むからやったと言うではないか。だったらお前の死出の旅路の共をさせてやろう」
ワーヒドはここに来る前、ただの王女にすぎないサラーサがどうやって他国の貴族家を襲撃できたのかと疑問を抱いていた。襲撃や暗殺を実行する、いわゆる”暗部”は王や王太子の命令で動くもので、いくら王女といえども動かすことは不可能だ。しかも、自国の暗部は一人もサラーサの共をしていない。
それでは一体誰がそんな暴挙に出たのか。疑念が渦巻く中、驚くべき事実が明らかとなった。実行犯は特殊な訓練を受けた者などではなく、ただの召使いにすぎなかったのだ。
「ただの召使いを自分に忠実な信者にさせるとはたいしたものだ。そこだけは褒めてやる。もっと上手く使えばいいものを、こんなくだらないことに使うなんて馬鹿すぎるがな。いずれにせよお前を含めた馬鹿共は二度と我が国の地を踏ません。ここで全て始末する」
「いやっ! いやよ! わたくしだけでもいいから王宮に帰して! これからは大人しくするから……お願い、お兄様!」
「ははっ、お前の為に犯罪に手を染めた召使いを簡単に切り捨てるか。流石、屑は言うことが違うな。今の発言をこれから死にゆくお前の召使いたちに聞かせてやろう。さぞかし絶望した顔を見せてくれることだろう」
「あ……そ、そうよ! やったのは召使いで、わたくしではないわ! だったら悪いのは召使いじゃない? 処刑するのは実行犯だけでいいでしょう! わたくしだけは助けて!」
おぞましいほどの自己中心的で自己愛に満ちた発言にワーヒドは眉根をひそめた。
この妹が配下を顧みることなどしないとは分かっていても、実際に耳にすると不快感が胸に広がる。
「叶わぬ話だ。お前はやり過ぎた。三度に及ぶ離婚と、その都度行われた夫への暴力ゆえに、国外追放を求める声が高まっている。故郷においてお前を待つ者はなく、かえってお前の処刑によって人々は安堵するであろう。──そうすれば、各家は令息をお前への生贄として差し出す必要がなくなるのだから」
三度の離婚、その都度原因となった王女の暴力により、国内では王家への不満が高まっていた。
ワーヒドは何度も「サラーサを罪人用の塔にでも閉じ込めたほうがいい」と父王に訴えたが、甘すぎる王にはまるで響かなかった。しかし、国内ではもう嫁ぎ先がないので、他国で結婚相手を見つけてくれたらいいくらいの軽い気持ちで留学させてしまった結果がこれだ。王は国内のみならず、国外からも批判を受ける羽目になり、もはや退位は決まったようなものである。
「なっ、なに、それ? 皆、わたくしのことをそんな風に思っていたの? ひどい……」
「ここで被害者ぶれるのは流石だな。まあ、もうどうでもいい。どうせ数日後には死ぬ相手を諫めるつもりはない。せめて最後くらい、王族として潔い死にぶりを見せることだな」
悲劇のヒロインを気取ってぽろぽろと涙を流すサラーサに、ワーヒドはまるで化け物でも見るかのような蔑みのこもった視線を向けた。これだけのことをしておいて被害者ぶれる妹の思考を理解する日は永遠にこないだろうと。
「ひどい……ひどいわ。お兄様はそんなにわたくしが嫌いなの……?」
上目遣いの涙に濡れた瞳でじっと見つめるその姿は、誰もが手を差し伸べたくなるほどに可憐だった。
だが、ワーヒドの表情にはひとかけらの同情もない。ただ、冷ややかな軽蔑だけが宿っていた。
「ああ、大嫌いだ。お前なんかに母上が苦労させられ、その努力も全て無駄に終わったと思うと、この手で殺したくなってくる」
冷酷な兄の表情にサラーサは思わず息を呑んだ。そこに浮かぶのは紛れもなく自分への憎しみに満ちた暗いまなざし。恐怖に手が震え、掴んでいた鉄格子から手を離して一歩、また一歩と後ずさった。
「ああそれと、父上に訴えようとしても無駄だ。今回のことであの人の権威は地に落ちた。もはや誰も言うことを聞かないだろうよ。分かったら死刑の日まで大人しくしてろ」
それが、兄の最後の言葉だった。
背を向けたワーヒドの足音は冷たい石の廊下に無慈悲に響き、やがて消えていった。
残されたのは、崩れ落ちたサラーサのすすり泣きだけだった。
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