初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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ここに置いてください

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「と、いうわけで、新たな鍵を設置するまでここに置いてください」

「………………ええ? なんで、そうなるの……?」

 朝方、イザベラがいつものようにサロンの窓辺で紅茶を飲みながら新聞に目を通していると玄関の呼び鈴が鳴り、扉を開けるとそこには鞄を持ったセシリアが立っていた。
 驚いたイザベラがどうしたのかと尋ねると、昨夜あったことを説明され、上記の台詞を吐かれたというわけだ。

「本邸にいては、いつまたエリオット様に襲われるか分かったものではありません。安心できるのはお義母様がいらっしゃるここだけなのです」

 昨夜、額に火傷を負ったエリオットを執事に回収させ、扉の鍵を新しく付け替えるよう命じた。
 そうしないと、いつまた奴が部屋に侵入してくるかと不安で仕方ない。
 しかしながら、鍵の付け替えが完了するまでには時間を要する。
 それまでは、比較的安全と見込んだ義母の住む別邸に身を寄せようと考え、こうして足を運んだ次第である。

「まあ……それも、そうね……」

 いくら夫とはいえ、最初にあんないざこざを起こした相手。
 愛情も信頼も失われた相手に、夜半、部屋へ踏み込まれてはさすがのセシリアも恐怖を覚えるに違いない。

「もし、また寝ている間に侵入されたらと思うと……怖くて。今度は手加減せず殺ってしまいそうで……」

「え? 怖いって、そっち?」

 男に侵入された恐怖というよりも、自分の力が制御できそうにないことを恐れるセシリアに呆気にとられた。
 なんだ、その明らかに強者特有の発言は……。

「お願いします、お義母様! 私にはもう頼れる人がお義母様しかいないんです!」

「いやまあ……別にいいけど。貴女がその台詞を言うのは違和感が凄いわね……」

 言っていることは間違いないし、エリオットを信用できない気持ちも分かる。
 なのに、その台詞をセシリアが言うと物凄い違和感がある。
 力と言葉でだいたいどうにか出来る強者が、力も言葉も弱い自分を頼るという違和感が……。


 ひとまずセシリアを邸内へ迎え入れたイザベラは、自ら紅茶を淹れて振る舞った。
 セシリアは「いただきます」と言ってカップを手に取り、優雅な仕草で紅茶を口に運ぶ。

「とても美味しいです……」

 そう言って柔らかく笑う彼女の姿はまさに気品あふれる貴婦人そのものだ。
 とてもじゃないが、家令を一撃で床に沈め、エリオットに銃口を突きつけた猛者とは思えない。

「それにしても、貴女も災難だったわね」

 彼女が立ちはだかる壁を力で切り抜ける猛者だったとしても、彼女が普通は体験しないような散々な目に遭ってきたのは確かだ。
 それらはエリオットと結婚さえしなければ経験せずにすんだこと。彼女はここに嫁いでから災難にばかり見舞われている。

「ええ、本当に……。どこを、とは言いませんけど、物理的に潰してやればよかったです」

 イザベラも「どこを?」とは聞かなかった。聞かなくても大体分かる。
 そして、それを難なくやってのけるのがセシリアという人間である。
 そんな彼女がやらなかっただけ偉いと思う。

「おおかた、キャサリン様との接触が避けられないからと、無理やり私を手籠めにしようとしたのだと思います。純潔を失ってしまえば離婚しにくいだろうと考えたのでしょうが……私を馬鹿にするにもほどがあります」

 セシリアの怒りはもっともだ。婚姻継続の条件として、半年間は寝室を共にしないと定めたにも関わらず簡単に破ろうとしたのだから。
 
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