初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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あくまで”護身用”ですよ

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「セシリア、君は誤解している。話し合おう、ここを開けてくれ」

 どこか噛み合わない返答を返すエリオットに、セシリアはふと、言い知れぬ不穏さを感じた。

「話し合いなら明日の日中にしてください。今日はもう遅いですし、私も疲れておりますの」

「なら、やはり夫婦の寝室で話し合おう。疲れたらそのまま寝てもいいから」

「いいえ、結構です。もう、お部屋にお戻りください。それでは」

 まだ何か言おうとするエリオットを無視し、セシリアは扉の鍵を閉めてその場から離れた。
 
「…………悪いけど、湯浴みの準備が出来たら呼んでちょうだい」

 動揺した様子のメイド達に言葉を残し、セシリアは足早に寝室へと向かった。
 この部屋にいると聞きたくもないエリオットの声が耳に入るので不快だ。

 寝室に入り、扉を閉めたのを確認するとそのままチェストに向かった。
 引き出しを開け、一つの巾着袋を取り出して中の物を取り出す。

「念のために…………」

 そう呟いてセシリアは巾着袋から取り出した物──拳銃を枕元へと置いた。
 もし、エリオットが夜這いを仕掛けてきた場合に備えて。

 先程のやり取りで何となく察した。エリオットが“半年間寝室を共にしない”という約束を破り、こちらと関係を結ぼうとしていることを。
 それが単に性欲から来るものなのか、それとも無理やり肉体関係を結んで離婚し辛い状況にもっていこうとしているかは分からない。いずれにせよ自衛するに越したことは無い。

 この拳銃は“護身用に”と結婚前に母が持たせてくれたものだ。
 こんなものに頼らずとも素手でどうにかなると最初は断ったのだが、それに対して母は怖い形相で「お前の護身のためじゃない」と渡してきた。
 一撃で大の男を複雑骨折させてしまうほどのセシリアの膂力を夫に対して使えばどうなるか。訴えられたらこちらが負ける確率は高い、と叱られた。
 
 そうならない為にも暴力に訴えず、コレで脅すようにしろ。
 引き金は引かず、あくまで脅しの道具として使え。
 母からそう言い聞かされて持参した品である。

 改めて考えると母の教えは正しかった。仮にエリオットが夜這いを仕掛けてきたとしたら、気持ち悪さのあまりに何発も殴り重傷を負わせてしまう自信がある。
 使用人相手ならまだしも、流石に貴族家の当主相手にそれは不味い。訴えられたら負ける。
 だからもしエリオットが来た場合はコレを頭に突きつけて追い出そう。
 臆病者な彼のことだ。それだけで驚いて逃げ出すに違いない。

 そう考えると心が軽くなり、セシリアは静かに落ち着きを取り戻した。

「奥様……湯浴みの準備が整いました」

 おそるおそる声をかけてきたメイドに対し、セシリアは機嫌よく「今行くわ」と答える。畏怖すら覚える女主人の機嫌がよくなったことにメイドは心の底から安堵した。

 その夜、やはりというか、予想どおりエリオットが寝室にやってきた。
 深い眠りについていたセシリアだったが、鍛錬によって研ぎ澄まされた感覚がわずかな気配を捉えて飛び起きる。
 すぐに枕元にある拳銃を手にし、エリオットの頭へと銃口を押し付けた。

「こんばんは、エリオット様」

 セシリアは、場違いなほど穏やかな笑みをエリオットに向けた。
 それは、これ以上近づくなという無言の拒絶。

 こんなかたちで拒まれるとは思っていなかったエリオットは、額に冷や汗を浮かべ顔を引きつらせていた。
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