初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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退く気はない

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 味気ない食事の時間を終え、部屋へ戻ったセシリアはメイドに湯浴みの準備を命じる。
 いろんなことがあった一日だった。もう心も体もぐったりで、早く眠りたくて仕方がない。湯浴みの時間まで一息つこうとソファに腰を下ろした矢先、不意に扉をノックする音が響いた。

「誰かしら……?」

 セシリアがそう呟くと、一人のメイドが急いで「見て参ります」と扉へと近づいた。

「あ、あの……奥様、旦那様がいらっしゃっておりますが……」

 メイドは扉越しに外の相手とやり取りしたあと、どこか戸惑った表情でセシリアにそう告げた。

「旦那様が? 何の御用かしら……」

 疲れているのになんの用だよ……という態度を隠そうともしないままセシリアは扉へと向かう。

「……なにか御用でしょうか?」

 疲れと苛立ちのせいで思ったよりも低く圧のこもった声が出た。
 その声に怯えたのか、エリオットは上擦った声で返してきた。

「い、いや……、今日はこちらで寝るのかと……」

「は…………? どういう意味ですか?」

 言葉の意図がつかめず、セシリアは不思議そうに首を傾けた。

「だから、その……夫婦の寝室で寝ないのかと聞いている」

「……………………は?」

 先ほどよりもずっと低く、威圧的な声が出てしまった。その声に反応してメイド達の小さな悲鳴が部屋に響く。

「婚姻継続の条件として、寝室を共にするのは半年後と申したはずですが、お忘れですか?」

 昼間言ったことをもう忘れたのか頭鶏野郎、と思わず罵るところだった。
 いくらなんでも忘れるのは早すぎだぞこの野郎、とも言いそうになる衝動を必死に抑える。

「いや、それは覚えているが……その、夜伽さえしなければいいのだろう?」

「はあああ!?」

 そのあまりにも気持ち悪い発言に思わず扉を思い切り“バンッ”と音が出るほど叩いてしまった。その音に驚いたメイド達は「ヒイイイ!」と悲鳴をあげるし、扉の向こうにいるエリオットも「うわ!?」と驚いた声を出す。

「お断りです! 気持ち悪いことをおっしゃらないでください!」

「なっ……!? 気持ち悪いだと? いくらなんでも夫に対して失礼じゃないか!」

「先に失礼を働いたのはそちらでしょう! 初夜に夫としての義務も果たさず外出したのはどこのどなた?」

「だから、それは謝ったじゃないか! いつまでそれを蒸し返す気だ!」

「いつまでも、です! 期限などありません! 無期限でいつまでも蒸し返し続けます! 言ったでしょう? “許さない”と。謝ったからって私の怒りが収まると思わないでください!」

「いくらなんでもしつこ過ぎだろう! 終わったことをいつまでも言っていても何も良いことはない。いい加減水に流してくれ!」

「いーやーでーすー! 流す気はこれっぽっちもありません! 流す水すら枯らしてやりますわ! それにしつこいのはそちらです! 半年間は寝室を共にしない、と契約書まで交わしたのですから反故にするのは違反行為です」

「そ、そんな……僕等は夫婦じゃないか……? 互いに歩み寄る努力は必要だろう?」

「一般的な夫婦には必要ですけど、私達の仲には不必要です。歩み寄るどころか逃げて行ったくせによく言えたものですね!」

 退くつもりなどこれっぽっちもないセシリアの堂々とした態度にエリオットの方がたじろぎ始めた。姿は見えなくとも声だけでそれがよく分かる。
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