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優柔不断な夫
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「ふう……疲れた」
あの話し合いの後、公爵が手配した専門家により契約書がセシリアの指定通り三通作成され、それ全てにエリオットの署名と当主の印が捺された。それに立ち会い、終わった時には昼を過ぎていた。
長引いた話し合いに疲れたセシリアはよろよろと私室のソファに身を沈めた。
静寂の中で時計の針の音だけが控えめに響く。ぼんやりと天井を見上げたまま、何も考えずにまばたきを繰り返す。
髪は少し乱れ、顔には疲労の色が滲んでいた。それでもどこか、話し合いを終えた安心感が表情の端にうかがえる。クッションに顔を埋めながら彼女は心の中で呟いた。
(結局、エリオット様がどうしたいかは分からず仕舞いだったわね……)
エリオットはこの婚姻を継続したいのか、それとも元婚約者とやり直したいのか、あの場での彼の態度からはいまいち分からない。分かったのは彼が公爵の言いなりだということだけ。
(いや、言いなりとはまた違うわね。そうだったなら元婚約者に会いに行くなんて真似はしないだろうし……)
なんというか、とりあえず公爵の言う事には従うけれど、望むようには動いていないように思える。
公爵に反対されたから元婚約者とはやり直さない。
それでも元婚約者から狂言めいた手紙が届けば花嫁を放置して向かってしまう。
いったい何がしたいか分からない。他人の声に流されてばかりで、彼には自分の意志が無いのだろうか。
夫となった男性は“優柔不断”という言葉がピッタリの、セシリアにとってはこの上なく相性の悪い相手だった。
「いや……当主が優柔不断って……どうなの?」
優柔不断という性格は個人が生まれ持ったものもあるので仕方ないとして、重い決断を迫られる機会の多い当主がそれでは色々と不味いのではないだろうか。今のエリオットを見ていると、強い声に流され場の空気に染まり、結局、余計に厄介な事態を引き起こしているように思える。しかも本人に悪気がなさそうなので、余計に厄介だ。
彼は決断を自分ではなく、他人に預けている。
“結婚相手”を伯父である公爵の決断に委ね、前の婚約者と会うか会わないかの判断を自分ではなく彼女自身の決断に委ねている。
そして、彼は自分で選ばないくせして文句だけはつける。セシリアが提案した婚姻継続の条件についても、聞いた限りだと父親の遺産分配についても。責任から逃げ、自分が損をすることを嫌がる。
公爵からの支援を失いたくないからセシリアとの結婚を受け入れたのは先程の話し合いでよく分かった。そこは別にいい。貴族であれば家の利益となる結婚をするのは当たり前だから。
だが、そうであるなら元婚約者からの誘いは拒絶するべきだ。公爵がその元婚約者を嫌っているのだから、関わり合いになれば公爵の機嫌を損ねるのは分かり切ったこと。案の定公爵の逆鱗に触れてしまい、支援を失うかもしれない事態に陥っている。
(それとも、もしかして私が黙っているとでも思った? 公爵様に言わず、黙って泣いて耐えるような女だと思っていた?)
仮にそうだとしたら、随分と舐めてくれたものだ。
大人しく耐え忍ぶ女だと言ったつもりはないのに。
エリオットの中でセシリアは大人しく慎ましい女という認識でもあったのだろうか。
「まあ……どうでもいいわね。どうせすぐに離婚するのだし……」
おもむろにセシリアは体を起こし、テーブルに置いてあるベルへと手を伸ばす。
“チリン”──と軽やかな音が部屋に響き、しばらくすると廊下の先から靴音が近づいてきた。
コンコンという控えめなノックの音が聞こえ、セシリアが入室の許可を出すと静かに扉が開かれる。
「お呼びでしょうか、奥様」
現れたのは現在負傷した家令に代わり邸の使用人を統括している執事だった
「聞きたいことがあるの。中にお入りなさい」
セシリアの命令に恭しく頭を下げる執事だが、内心では何を頼まれるのかとヒヤヒヤしていた。
扉が閉められ、再び部屋に静寂が訪れるとセシリアはおもむろに口を開く。
「旦那様の元婚約者について教えてちょうだい」
それを聞いた執事の顔に緊張が走った。
あの話し合いの後、公爵が手配した専門家により契約書がセシリアの指定通り三通作成され、それ全てにエリオットの署名と当主の印が捺された。それに立ち会い、終わった時には昼を過ぎていた。
長引いた話し合いに疲れたセシリアはよろよろと私室のソファに身を沈めた。
静寂の中で時計の針の音だけが控えめに響く。ぼんやりと天井を見上げたまま、何も考えずにまばたきを繰り返す。
髪は少し乱れ、顔には疲労の色が滲んでいた。それでもどこか、話し合いを終えた安心感が表情の端にうかがえる。クッションに顔を埋めながら彼女は心の中で呟いた。
(結局、エリオット様がどうしたいかは分からず仕舞いだったわね……)
エリオットはこの婚姻を継続したいのか、それとも元婚約者とやり直したいのか、あの場での彼の態度からはいまいち分からない。分かったのは彼が公爵の言いなりだということだけ。
(いや、言いなりとはまた違うわね。そうだったなら元婚約者に会いに行くなんて真似はしないだろうし……)
なんというか、とりあえず公爵の言う事には従うけれど、望むようには動いていないように思える。
公爵に反対されたから元婚約者とはやり直さない。
それでも元婚約者から狂言めいた手紙が届けば花嫁を放置して向かってしまう。
いったい何がしたいか分からない。他人の声に流されてばかりで、彼には自分の意志が無いのだろうか。
夫となった男性は“優柔不断”という言葉がピッタリの、セシリアにとってはこの上なく相性の悪い相手だった。
「いや……当主が優柔不断って……どうなの?」
優柔不断という性格は個人が生まれ持ったものもあるので仕方ないとして、重い決断を迫られる機会の多い当主がそれでは色々と不味いのではないだろうか。今のエリオットを見ていると、強い声に流され場の空気に染まり、結局、余計に厄介な事態を引き起こしているように思える。しかも本人に悪気がなさそうなので、余計に厄介だ。
彼は決断を自分ではなく、他人に預けている。
“結婚相手”を伯父である公爵の決断に委ね、前の婚約者と会うか会わないかの判断を自分ではなく彼女自身の決断に委ねている。
そして、彼は自分で選ばないくせして文句だけはつける。セシリアが提案した婚姻継続の条件についても、聞いた限りだと父親の遺産分配についても。責任から逃げ、自分が損をすることを嫌がる。
公爵からの支援を失いたくないからセシリアとの結婚を受け入れたのは先程の話し合いでよく分かった。そこは別にいい。貴族であれば家の利益となる結婚をするのは当たり前だから。
だが、そうであるなら元婚約者からの誘いは拒絶するべきだ。公爵がその元婚約者を嫌っているのだから、関わり合いになれば公爵の機嫌を損ねるのは分かり切ったこと。案の定公爵の逆鱗に触れてしまい、支援を失うかもしれない事態に陥っている。
(それとも、もしかして私が黙っているとでも思った? 公爵様に言わず、黙って泣いて耐えるような女だと思っていた?)
仮にそうだとしたら、随分と舐めてくれたものだ。
大人しく耐え忍ぶ女だと言ったつもりはないのに。
エリオットの中でセシリアは大人しく慎ましい女という認識でもあったのだろうか。
「まあ……どうでもいいわね。どうせすぐに離婚するのだし……」
おもむろにセシリアは体を起こし、テーブルに置いてあるベルへと手を伸ばす。
“チリン”──と軽やかな音が部屋に響き、しばらくすると廊下の先から靴音が近づいてきた。
コンコンという控えめなノックの音が聞こえ、セシリアが入室の許可を出すと静かに扉が開かれる。
「お呼びでしょうか、奥様」
現れたのは現在負傷した家令に代わり邸の使用人を統括している執事だった
「聞きたいことがあるの。中にお入りなさい」
セシリアの命令に恭しく頭を下げる執事だが、内心では何を頼まれるのかとヒヤヒヤしていた。
扉が閉められ、再び部屋に静寂が訪れるとセシリアはおもむろに口を開く。
「旦那様の元婚約者について教えてちょうだい」
それを聞いた執事の顔に緊張が走った。
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