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イノシシではないのですから
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「それをしたのは貴女のご息女だと分かったうえでのご発言ですか……? いい度胸をしていますね……」
怒気がゆらりと立ちのぼるようなセシリアの恐ろしい形相に、夫人は思わず喉まで悲鳴がこみ上げた。
「いっ、いえっ! そんなつもりでは……」
「ではどんなつもりなのか……と言いたいところですが、今は止めておきましょう。ご指摘通り、初夜に花嫁を放置して元婚約者に会いに行くような、非常識で無配慮で人の心を理解する気のない屑男にはとうに愛想をつかしております。しかしながら……もし、初夜に何処かの誰かが余計な真似さえしなければ、私はエリオット様と普通の夫婦関係を結べていたかもしれませんわね……」
言外に「誰のせいだと思ってんだ」と非難すれば、夫人は真っ青な顔で俯いている。
言われても仕方のないことをしたのはそちらなのに、今さらそんな表情を向けられても……セシリアは冷めた気持ちで相手を見返した。
「ちなみに、それを企てたのはキャサリン様ですか? それともあなたの入れ知恵?」
「違いますっ……! あれは、主人が……」
「主人……オニキス子爵が? そう……」
公爵から釘を刺されたにも関わらず、めげずに本邸へと突撃してくるキャサリンの話を聞いて違和感を覚えてはいた。格上の相手、しかも貴族としては最高位の相手に注意されたのなら聞き入れるもの。だというのに、娘を野放しにしているということは両親のどちらかが娘に甘く、大して止めるつもりもないのかもしれない。
そう考えていたのだが、まさか両親のどちらも娘に甘いとは……。
それでも娘可愛さで格上の公爵に盾突くなんて、家を潰すつもりだろうかと正気を疑う。
「はっきり申し上げまして、イカれておりますわ。結婚式の日に花婿を呼びつけるなんて正気とは思えません」
ひどく冷たいセシリアの声音に夫人は涙目で「す、すみません……」と謝罪した。
猛々しい彼女すらひと睨みで平伏させるほど、セシリアの迫力は圧倒的だった。
「……まあ、いいでしょう。過ぎたことを言ってもどうにもなりません。それより、ご息女をエリオット様に嫁がせたいのでしたら、ご自分達でどうにかなさってください。私がどうこうすることはできませんから」
「え? でも……どうにかとは、どうすれば……」
「そう難しいことではございません。エリオット様がキャサリン様と何らかの形で接触した時点で、私達の離婚は確定します。……ここまで言えば、もうお分かりですね?」
私達を離婚させたいなら、どうにかして娘をエリオットに接触させればいい。
暗にそう伝えると、目の前の女は難しそうな顔で戸惑っていた。
「けど……、キャサリンはガーネット侯爵に会おうとしてもここの使用人達に止められてしまうと……」
「正面から堂々と会いにくればそうなるでしょう。まったく……イノシシではないのですから、真正面からぶつかる以外の方法でも考えたらいかが? 貴族なのですから人を使ってどうにかなさい。結婚式の時だってそうしたのですから」
娘を侮辱され、一瞬悔しそうな表情を浮かべた夫人だったが、セシリアの助言には納得したような顔をしている。
「使用人達は当主夫妻が離婚しないよう、エリオット様にキャサリン様を近づけないようにしています。ですが、その親である貴女はその対象ではございません。むしろ、彼等は貴女を怖がっているようですので……存分にそれを利用したらいかが?」
悪人のような顔で嗤うセシリアから「お前は使用人から怖がられている」ようなことを言われ、夫人は複雑な気持ちになった。たぶん、自分よりも、この威圧感たっぷりの女主人のほうが怖がられているだろうから。
「……帰って主人と相談します」
それだけ言い残すとオニキス子爵夫人はフラフラとした足取りで部屋から出て行った。
そういえばここでの会話を口外しないように言うのを忘れたが、何かあったら「そんなことは言っていない」と誤魔化せばいいかとセシリアはテーブルの上にある冷めたお茶を口にした。
怒気がゆらりと立ちのぼるようなセシリアの恐ろしい形相に、夫人は思わず喉まで悲鳴がこみ上げた。
「いっ、いえっ! そんなつもりでは……」
「ではどんなつもりなのか……と言いたいところですが、今は止めておきましょう。ご指摘通り、初夜に花嫁を放置して元婚約者に会いに行くような、非常識で無配慮で人の心を理解する気のない屑男にはとうに愛想をつかしております。しかしながら……もし、初夜に何処かの誰かが余計な真似さえしなければ、私はエリオット様と普通の夫婦関係を結べていたかもしれませんわね……」
言外に「誰のせいだと思ってんだ」と非難すれば、夫人は真っ青な顔で俯いている。
言われても仕方のないことをしたのはそちらなのに、今さらそんな表情を向けられても……セシリアは冷めた気持ちで相手を見返した。
「ちなみに、それを企てたのはキャサリン様ですか? それともあなたの入れ知恵?」
「違いますっ……! あれは、主人が……」
「主人……オニキス子爵が? そう……」
公爵から釘を刺されたにも関わらず、めげずに本邸へと突撃してくるキャサリンの話を聞いて違和感を覚えてはいた。格上の相手、しかも貴族としては最高位の相手に注意されたのなら聞き入れるもの。だというのに、娘を野放しにしているということは両親のどちらかが娘に甘く、大して止めるつもりもないのかもしれない。
そう考えていたのだが、まさか両親のどちらも娘に甘いとは……。
それでも娘可愛さで格上の公爵に盾突くなんて、家を潰すつもりだろうかと正気を疑う。
「はっきり申し上げまして、イカれておりますわ。結婚式の日に花婿を呼びつけるなんて正気とは思えません」
ひどく冷たいセシリアの声音に夫人は涙目で「す、すみません……」と謝罪した。
猛々しい彼女すらひと睨みで平伏させるほど、セシリアの迫力は圧倒的だった。
「……まあ、いいでしょう。過ぎたことを言ってもどうにもなりません。それより、ご息女をエリオット様に嫁がせたいのでしたら、ご自分達でどうにかなさってください。私がどうこうすることはできませんから」
「え? でも……どうにかとは、どうすれば……」
「そう難しいことではございません。エリオット様がキャサリン様と何らかの形で接触した時点で、私達の離婚は確定します。……ここまで言えば、もうお分かりですね?」
私達を離婚させたいなら、どうにかして娘をエリオットに接触させればいい。
暗にそう伝えると、目の前の女は難しそうな顔で戸惑っていた。
「けど……、キャサリンはガーネット侯爵に会おうとしてもここの使用人達に止められてしまうと……」
「正面から堂々と会いにくればそうなるでしょう。まったく……イノシシではないのですから、真正面からぶつかる以外の方法でも考えたらいかが? 貴族なのですから人を使ってどうにかなさい。結婚式の時だってそうしたのですから」
娘を侮辱され、一瞬悔しそうな表情を浮かべた夫人だったが、セシリアの助言には納得したような顔をしている。
「使用人達は当主夫妻が離婚しないよう、エリオット様にキャサリン様を近づけないようにしています。ですが、その親である貴女はその対象ではございません。むしろ、彼等は貴女を怖がっているようですので……存分にそれを利用したらいかが?」
悪人のような顔で嗤うセシリアから「お前は使用人から怖がられている」ようなことを言われ、夫人は複雑な気持ちになった。たぶん、自分よりも、この威圧感たっぷりの女主人のほうが怖がられているだろうから。
「……帰って主人と相談します」
それだけ言い残すとオニキス子爵夫人はフラフラとした足取りで部屋から出て行った。
そういえばここでの会話を口外しないように言うのを忘れたが、何かあったら「そんなことは言っていない」と誤魔化せばいいかとセシリアはテーブルの上にある冷めたお茶を口にした。
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