初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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昨日は味方、今日は敵

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「だ……だが! あの義母上と一緒というのは心配だ。きっとよからぬ遊びに付き合わされているに違いない」

 エリオットの言葉に執事は大袈裟に肩をすくめ、わざとらしく溜息をついた。

「よからぬ遊びですか……。まさか旦那様は奥様とイザベラ様が男遊びでもしていると疑っておられる?」

 馬鹿にしたように「ハンッ!」と鼻で笑う執事に苛立ったエリオットは彼を怒鳴りつけた。

「お前、何だその馬鹿にした態度は! 使用人風情が生意気な!」

「いいえ、わたくしはただ……今の今まで女と遊んでいた旦那様がそれを言うのかと笑ってしまったまでのこと。万が一そうだったとしても、旦那様にお二人を非難する権利はございませんでしょう? それに、イザベラ様は新婚早々夫に放置された奥様を憐れんで遊びに連れて行ってくださったのですよ? 感謝こそすれ、文句を言うのは筋違いというもの。あの非常識で精神が不安定な元婚約者様と接しているうちに礼儀をお忘れになりましたか?」

「なっ…………! そこまで言うか!」

「そこまで言わなきゃ旦那様は理解しないでしょうが! いいですか? もう一回言います。結婚式の日、しかも初夜に花嫁を放置して元婚約者に会いに行くような男は世間一般的にハズレ中のハズレなのだと肝に銘じていただきたい! 言えば拒否されるだろうからと黙っているのは自分のことしか頭にない自己中心男だと魂に刻んでいただきたい! 旦那様の身勝手な行動は奥様を悲しませただけでなく、我々の命まで危険に晒したのですよ!」

「ちょって待て! そこまで言うか、と言いたいところだが……お前達の命が危険だったというのはどういうことだ!?」

「そのままの意味です! 我々が奥様に旦那様のことを故意に黙っていたことを叱責され、折檻として叩かれてしまうところでした! 胸倉を掴まれた時はもう終わったかと……」

「は? 胸倉を掴んだ? 誰が?」

 話の流れとしてはセシリアなのだろうが、貴族の令嬢がそんな破落戸みたいな真似をするとは思えなかった。そんなエリオットからの質問に執事は「それは今気にするところではありません!」と怒鳴りつける。

「いや、一番気になるところなのだが!?」

「それよりも旦那様のせいで我々の命が危険に晒されたということを気にしてください!」

「ちょっと待て! なんで僕のせいなんだよ!?」

「だからっ! 旦那様が他の女に会うため出かけることを奥様に黙っているよう我々に命じたからじゃないですかっ……!! それがなければ我々は奥様に旦那様のことを説明しましたし、奥様も無駄に時間を浪費することもありませんでした! どうして我々を共犯に仕立て上げようとなさったのですか!?」

「い、いや……それは、ちゃんと僕の口から説明した方が誤解を招くこともないだろうと……」

「誤解も何もないでしょう!? 奥様を放って元婚約者に会いに行ったことは事実なのですから! そしてそんなくっだらないことのせいで我々が命の危機に瀕していたことも事実です!」

「いや……だから、どうしてお前達はそういう状況に陥ったんだ? さっぱり状況がつかめないのだが……」

「そんなことはどうでもよろしい! とにかく、旦那様のせいで我々は危ない目に遭ったのです! そして、そんな我々を救ってくださったのがイザベラ様でした……。我々の恩人であるイザベラ様を悪く言うのはたとえ旦那様といえども許しませんよ!」

「どうしてそこで義母上が……!?」

 もうエリオットにはさっぱり状況が理解出来なかった。
 唯一理解できるのは昨日まで自分の味方だった使用人達が今日は敵になっていること。
 いや、この場合敵はエリオット自身の方だといえる。だって周囲を取り囲む彼等の目がまるで仇敵を見るように憎しみが込められているから。

「分かったならさっさと邸内に入り大人しく奥様の帰りをお待ちください。そして誠心誠意謝罪してください。最低でも床に額を擦りつけるくらいはやっていただきたいですね」

「そこまでやる必要はないだろう!? それに最低でそれなら、それより上の謝罪は何なんだ!」

「……全財産を詫びとして奥様に差し上げるくらいはしてほしいところですね。それくらいのことを旦那様はなさったのですから」

 むしろそれくらい言われなくてもやってほしいですよ、と至極呆れた顔で吐き捨てる執事。他の使用人達も同じような顔でエリオットを見た。そこに尊敬や忠誠の心は欠片も無い。

 いつもであればエリオットの後ろに慎ましく控えていた彼等は地面に座り込む主人を起こそうともせず、冷たい目で一瞥した後さっさと邸内に戻ってしまった。残されたエリオットはどうしてこんなことになっているのか現実が受け入れられず、しばらく茫然としたまま冷たい地面の上に座り続けていた。
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