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辛辣な使用人
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「何なんだ、急に!? お前達だって昨日まで何も言わなかったじゃないか……」
「ええ、ええ、そうでしたね! そんな愚かな昨日の自分を殴りたいですよ! わたくし共がすべきだったのは、とっくに解消した婚約をずるずると引きずっている気持ちの切り替えの出来ない情けな~~~い旦那様をお止めすることでした。それこそ殴ってでも」
「それは言い過ぎじゃないか!? それに僕は別に引きずっているわけじゃ……」
「言い過ぎなものですか! その時の選択を誤ったせいでわたくし共は命の危機に瀕していたのですよ!? それに“引きずっていない”とおっしゃいますけど、どこら辺がそうなのですか? 奥様よりも元婚約者様を優先している時点で十分引きずっております! まったく……情けのうございます。そのせいで家令さんは……」
うっ、うっ……と涙を流す使用人達にエリオットは困惑した。
昨夜、自分が邸を離れた後何が起こった? 何故、家令はそんな大怪我を負った?
聞こうにも口を開くたびに使用人達から罵詈雑言が返ってくるので下手に聞くことができない。
「そ、そういえば……セシリアはどうしている?」
話を逸らそうと放置してしまった妻の様子を尋ねたが、それは悪手だった。
その発言にその場にいる使用人全員がじとーっとした視線でエリオットを取り囲む。その目はただの嫌悪や失望だけではなく、深い非難の念を込めてじっとこちらを射抜いているようだった。
「旦那様がそれを聞きます? よく聞けますね……身勝手にも結婚式の夜に何も告げず放置した妻の様子を……」
「そ……そんな言い方はないんじゃないか!? あれは仕方なかったんだ! キャサリンが僕に会わなきゃ命を絶つなんて言うから……」
キャサリンとはエリオットの元婚約者の名だ。
結婚直前までいったのに、とある事情で破談となった相手。
とっくに縁は切れたというのに、何かとこの元婚約者はエリオットを呼び出す。
まだ未練があるのか、それともただ放っておけないのか、エリオットは元婚約者が呼びつける度に必ず会いに行っていた。別の女性と結婚した日ですら……。
「いつまで元婚約者様の茶番に付き合うおつもりですか! 婚約が破談となってから一体何度呼びつけられましたか? 言っておきますけど、そうやって命を盾にして旦那様の気を引いているだけですよ、元婚約者様は! 本当に命を絶つつもりでしたらもうとっくに実行しているでしょうね? 結局ただの狂言なんですよ! それにまんまと引っかかって、まあ情けない!」
「茶番だと!? お前はキャサリンの訴えをそんな風に思っていたのか!」
「ええ、思っていましたよ! 自分から破談にしたくせに、いつまでも旦那様を自分のものだと思っている図々しい御方だともね!」
「なんだと……! おい、それは流石に言いすぎだ!」
「わたくしが言い過ぎなら、貴方様は言わな過ぎです! せめて奥様に外出する旨を報告すべきでしょう? 何も言わずに行ってしまわれたから奥様は律儀にずっと旦那様の訪れを待ち続けていたのですよ?」
「うっ…………」
痛い所を突かれたとばかりにエリオットは口籠った。
「で……でも、結婚式の夜に他の女性に会いに行くなんて言えるわけが……」
「言えないようなことを実際にやるのはどうなんです? 言っておきますけど、奥様の旦那様への評価は地の底まで下がっておりますからね?」
「そんなに……? だ、だが……話せばきっと、セシリアも分かってくれるはずだ」
「無理ですね。自分の妻より赤の他人を優先する夫を理解しろと? 理解して何の得になります?」
「そんな言い方しなくとも……それに赤の他人というわけじゃ……」
「他人ですよね? 血が繋がっているわけでもない、親戚というわけでもない、当家と何の関りもない他人です。もう一度言います。妻より赤の他人を優先する旦那様がおかしいのです。優先順位を考えて行動なさってください」
何を言っても倍以上の罵倒の言葉が返ってくる。この時点でエリオットは泣きそうだった。昨日までは恭しく仕えてくれていたはずの使用人達の豹変ぶりについていけない。道端のゴミを見るように蔑んだ視線に心が限界だった。
「……何、泣いてんですか? 泣きたいのは奥様の方でしょう? 旦那様には泣く権利もありませんよ」
周りが敵だらけの状況にエリオットは思わず「セ、セシリアはどうした!」と妻を探す。まるで妻なら自分の味方になってくれるとでも言いたげな態度だ。
「……奥様はおりません。イザベラ様と出かけられました」
「なに!? 義母上と……?」
「はい。今夜は戻らないとおっしゃっていましたから、お帰りは朝になると思われます」
「しかも朝帰りだと!? 嫁いだばかりなのに……嘘だろう?」
「この世界で旦那様にだけは言われたくありませんね。ご自分なんて朝帰りどころか翌日の夜帰りでしょう? それより早くお帰りになる奥様に文句を言うのはお止めください。聞いていて不愉快です」
氷点下まで冷めた目と辛辣な台詞にエリオットは言葉を失った。
今まで使用人にここまで手厳しいことを言われたことはない。
「ええ、ええ、そうでしたね! そんな愚かな昨日の自分を殴りたいですよ! わたくし共がすべきだったのは、とっくに解消した婚約をずるずると引きずっている気持ちの切り替えの出来ない情けな~~~い旦那様をお止めすることでした。それこそ殴ってでも」
「それは言い過ぎじゃないか!? それに僕は別に引きずっているわけじゃ……」
「言い過ぎなものですか! その時の選択を誤ったせいでわたくし共は命の危機に瀕していたのですよ!? それに“引きずっていない”とおっしゃいますけど、どこら辺がそうなのですか? 奥様よりも元婚約者様を優先している時点で十分引きずっております! まったく……情けのうございます。そのせいで家令さんは……」
うっ、うっ……と涙を流す使用人達にエリオットは困惑した。
昨夜、自分が邸を離れた後何が起こった? 何故、家令はそんな大怪我を負った?
聞こうにも口を開くたびに使用人達から罵詈雑言が返ってくるので下手に聞くことができない。
「そ、そういえば……セシリアはどうしている?」
話を逸らそうと放置してしまった妻の様子を尋ねたが、それは悪手だった。
その発言にその場にいる使用人全員がじとーっとした視線でエリオットを取り囲む。その目はただの嫌悪や失望だけではなく、深い非難の念を込めてじっとこちらを射抜いているようだった。
「旦那様がそれを聞きます? よく聞けますね……身勝手にも結婚式の夜に何も告げず放置した妻の様子を……」
「そ……そんな言い方はないんじゃないか!? あれは仕方なかったんだ! キャサリンが僕に会わなきゃ命を絶つなんて言うから……」
キャサリンとはエリオットの元婚約者の名だ。
結婚直前までいったのに、とある事情で破談となった相手。
とっくに縁は切れたというのに、何かとこの元婚約者はエリオットを呼び出す。
まだ未練があるのか、それともただ放っておけないのか、エリオットは元婚約者が呼びつける度に必ず会いに行っていた。別の女性と結婚した日ですら……。
「いつまで元婚約者様の茶番に付き合うおつもりですか! 婚約が破談となってから一体何度呼びつけられましたか? 言っておきますけど、そうやって命を盾にして旦那様の気を引いているだけですよ、元婚約者様は! 本当に命を絶つつもりでしたらもうとっくに実行しているでしょうね? 結局ただの狂言なんですよ! それにまんまと引っかかって、まあ情けない!」
「茶番だと!? お前はキャサリンの訴えをそんな風に思っていたのか!」
「ええ、思っていましたよ! 自分から破談にしたくせに、いつまでも旦那様を自分のものだと思っている図々しい御方だともね!」
「なんだと……! おい、それは流石に言いすぎだ!」
「わたくしが言い過ぎなら、貴方様は言わな過ぎです! せめて奥様に外出する旨を報告すべきでしょう? 何も言わずに行ってしまわれたから奥様は律儀にずっと旦那様の訪れを待ち続けていたのですよ?」
「うっ…………」
痛い所を突かれたとばかりにエリオットは口籠った。
「で……でも、結婚式の夜に他の女性に会いに行くなんて言えるわけが……」
「言えないようなことを実際にやるのはどうなんです? 言っておきますけど、奥様の旦那様への評価は地の底まで下がっておりますからね?」
「そんなに……? だ、だが……話せばきっと、セシリアも分かってくれるはずだ」
「無理ですね。自分の妻より赤の他人を優先する夫を理解しろと? 理解して何の得になります?」
「そんな言い方しなくとも……それに赤の他人というわけじゃ……」
「他人ですよね? 血が繋がっているわけでもない、親戚というわけでもない、当家と何の関りもない他人です。もう一度言います。妻より赤の他人を優先する旦那様がおかしいのです。優先順位を考えて行動なさってください」
何を言っても倍以上の罵倒の言葉が返ってくる。この時点でエリオットは泣きそうだった。昨日までは恭しく仕えてくれていたはずの使用人達の豹変ぶりについていけない。道端のゴミを見るように蔑んだ視線に心が限界だった。
「……何、泣いてんですか? 泣きたいのは奥様の方でしょう? 旦那様には泣く権利もありませんよ」
周りが敵だらけの状況にエリオットは思わず「セ、セシリアはどうした!」と妻を探す。まるで妻なら自分の味方になってくれるとでも言いたげな態度だ。
「……奥様はおりません。イザベラ様と出かけられました」
「なに!? 義母上と……?」
「はい。今夜は戻らないとおっしゃっていましたから、お帰りは朝になると思われます」
「しかも朝帰りだと!? 嫁いだばかりなのに……嘘だろう?」
「この世界で旦那様にだけは言われたくありませんね。ご自分なんて朝帰りどころか翌日の夜帰りでしょう? それより早くお帰りになる奥様に文句を言うのはお止めください。聞いていて不愉快です」
氷点下まで冷めた目と辛辣な台詞にエリオットは言葉を失った。
今まで使用人にここまで手厳しいことを言われたことはない。
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