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元婚約者について聞かせて
「……旦那様からは何も聞いておられませんか?」
「ええ。私から尋ねることもしなかったわ。気にはなったのだけど、公爵様の前で痴話喧嘩のような真似は極力控えたかったのよ。……それに、こういっては何だけど旦那様の主観では正しい情報が得られないような気がしたの。だから当事者以外から見た元婚約者─キャサリン様がどんな人なのかを知りたくてね」
これは完全に勘なのだが、エリオットから元婚約者について聞いたとしても正しい情報は得られないような気がした。今後、セシリアが元婚約者に会う機会があるかどうかは別として、事前に情報は入手しておいた方がいい。
セシリアの質問に執事は躊躇いがちに「……私の主観でよろしいのでしょうか?」と聞く。
「ええ、構わないわ。どのような内容でもいいから、貴方が思ったキャサリン様の性格や気質を教えてちょうだい」
「承知しました。……そうですね、私から見たキャサリン様は感情的で後先考えない人という印象でした。情緒が不安定で、旦那様はいつもキャサリン様の気分に振り回されておりましたね……」
もうこの発言ひとつで全てを理解出来たような気がする。
成程、エリオットは婚約を解消してなお自ら振り回されに行っているのか。
「割とすぐに不安定になるようで、その度に旦那様へ攻撃的になるのです」
「大分危うい方なのね……」
「ええ、旦那様も怒ればよろしいのに、いつもキャサリン様の機嫌を伺っておりました」
「まあ……元婚約者の機嫌は伺っていたくせに、妻の機嫌を伺う真似は一切しないというのだから呆れるわ。どうやら婚約が破談となった今でもキャサリン様のご機嫌を伺っているようね?」
「はい……そのようです。この邸では旦那様がキャサリン様を優先する状況が当たり前でしたので、私共もあの結婚式の夜も旦那様の行動が特におかしいものだと思いませんでした……。今思えば奥様を放置して、とっくに破談になった相手の元に行くなど非常識極まりない行為です。あの時、私共は奥様にそのことを黙っているのではなく、旦那様を何が何でもお止めすべきでした。本当に申し訳ありません……」
執事のひどく反省した様子を見る限り、この邸の使用人の感覚は本当にマヒしていたのだなと分かる。当主の影響で邸の使用人の倫理観がここまで変わってしまうとは驚きだ。
(あれ? やっぱりあの人、当主になっては駄目な部類なのでは……?)
優柔不断なうえに優先順位も分からず、軽い気持ちで取り返しのつかないことをしでかす。おまけに邸の使用人にまで非常識さを伝染させる。ここまで当主の椅子に座ってほしくない人物は初めてだ。
「……謝罪を受け入れます。以後は倫理観に基づいた行動をとるようになさい」
「はい……肝に銘じます」
「ところで、そのキャサリン様と旦那様はどういう経緯で婚約なさったの?」
「……確か、夜会で意気投合し、婚約に至ったと聞いています」
「あら、政略ではなく想い合って婚約するなんて貴族にしては珍しいわね」
「いえ……想い合うとは違うような気がします。キャサリン様の方は旦那様に恋焦がれていらっしゃいましたが、旦那様はキャサリン様に恋慕の情はお持ちでなかったようですね……」
「え? そうなの? 妻より優先するくらいキャサリン様を想っているのではないの?」
「あれはただの“依存”でしょう。旦那様はキャサリン様に頼られることを迷惑がりながらも喜んでおられるように見えましたから……」
諦めた顔で執事はそう吐き捨てた。
「ええ。私から尋ねることもしなかったわ。気にはなったのだけど、公爵様の前で痴話喧嘩のような真似は極力控えたかったのよ。……それに、こういっては何だけど旦那様の主観では正しい情報が得られないような気がしたの。だから当事者以外から見た元婚約者─キャサリン様がどんな人なのかを知りたくてね」
これは完全に勘なのだが、エリオットから元婚約者について聞いたとしても正しい情報は得られないような気がした。今後、セシリアが元婚約者に会う機会があるかどうかは別として、事前に情報は入手しておいた方がいい。
セシリアの質問に執事は躊躇いがちに「……私の主観でよろしいのでしょうか?」と聞く。
「ええ、構わないわ。どのような内容でもいいから、貴方が思ったキャサリン様の性格や気質を教えてちょうだい」
「承知しました。……そうですね、私から見たキャサリン様は感情的で後先考えない人という印象でした。情緒が不安定で、旦那様はいつもキャサリン様の気分に振り回されておりましたね……」
もうこの発言ひとつで全てを理解出来たような気がする。
成程、エリオットは婚約を解消してなお自ら振り回されに行っているのか。
「割とすぐに不安定になるようで、その度に旦那様へ攻撃的になるのです」
「大分危うい方なのね……」
「ええ、旦那様も怒ればよろしいのに、いつもキャサリン様の機嫌を伺っておりました」
「まあ……元婚約者の機嫌は伺っていたくせに、妻の機嫌を伺う真似は一切しないというのだから呆れるわ。どうやら婚約が破談となった今でもキャサリン様のご機嫌を伺っているようね?」
「はい……そのようです。この邸では旦那様がキャサリン様を優先する状況が当たり前でしたので、私共もあの結婚式の夜も旦那様の行動が特におかしいものだと思いませんでした……。今思えば奥様を放置して、とっくに破談になった相手の元に行くなど非常識極まりない行為です。あの時、私共は奥様にそのことを黙っているのではなく、旦那様を何が何でもお止めすべきでした。本当に申し訳ありません……」
執事のひどく反省した様子を見る限り、この邸の使用人の感覚は本当にマヒしていたのだなと分かる。当主の影響で邸の使用人の倫理観がここまで変わってしまうとは驚きだ。
(あれ? やっぱりあの人、当主になっては駄目な部類なのでは……?)
優柔不断なうえに優先順位も分からず、軽い気持ちで取り返しのつかないことをしでかす。おまけに邸の使用人にまで非常識さを伝染させる。ここまで当主の椅子に座ってほしくない人物は初めてだ。
「……謝罪を受け入れます。以後は倫理観に基づいた行動をとるようになさい」
「はい……肝に銘じます」
「ところで、そのキャサリン様と旦那様はどういう経緯で婚約なさったの?」
「……確か、夜会で意気投合し、婚約に至ったと聞いています」
「あら、政略ではなく想い合って婚約するなんて貴族にしては珍しいわね」
「いえ……想い合うとは違うような気がします。キャサリン様の方は旦那様に恋焦がれていらっしゃいましたが、旦那様はキャサリン様に恋慕の情はお持ちでなかったようですね……」
「え? そうなの? 妻より優先するくらいキャサリン様を想っているのではないの?」
「あれはただの“依存”でしょう。旦那様はキャサリン様に頼られることを迷惑がりながらも喜んでおられるように見えましたから……」
諦めた顔で執事はそう吐き捨てた。
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