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サフィー家に来たるは
その日、サフィー家の応接室には静かな緊張が満ちていた。
高窓から差し込む朝の光が、重厚なカーテンを透かして絨毯の文様を浮かび上がらせている。
壁際の飾棚には先代侯爵の集めた書物と淡い色彩の陶器が整然と並んでいた。
扉の向こうから、執事の落ち着いた声が響く。
「ガーネット公爵閣下がお見えです」
セシリア・ガーネット――今は離婚して、セシリア・サフィーとなった彼女は、ゆるやかに立ち上がる。
椅子の肘掛に手を添えたまま、そっと執事に返事をした。
「お通しして」
まもなく扉が開かれ、黒の外套を羽織った老紳士が姿を現した。
ガーネット公爵。かつてセシリアに甥との結婚を勧め、それを後悔した苦労人。
彼の顔は以前と様変わりしていた。痩せた頬、深く刻まれた隈。精悍な眼差しは健在だが、その奥に隠しきれない疲労が滲んでいる。
「久方ぶりだな、セシリア嬢。元気そうで何よりだ」
「公爵閣下、ようこそお越しくださいました。お疲れのご様子でいらっしゃいますね」
セシリアは形式通りに礼をとり、微笑みを浮かべた。
だが、その目は彼の様子をしっかりと見つめている。
ガーネット公爵は軽く片手を上げて挨拶を返し、向かいの椅子に腰を下ろした。
執事が無言で銀盆に乗せた紅茶を差し出し、深々と頭を下げてから部屋を下がる。
静寂の中、茶器が揺れる音だけが一瞬、部屋に響いた。
公爵は湯気の立つカップに目もくれず、まっすぐにセシリアを見つめた。
「今朝、処刑が執行された。……サラーサ王女と、命令を実行した召使いたち。すべて正式に、王命のもとに。正式な記録は後で届けさせよう」
セシリアは一言も発さず、その言葉を飲み込むように聴いていた。
目を伏せ、カップに手を伸ばす。紅茶の表面に揺れる己の影を見つめながら、ゆっくりと息をついた。
「そうですか……。迅速な処分、流石でございます」
処刑の話は公爵からの手紙で知らされていた。だが、まさかここまで早いとは……正直、驚きを隠せない。
そもそも、王女が処刑されるなんて異例の判断である。通常ならば、せいぜい母国への強制送還で済むはずだろう。
国王陛下も当初は国外送還の方針だったそうだ。
だが、先方の王と王太子が直接来訪し、この国での処刑を求めたため方針が変更されたらしい。
理由は、加害者である王女を処刑することで、被害者であるセシリアたちに安心してもらうためだという。
「……そうだな。儂も話し合いの場に同席したが、あちらの王太子は中々の策略家だ。此度の処刑は王太子が王位を掌握するための巧妙な印象操作にすぎぬ」
「え? 処刑が印象操作……ですか。実の妹相手に……?」
あまりの衝撃に、セシリアは声を失った。
実の妹の命すら王位に就くための道具とする――そんな非情な王太子の在り様に深い戦慄を覚えた。
「どうも儂が見た限りだと、あちらの王太子は実の妹とはいえ王女にあまりいい印象を持っていないようだ。いや、むしろ憎んでいるようにも見えたな……」
公爵の言葉に妙に納得させられてしまった。
王女の性格の悪辣さと常軌を逸した振る舞いを思えば、多分母国でも色々やらかし、その度に王家が尻拭いをしているのだろう。そんなことばかり繰り返されてはいくら兄妹といえど憎しみを抱くのも無理はないと感じてしまう。
高窓から差し込む朝の光が、重厚なカーテンを透かして絨毯の文様を浮かび上がらせている。
壁際の飾棚には先代侯爵の集めた書物と淡い色彩の陶器が整然と並んでいた。
扉の向こうから、執事の落ち着いた声が響く。
「ガーネット公爵閣下がお見えです」
セシリア・ガーネット――今は離婚して、セシリア・サフィーとなった彼女は、ゆるやかに立ち上がる。
椅子の肘掛に手を添えたまま、そっと執事に返事をした。
「お通しして」
まもなく扉が開かれ、黒の外套を羽織った老紳士が姿を現した。
ガーネット公爵。かつてセシリアに甥との結婚を勧め、それを後悔した苦労人。
彼の顔は以前と様変わりしていた。痩せた頬、深く刻まれた隈。精悍な眼差しは健在だが、その奥に隠しきれない疲労が滲んでいる。
「久方ぶりだな、セシリア嬢。元気そうで何よりだ」
「公爵閣下、ようこそお越しくださいました。お疲れのご様子でいらっしゃいますね」
セシリアは形式通りに礼をとり、微笑みを浮かべた。
だが、その目は彼の様子をしっかりと見つめている。
ガーネット公爵は軽く片手を上げて挨拶を返し、向かいの椅子に腰を下ろした。
執事が無言で銀盆に乗せた紅茶を差し出し、深々と頭を下げてから部屋を下がる。
静寂の中、茶器が揺れる音だけが一瞬、部屋に響いた。
公爵は湯気の立つカップに目もくれず、まっすぐにセシリアを見つめた。
「今朝、処刑が執行された。……サラーサ王女と、命令を実行した召使いたち。すべて正式に、王命のもとに。正式な記録は後で届けさせよう」
セシリアは一言も発さず、その言葉を飲み込むように聴いていた。
目を伏せ、カップに手を伸ばす。紅茶の表面に揺れる己の影を見つめながら、ゆっくりと息をついた。
「そうですか……。迅速な処分、流石でございます」
処刑の話は公爵からの手紙で知らされていた。だが、まさかここまで早いとは……正直、驚きを隠せない。
そもそも、王女が処刑されるなんて異例の判断である。通常ならば、せいぜい母国への強制送還で済むはずだろう。
国王陛下も当初は国外送還の方針だったそうだ。
だが、先方の王と王太子が直接来訪し、この国での処刑を求めたため方針が変更されたらしい。
理由は、加害者である王女を処刑することで、被害者であるセシリアたちに安心してもらうためだという。
「……そうだな。儂も話し合いの場に同席したが、あちらの王太子は中々の策略家だ。此度の処刑は王太子が王位を掌握するための巧妙な印象操作にすぎぬ」
「え? 処刑が印象操作……ですか。実の妹相手に……?」
あまりの衝撃に、セシリアは声を失った。
実の妹の命すら王位に就くための道具とする――そんな非情な王太子の在り様に深い戦慄を覚えた。
「どうも儂が見た限りだと、あちらの王太子は実の妹とはいえ王女にあまりいい印象を持っていないようだ。いや、むしろ憎んでいるようにも見えたな……」
公爵の言葉に妙に納得させられてしまった。
王女の性格の悪辣さと常軌を逸した振る舞いを思えば、多分母国でも色々やらかし、その度に王家が尻拭いをしているのだろう。そんなことばかり繰り返されてはいくら兄妹といえど憎しみを抱くのも無理はないと感じてしまう。
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