初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

文字の大きさ
11 / 165

辛辣な使用人

しおりを挟む
「何なんだ、急に!? お前達だって昨日まで何も言わなかったじゃないか……」

「ええ、ええ、そうでしたね! そんな愚かな昨日の自分を殴りたいですよ! わたくし共がすべきだったのは、とっくに解消した婚約をずるずると引きずっている気持ちの切り替えの出来ない情けな~~~い旦那様をお止めすることでした。それこそ殴ってでも」

「それは言い過ぎじゃないか!? それに僕は別に引きずっているわけじゃ……」

「言い過ぎなものですか! その時の選択を誤ったせいでわたくし共は命の危機に瀕していたのですよ!? それに“引きずっていない”とおっしゃいますけど、どこら辺がそうなのですか? 奥様よりも元婚約者様を優先している時点で十分引きずっております! まったく……情けのうございます。そのせいで家令さんは……」

 うっ、うっ……と涙を流す使用人達にエリオットは困惑した。

 昨夜、自分が邸を離れた後何が起こった? 何故、家令はそんな大怪我を負った?
 聞こうにも口を開くたびに使用人達から罵詈雑言が返ってくるので下手に聞くことができない。

「そ、そういえば……セシリアはどうしている?」

 話を逸らそうと放置してしまった妻の様子を尋ねたが、それは悪手だった。
 その発言にその場にいる使用人全員がじとーっとした視線でエリオットを取り囲む。その目はただの嫌悪や失望だけではなく、深い非難の念を込めてじっとこちらを射抜いているようだった。

「旦那様がそれを聞きます? よく聞けますね……身勝手にも結婚式の夜に何も告げず放置した妻の様子を……」

「そ……そんな言い方はないんじゃないか!? あれは仕方なかったんだ! キャサリンが僕に会わなきゃ命を絶つなんて言うから……」

 キャサリンとはエリオットの元婚約者の名だ。
 結婚直前までいったのに、とある事情で破談となった相手。
 とっくに縁は切れたというのに、何かとこの元婚約者はエリオットを呼び出す。
 まだ未練があるのか、それともただ放っておけないのか、エリオットは元婚約者が呼びつける度に必ず会いに行っていた。別の女性と結婚した日ですら……。

「いつまで元婚約者様の茶番に付き合うおつもりですか! 婚約が破談となってから一体何度呼びつけられましたか? 言っておきますけど、そうやって命を盾にして旦那様の気を引いているだけですよ、元婚約者様は! 本当に命を絶つつもりでしたらもうとっくに実行しているでしょうね? 結局ただの狂言なんですよ! それにまんまと引っかかって、まあ情けない!」

「茶番だと!? お前はキャサリンの訴えをそんな風に思っていたのか!」

「ええ、思っていましたよ! 、いつまでも旦那様を自分のものだと思っている図々しい御方だともね!」

「なんだと……! おい、それは流石に言いすぎだ!」

「わたくしが言い過ぎなら、貴方様は言わな過ぎです! せめて奥様に外出する旨を報告すべきでしょう? 何も言わずに行ってしまわれたから奥様は律儀にずっと旦那様の訪れを待ち続けていたのですよ?」

「うっ…………」

 痛い所を突かれたとばかりにエリオットは口籠った。

「で……でも、結婚式の夜に他の女性に会いに行くなんて言えるわけが……」

「言えないようなことを実際にやるのはどうなんです? 言っておきますけど、奥様の旦那様への評価は地の底まで下がっておりますからね?」

「そんなに……? だ、だが……話せばきっと、セシリアも分かってくれるはずだ」

「無理ですね。自分の妻より赤の他人を優先する夫を理解しろと? 理解して何の得になります?」

「そんな言い方しなくとも……それに赤の他人というわけじゃ……」

「他人ですよね? 血が繋がっているわけでもない、親戚というわけでもない、当家と何の関りもない他人です。もう一度言います。妻より赤の他人を優先する旦那様がおかしいのです。優先順位を考えて行動なさってください」

 何を言っても倍以上の罵倒の言葉が返ってくる。この時点でエリオットは泣きそうだった。昨日までは恭しく仕えてくれていたはずの使用人達の豹変ぶりについていけない。道端のゴミを見るように蔑んだ視線に心が限界だった。

「……何、泣いてんですか? 泣きたいのは奥様の方でしょう? 旦那様には泣く権利もありませんよ」

 周りが敵だらけの状況にエリオットは思わず「セ、セシリアはどうした!」と妻を探す。まるで妻なら自分の味方になってくれるとでも言いたげな態度だ。

「……奥様はおりません。イザベラ様と出かけられました」

「なに!? 義母上と……?」

「はい。今夜は戻らないとおっしゃっていましたから、お帰りは朝になると思われます」

「しかも朝帰りだと!? 嫁いだばかりなのに……嘘だろう?」

「この世界で旦那様にだけは言われたくありませんね。ご自分なんて朝帰りどころか翌日の夜帰りでしょう? それより早くお帰りになる奥様に文句を言うのはお止めください。聞いていて不愉快です」

 氷点下まで冷めた目と辛辣な台詞にエリオットは言葉を失った。
 今まで使用人にここまで手厳しいことを言われたことはない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*) 表紙絵は猫絵師さんより(⁠。⁠・⁠ω⁠・⁠。⁠)⁠ノ⁠♡

処理中です...