初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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良心が咎めるので

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「あの小娘の再教育を君が……? セシリア嬢、それは何故だ?」

 本妻が浮気相手の教育をするなど有り得ない、と公爵は問いかけた。

「5歳児の方がまだしっかりした礼儀作法を心得ているというほど、マナーがなっていないキャサリン様に後任を任せるのは、私としても不安を感じざるを得ません。なので、キャサリン様が侯爵夫人の器足りえるまで私が責任もってしっかり教育いたします。期間は……そうですね、おそらく離婚が成立するには三か月ほどかかるでしょうし、それまでに彼女をガーネット侯爵夫人として相応しい淑女にしてみせますわ」

「なんと……そこまでしてくれるとは! しかし、申し出は大変ありがたいが……君にそこまでの負担をかけるわけにはいかない。非常識で無責任な浮気男を紹介してしまったうえに、君には多大な苦労をかけてしまった。こちらは平身低頭で詫びる立場であるのに、これ以上君の厚意に甘えるわけにはいかない。小娘の教育はこちらで厳しい教師を宛がっておくから心配しないでくれ」

「いいえ公爵様、これは私なりのです。当家に相応しくあるよう後任をのは現ガーネット侯爵夫人である私の務めにございます」

 セシリアの静かだが一歩も引かない気迫に公爵は息を呑んだ。
 それと同時に、そこまでガーネット侯爵家を案じてくれるのかと感動で涙が滲む。

「……分かった。君の厚意に心より感謝申し上げる。思うままにやってくれて構わない。全責任は儂がとろう」

 再びハンカチでそっと目尻を拭う公爵にセシリアはホッとした。
 離婚後、この家がどうなろうと知ったことではないと思っていた。けれど、領民と直接接した後ではそうも割り切れず良心が咎める。

 最初は、何もできないキャサリンが新たな侯爵夫人になったところで、結局はエリオットの恥になるだけだと思っていた。でも、それだけで済むものではないと、領地に足を運んで初めて気づかされたのだ。
 当主の妻とは、有事の際は領主の代理を務める重要な存在。そんな責任ある立場を泣いて喚いてエリオットに縋るしか能のない女にこのまま丸投げするわけにはいかない。自らの手でキャサリンを使にまで鍛え上げ、自らの目でそれを確認しなくてはそれこそ無責任というもの。

 たとえ再教育によってエリオットが有能な人物になったとしても、妻が足を引っ張るようでは、領民に悪影響が及ぶ恐れがある。無関係の彼等に被害が及ぶなど、あっていいはずがない。

「ありがとうございます。それでは、早速明日から指導を始めたいと思いますので、キャサリン様には当家へお越しいただくよう、オニキス子爵家にお伝えください」

「え、明日から? 急すぎやしないか……?」

「そんなことはございません。キャサリン様のご様子を拝見するに、むしろ遅いくらいかと存じます。本来であれば本日から指導を始めたいところですが、先方にもご準備があるかと存じますので、こちらとしては配慮のうえ、明日からといたしました」

「……ふむ、それもそうだな。分かった、先方には明日こちらに小娘を連れてくるよう言っておく。苦労をかけてすまないな、セシリア嬢。他に出来ることがあれば何でも言ってくれ」

「お心遣いありがとうございます。それでは、早急に離婚の手続きをお願いします。それと、本日よりエリオット様の指導もお願いいたします」

 その発言にそれまで黙っていたエリオットが「え!?」と驚きの声を上げる。

「待ってくれ、セシリア! 今からって……それは急すぎるだろ? それに、災害復興の指示もまだ終わってないんだぞ!」

「まあ……寝言は寝てからおっしゃってくださいませ。ろくに指示も出さずにキャサリン様のもとへ駆けつけたのはどこのどなた? 後のことは私と代官とでやりますのでお構いなく」

 暗に戦力外であると告げられたエリオットは今さらながら自分のしたことを後悔した。
 セシリアは、もう自分に何の期待もしていない。当然の報いとはいえ、妻から完全に見限られた事実は彼の心に深く突き刺さった。

「セ、セシリア…………」

 情けなくセシリアへ縋りつこうとしたエリオットだが、それは渋い顔をした公爵に止められた。
 公爵は「今更遅い」とばかりに睨みつけ、静かに首を振る。

「それではこの馬鹿は儂が責任もって公爵家へ連れて帰る。離婚の手続きが終わるまでには立派な当主へと変えてみせるから安心してくれ。それと代官を寄越すまでの代理として儂の執事を置いていく。災害の復興に役立ててくれ」

 公爵が後ろに控える執事に視線を送ると、老執事は黙って深く頭を下げた。

「ありがとうございます、公爵様。それではよろしくお願いします」

 頷いた公爵はエリオットの首根っこを掴み、引きずるようにして侯爵邸を後にした。
 セシリアは清々しい気持ちで残された老執事と共に領地の復興へと取り掛かるのだった。
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