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放置された夫
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「セシリアはまだ戻らないのか……?」
壁掛けの時計に目を遣り、エリオットは眉をひそめた。
暖炉の火はとっくに小さくなり、寝室の空気が冷え始めている。
落ち着かないのか何をするでもなく、ベッドに腰をかけたまま寝室の扉をじっと眺めていた。
初夜の晩、セシリアもこんな気持ちだったのだろうか……。
待ち人がいつ来るのか分からずソワソワと落ち着かないまま待つのは中々精神に負担がかかる。
昨夜のことを話し合うため、執事にセシリアが戻ったら寝室に案内するよう伝えておいた。それで眠らず待っているのだが、いくら待っても音沙汰がない。
「流石に遅すぎやしないか…………」
どの口が言うのか、という台詞を吐いたエリオットは卓上にある呼び鈴を手に取る。
それを鳴らし、しばらくすると足音が聞こえて扉が開いた。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「ああ……セシリアはまだ戻らないのか?」
やってきたメイドに尋ねると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「え? 奥様ならもうとっくにお戻りですよ?」
「はあ!? 何だと! どうなっているんだ!?」
「どうなっているんだって……何がです?」
「執事にセシリアが戻ったら寝室に来るよう指示しておいたんだぞ! なのに、どうしてここに案内しないんだ!」
「ああ……確か、執事さんはちゃんと奥様に伝えておりましたよ? ですが、奥様が嫌だとお断りしておりましたね」
「は……? 断った? セシリアが……?」
信じられないというように固まるエリオットにメイドは億劫そうな態度で「もういいですか?」と立ち去ろうとする。
「待て! 行くな! まだ話は終わっていない!」
「ええ……まだあるんですか?」
「あるに決まっているだろう! 戻ってきているなら今すぐここに呼べ!」
「は……? もうお休みになっているだろう奥様を起こし、ここに呼びつけろと? ……正気ですか、旦那様……」
メイドはまるで頭がおかしくなった相手を見るような目を向けてきた。
本来なら「主人に向かってその目はなんだ!」と怒るべきなのだろうが、鋭い視線に含まれる静かな怒りと呆れに気圧され言葉が出ない。
「お断りします。私はまだ命が惜しい。それとも旦那様は私に死ねと?」
「死!? どうしてそういう話になるんだ!」
「は~……。とにかく、奥様はもうお休みになっておりますので、その眠りを妨げることは何人たりとも許されません!」
どうして妻をそんな大いなる存在のように恐れるんだ、とばかりに驚くエリオットへメイドは「いいから旦那様もさっさとお休みください!」と吐き捨てる。
「眠れないのでしたら何か温かいお飲み物でもお持ちいたします。それ飲んでとっととお眠りくださいね! 分かりましたか?」
メイドの圧に負けたエリオットは消え入りそうな声で「……はい」とだけ答えた。
なんだあれ、まるで死の危機から生還した兵士のような迫力じゃないか……。
しばらくしてメイドはホットミルクとホットワイン、エッグノッグとハーブティーをワゴンに乗せて戻って来た。
「ほら、沢山ご用意いたしましたので、お好きに飲んでさっさとお休みくださいね!」
いや、多いわ! という指摘をする暇もなくメイドはさっさと部屋から出て行ってしまう。仕方なくホットワインのカップを手に取り、ゆっくりと飲んでいるとあの執事が部屋にやってきた。
「あ、旦那様。奥様はもうお休みになりましたから、ここには来ません。なので、もう旦那様もお休みください」
「言うのが遅い! もうメイドから聞いたわ! むしろ休ませる前にここに来させろよ!」
「いや~……無理ですね。奥様のご意向に逆らうなんて恐ろしい真似、私にはちょっと……」
どうしてどいつもこいつも妻をそんなに怖がるんだ。
執事からセシリアが武闘派だと聞かされていない……というかその部分をはぐらかされたエリオットは自分の妻の恐ろしさを知らない。
ワインのグラスを持ったまま苦々しい表情で執事を睨む。
主人に睨まれようと何とも思っていない執事は卓上に置かれた沢山の飲み物を見て驚いた。
「何ですか、この大量の飲み物は? こんなに飲んだら厠が近くなりますよ?」
「知ってるわ! ああ、もう……いいからこれ全部下げてくれ……」
ちっとも言う事を聞かない使用人達に辟易し、エリオットは卓上に残った飲み物を下げさせ、床に就いた。しかし、妻に弁明も出来ないことや反抗的になった使用人の態度に悶々して眠れないまま朝を迎えるのだった……。
壁掛けの時計に目を遣り、エリオットは眉をひそめた。
暖炉の火はとっくに小さくなり、寝室の空気が冷え始めている。
落ち着かないのか何をするでもなく、ベッドに腰をかけたまま寝室の扉をじっと眺めていた。
初夜の晩、セシリアもこんな気持ちだったのだろうか……。
待ち人がいつ来るのか分からずソワソワと落ち着かないまま待つのは中々精神に負担がかかる。
昨夜のことを話し合うため、執事にセシリアが戻ったら寝室に案内するよう伝えておいた。それで眠らず待っているのだが、いくら待っても音沙汰がない。
「流石に遅すぎやしないか…………」
どの口が言うのか、という台詞を吐いたエリオットは卓上にある呼び鈴を手に取る。
それを鳴らし、しばらくすると足音が聞こえて扉が開いた。
「お呼びでしょうか、旦那様」
「ああ……セシリアはまだ戻らないのか?」
やってきたメイドに尋ねると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「え? 奥様ならもうとっくにお戻りですよ?」
「はあ!? 何だと! どうなっているんだ!?」
「どうなっているんだって……何がです?」
「執事にセシリアが戻ったら寝室に来るよう指示しておいたんだぞ! なのに、どうしてここに案内しないんだ!」
「ああ……確か、執事さんはちゃんと奥様に伝えておりましたよ? ですが、奥様が嫌だとお断りしておりましたね」
「は……? 断った? セシリアが……?」
信じられないというように固まるエリオットにメイドは億劫そうな態度で「もういいですか?」と立ち去ろうとする。
「待て! 行くな! まだ話は終わっていない!」
「ええ……まだあるんですか?」
「あるに決まっているだろう! 戻ってきているなら今すぐここに呼べ!」
「は……? もうお休みになっているだろう奥様を起こし、ここに呼びつけろと? ……正気ですか、旦那様……」
メイドはまるで頭がおかしくなった相手を見るような目を向けてきた。
本来なら「主人に向かってその目はなんだ!」と怒るべきなのだろうが、鋭い視線に含まれる静かな怒りと呆れに気圧され言葉が出ない。
「お断りします。私はまだ命が惜しい。それとも旦那様は私に死ねと?」
「死!? どうしてそういう話になるんだ!」
「は~……。とにかく、奥様はもうお休みになっておりますので、その眠りを妨げることは何人たりとも許されません!」
どうして妻をそんな大いなる存在のように恐れるんだ、とばかりに驚くエリオットへメイドは「いいから旦那様もさっさとお休みください!」と吐き捨てる。
「眠れないのでしたら何か温かいお飲み物でもお持ちいたします。それ飲んでとっととお眠りくださいね! 分かりましたか?」
メイドの圧に負けたエリオットは消え入りそうな声で「……はい」とだけ答えた。
なんだあれ、まるで死の危機から生還した兵士のような迫力じゃないか……。
しばらくしてメイドはホットミルクとホットワイン、エッグノッグとハーブティーをワゴンに乗せて戻って来た。
「ほら、沢山ご用意いたしましたので、お好きに飲んでさっさとお休みくださいね!」
いや、多いわ! という指摘をする暇もなくメイドはさっさと部屋から出て行ってしまう。仕方なくホットワインのカップを手に取り、ゆっくりと飲んでいるとあの執事が部屋にやってきた。
「あ、旦那様。奥様はもうお休みになりましたから、ここには来ません。なので、もう旦那様もお休みください」
「言うのが遅い! もうメイドから聞いたわ! むしろ休ませる前にここに来させろよ!」
「いや~……無理ですね。奥様のご意向に逆らうなんて恐ろしい真似、私にはちょっと……」
どうしてどいつもこいつも妻をそんなに怖がるんだ。
執事からセシリアが武闘派だと聞かされていない……というかその部分をはぐらかされたエリオットは自分の妻の恐ろしさを知らない。
ワインのグラスを持ったまま苦々しい表情で執事を睨む。
主人に睨まれようと何とも思っていない執事は卓上に置かれた沢山の飲み物を見て驚いた。
「何ですか、この大量の飲み物は? こんなに飲んだら厠が近くなりますよ?」
「知ってるわ! ああ、もう……いいからこれ全部下げてくれ……」
ちっとも言う事を聞かない使用人達に辟易し、エリオットは卓上に残った飲み物を下げさせ、床に就いた。しかし、妻に弁明も出来ないことや反抗的になった使用人の態度に悶々して眠れないまま朝を迎えるのだった……。
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