初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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その例えは悪意がある

「そもそも、ご息女の方から婚約の解消を申し出られたのですよね? その件についてはどうお考えで?」

「いや……それは……」

「それも『お義母様が邸にいるのが嫌』という理由で。……不思議に思ったのですが、それは婚約当初から分かっていたことではないのですか? どうして結婚寸前になって騒ぎ出したのです?」

  気まずさのあまり顔を背けたい衝動に駆られた子爵夫人だが、じっと見つめてくるセシリアの強いまなざしから逃れられなかった。目を逸らしてしまえば間違いなくそれを指摘されそうで怖い。

「……あんなに、若いとは……知らなかったみたいで……」

 絞り出すような夫人の言葉にセシリアは「なるほど」と呟いた。

「つまり、義母というからには自分の母親と同年代位の女性を想像していたと? それが蓋を開けてみたら、若いわ美人だわ色気が凄いわで、自信喪失してしまったと。それで、あんなにも美しい血の繋がらない若い義理の母がいたら、エリオット様も道を外してしまう……とでも思ったのですか?」

 夫人は目を見開いて驚いた。それは確かに娘が自分に泣きながら打ち明けてくれた婚約解消の理由。
 それをどうして何も知らないはずの彼女が先程の一言だけでそこまで察したのかと驚愕した。

「どうしてそれを……という顔をなさっておりますね。分かりますよ、キャサリン様は精神弱そうですし、被害妄想も強そうでしたもの。……それにしても、お義母様よりもブスだからとお嘆きになることはなかったのに。エリオット様はお義母様にそういった感情はないようですし、キャサリン様のことは気に入っていらっしゃったのですから」

「いや……あんた、人の娘をブスって……」

「私がそう思ったのではなく、キャサリン様が自分をそう思ったから言ったまでです。私個人としては彼女は可愛らしいお顔をしていると思っていますよ? 野に咲く花には野に咲く花の良さがあるのですから、温室で庭師に丁寧に育てられた一輪の見事な薔薇と比べて落ち込まなくてもよろしいのに……」

「その例えは悪意があるわよね……!?」

 聞かなくてもどちららがどちらを例えているかなんて丸わかりだ。
 そしてその例えで気にするなと言うのは無理がある。むしろ、お前の娘はその程度という悪意を感じる。

「私が言いたいのは、最初からキャサリン様がグズったりしなければ、私が嫁ぐことはなかったということですよ。グズったせいで好きな男が別の女と結婚してしまったわけです。それはきちんと理解しておりますか?」

「わ、わかっているわ……それくらい。でも、娘は本当に婚約を解消したかったわけじゃ……」

「ええ、本当は婚約解消を盾にお義母様を邸から追い出してもらうつもりだったのでしょう? 結果としてそれは悪手だったわけですが……」

 もうこちらが話す必要はないんじゃないか、というくらいセシリアはここにいないキャサリンの本心を的確に当ててくる。心を読まれているのかと思う位の正確さにオニキス子爵夫人は考えるのさえ恐ろしくなった。

「そこら辺は母親である貴女の方からきちんと反省させてくださいね。下手な方法しか出来ないのであれば、相手の心を試すような真似をさせないように、しっかり言い聞かせてください」

「………………はい」

 反論する気も失せるほどその通りだった。
 セシリアに指摘されたことで、娘の行動がようやく客観的に見えてきた。

 相手をうまく操れるほどの才覚もないくせに、キャサリンは何かを盾にして、相手を自分の意のままにしようとした。それは誰がどう見ても悪手でしかない。

「よろしいでしょう。では、話を戻します。娘さんの願いを叶えるには、どうすればいいと思いますか?」

「どうって……それは……」

 オニキス子爵夫人が何か言いたげに視線を送るのを見て、セシリアは深いため息をつく。

「私が身を引けばいい……などと単純に考えるのはお止めください。こちらもガーネット公爵閣下の手前、そう簡単に離婚なんて出来ないのですから」

 こちらの思惑を見透かされ、言葉にする前にあっさり否定されて夫人は肩を落とした。
 貴族同士の離婚が簡単でないことくらいは夫人も理解しているつもりだが、それでも小娘相手なら少し脅せば言う事を聞いてくれるだろうという自信があったのだ。

 だが、実際はどうだ。脅すどころか、初手から脅され今や完全に相手に場を支配されている。
 しかしながらこの状況を打破する方法も見つからない。というか、恐怖で頭が上手く回らないのだ。

 それでも娘の為にここで引くわけにはいかない、となけなしの勇気を振り絞って夫人は口を開いた。

「でも……あんた、いえ……ガーネット侯爵夫人はそれでよろしいのですか? 初夜に花嫁を放置するような夫、あなたに必要でしょうか?」

 相手の感情を揺さぶるつもりで言った言葉だったが、それを口にした途端、セシリアの顔に怒りの色がにじみ出た。

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