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万が一の為に契約書は必要
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「困ります! そんなことをすれば当家は立ちいかなくなってしまう!」
「……そうだな。領地の経営も他家との社交もこちらが支援してやらねば回らぬものな。それは分かっているようで安心したぞ……」
静かな口調だが、低く圧の籠った声で公爵がかなり怒っていることが分かる。
これだけ物分かりが悪く非常識な甥を相手にしていれば無理もない。
「嫌なら二度とあの小娘と接触しないことだな。そしてセシリア嬢を妻として丁重に遇することだ」
「で、でも……そんなことすればキャサリンは……」
「くどい! 既に破談になった婚約相手にいつまでも構っている場合か! どうでもいい小娘を優先し、妻であるセシリア嬢を蔑ろにしおって……。お前はセシリア嬢だけでなく、縁談を纏めた儂にまで恥をかかせたのだぞ!? 自らの不始末を償わぬ気か!」
「……ッ! 申し訳、ありません……」
公爵の形相にエリオットは声を震わせながら答えた。
「謝罪はいい。償うつもりがあるのなら、それを行動で示せ。貴族としての責務も果たさずしてガーネット侯爵の名を継ぐつもりか? 忘れるな、当主を名乗れるのは貴族としての責務を果たした者だけだ。弟から受け継いだ名をこれ以上傷つけることは許さぬぞ!」
厳しい叱責にエリオットは何も言えなかった。
沈黙が続く中、再びセシリアが口を開く。
「それでは、今の内容を契約書に纏めたうえでエリオット様に署名して頂きましょう。契約書は三通作成いたします。一通はこの邸で保管、もう一通は公爵様に保管していただきます。そしてもう一通は私の生家で保管します」
婚姻継続を諦めさせるという目論見は外れたが、だったら契約違反での離婚を狙うしかない。おそらく、この浅はかな夫は間違いなくまた元婚約者に接触するはずだ。
口約束ではなかったことにされる恐れがあるので契約書は作成しておかなくては。
そうすれば裁判してでも離婚が成立する。
そんな心の内を悟られぬよう、努めて冷静に話すセシリアにエリオットが明後日の方向の文句をつけてきた。
「はあ!? 三通も必要か?」
馬鹿げた文句をつけてきたエリオットにセシリアは冷めた視線を送る。
そこは突っ込むところなのかと。
身も凍りそうなほどの妻の冷たい目にエリオットは震えあがった。
「必要に決まっているでしょう? 何をおっしゃっているのですか。当事者である私達と、縁談をまとめた公爵様の分、ほら三通必要でしょう?」
「僕達の分は一通だけでいいだろう? 同じ邸に住んでいるのだから一通を保管しておけば事足りるじゃないか!」
何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりに鼻で笑うセシリアにエリオットはムッとした顔で言い返す。そんな夫の反応に小さくため息をつき、肩をすくめながら首を左右に振った。
「お忘れなのか、それとも最初から考えていなかったのかは知りませんが、私達の結婚は私達だけの問題ではありません。ガーネット家とサフィー家、両家の問題です。ならばサフィー家でも契約書を保管することは当然のこと。違いますか?」
「そ、それは……些か大袈裟じゃないか?」
「いいえ、大袈裟ではありません。貴族の結婚は契約です。ならばその結婚に関わる契約書を両家で保管するのは何もおかしくないでしょう?」
セシリアの静かだが有無を言わさぬ迫力のある態度に気圧され、エリオットは気まずそうに目を逸らした。夫がどうしてセシリアの生家であるサフィー家に契約書を保管することを嫌がるのか、それは自分の不始末を知られたくないからだろう。
(契約書の保管を頼んだら私の家に貴方のやらかしがバレてしまうものね。それを嫌がるということは、自分のしたことがどれだけ非常識かを一応は理解しているのかしら?)
だったら最初からしなければいいのに、とため息が出そうになる。
「嫌なら離婚で構いません。エリオット様は私よりもキャサリン様のことを大切に想っていらっしゃるようですし?」
「いや、そんなことはない! ただ、キャサリンのことが心配だっただけで……」
煮え切れないエリオットの態度にセシリアがまず思ったことは「この人はどうしたいのだろう」だった。思い返してみれば離婚に反対しているのは公爵であって、エリオット本人がどうしたいかはよく分からない。
「……そうだな。領地の経営も他家との社交もこちらが支援してやらねば回らぬものな。それは分かっているようで安心したぞ……」
静かな口調だが、低く圧の籠った声で公爵がかなり怒っていることが分かる。
これだけ物分かりが悪く非常識な甥を相手にしていれば無理もない。
「嫌なら二度とあの小娘と接触しないことだな。そしてセシリア嬢を妻として丁重に遇することだ」
「で、でも……そんなことすればキャサリンは……」
「くどい! 既に破談になった婚約相手にいつまでも構っている場合か! どうでもいい小娘を優先し、妻であるセシリア嬢を蔑ろにしおって……。お前はセシリア嬢だけでなく、縁談を纏めた儂にまで恥をかかせたのだぞ!? 自らの不始末を償わぬ気か!」
「……ッ! 申し訳、ありません……」
公爵の形相にエリオットは声を震わせながら答えた。
「謝罪はいい。償うつもりがあるのなら、それを行動で示せ。貴族としての責務も果たさずしてガーネット侯爵の名を継ぐつもりか? 忘れるな、当主を名乗れるのは貴族としての責務を果たした者だけだ。弟から受け継いだ名をこれ以上傷つけることは許さぬぞ!」
厳しい叱責にエリオットは何も言えなかった。
沈黙が続く中、再びセシリアが口を開く。
「それでは、今の内容を契約書に纏めたうえでエリオット様に署名して頂きましょう。契約書は三通作成いたします。一通はこの邸で保管、もう一通は公爵様に保管していただきます。そしてもう一通は私の生家で保管します」
婚姻継続を諦めさせるという目論見は外れたが、だったら契約違反での離婚を狙うしかない。おそらく、この浅はかな夫は間違いなくまた元婚約者に接触するはずだ。
口約束ではなかったことにされる恐れがあるので契約書は作成しておかなくては。
そうすれば裁判してでも離婚が成立する。
そんな心の内を悟られぬよう、努めて冷静に話すセシリアにエリオットが明後日の方向の文句をつけてきた。
「はあ!? 三通も必要か?」
馬鹿げた文句をつけてきたエリオットにセシリアは冷めた視線を送る。
そこは突っ込むところなのかと。
身も凍りそうなほどの妻の冷たい目にエリオットは震えあがった。
「必要に決まっているでしょう? 何をおっしゃっているのですか。当事者である私達と、縁談をまとめた公爵様の分、ほら三通必要でしょう?」
「僕達の分は一通だけでいいだろう? 同じ邸に住んでいるのだから一通を保管しておけば事足りるじゃないか!」
何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりに鼻で笑うセシリアにエリオットはムッとした顔で言い返す。そんな夫の反応に小さくため息をつき、肩をすくめながら首を左右に振った。
「お忘れなのか、それとも最初から考えていなかったのかは知りませんが、私達の結婚は私達だけの問題ではありません。ガーネット家とサフィー家、両家の問題です。ならばサフィー家でも契約書を保管することは当然のこと。違いますか?」
「そ、それは……些か大袈裟じゃないか?」
「いいえ、大袈裟ではありません。貴族の結婚は契約です。ならばその結婚に関わる契約書を両家で保管するのは何もおかしくないでしょう?」
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(契約書の保管を頼んだら私の家に貴方のやらかしがバレてしまうものね。それを嫌がるということは、自分のしたことがどれだけ非常識かを一応は理解しているのかしら?)
だったら最初からしなければいいのに、とため息が出そうになる。
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「いや、そんなことはない! ただ、キャサリンのことが心配だっただけで……」
煮え切れないエリオットの態度にセシリアがまず思ったことは「この人はどうしたいのだろう」だった。思い返してみれば離婚に反対しているのは公爵であって、エリオット本人がどうしたいかはよく分からない。
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