初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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朝食の場での爆弾発言

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「……料理の味はどうかしら?」

「はい、とても美味しいです」

「そう……。それはよかったわ……」

 食堂でセシリアとイザベラは向かい合って朝食をとっていた。
 セシリアには焼き立てのパン、ベーコン、サラダ、茹でた卵、それに野菜がたっぷり入ったスープと栄養満点のメニューに対してイザベラは紅茶と果物のみ。

「お義母様はそれだけなのですか?」

「ええ、朝はあまり食欲がないのよ……」

 イザベラは白い陶器の皿の上に色とりどりに並んだ小さくカットされた果物をフォークでゆっくりと口に運んだ。夜遅くまでセシリアの遊びに付き合わされた挙句、起き抜けの騒動ですでに疲労困憊である。そのためフォークを口元に運ぶまでの一連の動作はいつもよりゆっくりであった。

 それに対してセシリアは用意された食事をペロリと平らげていた。
 まるで朝から運動したせいでお腹が空いたとでも言わんばかりの食欲である。

「なんであんたそんな元気なのよ……」

 げっそりとした様子でそう尋ねるイザベラだが、当のセシリアはキョトンとしたように首を傾げた。

「あら、お母様は元気ではありませんの? どこかお体の具合が悪いのでしょうか?」

「……そうね、夜通しあんたの遊びに付き合わされて、起き抜けにとんでもない光景を目の当たりにしたからね……」

 とんでもない行動とは……と不思議そうにするセシリアにイザベラは苛ついたように声を荒げた。

「あんたが家令を床に沈めたことよ! なんで一介の令嬢が大の男にあんな真似出来るのよ!? いや、そもそも平手打ちであそこまでの惨状を作り出すって……あんた何者?」

 イザベラは大の男を一撃で沈める女性なんて聞いたことなかった。
 これが歴戦の猛将ならばまだしも、相手は“か弱い”が代名詞の貴族令嬢。しかもこんなにほっそりとした腕の何処にそんな力を秘めているのか不思議でならない。

「我が家は代々騎士を輩出する家系でございまして、私の父や兄もその職に就いております。幼少期より父や兄と共に鍛錬に勤しんで参りましたから……多少一般のご令嬢よりは力が強いのかと」

「多少という程度ではなかったわよ!? あんた、令嬢止めて騎士になった方がよかったんじゃないの……?」

「それも考えたのですが、女の子がそんな危ないことをしては駄目だと母が反対しまして……」

「その力を持ったまま令嬢を続けている方が危ないと思うわよ……?」

 とんでもない女が嫁に来た。それはイザベラだけでなく、壁際に控えている使用人達も同じように思ったことだろう。

「ところでお義母様、今日は何をして過ごしましょう?」

「…………なんで、わたくしがあんたと過ごすこと前提で話しているの?」

 当然のようにイザベラと過ごす気満々のセシリアに、イザベラは頭が痛くなった。
 何処の世界に嫁いだ翌日に姑と過ごす嫁がいるというのか……。

「はあ……ですが、夫となった方は何処かに行ってしまいましたし、来たばかりで私もどう過ごせばいいのか分かりませんし?」

 それを言われてしまうと何も言えない。
 そういえばセシリアがあまりにも破天荒な行動をするものだからすっかり失念していたが、彼女は夫に初夜を放棄されるという非道な扱いを受けた被害者だった。

「あの……エリオットは……」

 そう言いかけたもののイザベラも義理の息子が今何処で何をしているかを知らない。初夜をどうして放棄したかも理由は分からない。彼女は結婚式の晩、エリオットが馬車で何処かに外出する姿を見かけただけだから。

 使用人なら知っているはずだが、普段からエリオットにのみ忠実でイザベラには反抗的な彼等は口を割らないだろう。それでも自然と目線を食堂の壁に控えている執事に送ると、彼は何故か心得たとばかりの笑みを浮かべセシリアへと近づいた。

「奥様、旦那様はの邸に行っております」

 とんでもない事をはっきりと告げた執事にイザベラは驚愕の余り持っていたフォークを落としてしまった。
 静寂の中、フォークが床に落ちる高い音だけが鳴り響く。
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