やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち

文字の大きさ
23 / 28

お伽噺(キアラ視点)

しおりを挟む
「奥様、先程のローレン嬢のお話……。 “青薔薇の魔女”の話に似てますね……?」

 邸へ戻る馬車の中、専属メイドのノーラが私にそう問いかけた。

 ノーラはローレン嬢の邸で私の傍に控えていたおり、当然会話も耳にしている。
 その話が私と彼女がよく知るお伽噺に類似していると思ったのだろう。

「貴女もそう思った? やっぱりそうよね。ローレン嬢のあの話……幼い頃に乳母から聞いたお伽噺にそっくりだったわ」

 ノーラと私は乳姉妹だ。
 彼女の母である乳母は幼い頃あるお伽噺を聞かせてくれたのを覚えている。それが“青薔薇の魔女”の話だ。

「あの話って確か……若い女と浮気した男が魔女から報復を受け、今も罰を受けて彷徨っている。という内容だったわよね?」

「奥様、それは端折り過ぎです。まあ、おおまかに言えばそんな話ですけども」

 あまりにもザックリとしか覚えていない私のためにノーラが再度お伽噺の内容を教えてくれた。
 彼女の語り口調は乳母によく似ており、幼い頃にそれを聞いた記憶が呼び覚まされる。

『昔々、あるところにとても美しい魔女がおりました。魔女は青い髪、青い瞳を持ち、薔薇のように華やかな美貌をしていたので、皆から青薔薇の魔女と呼ばれておりました――』

「ああ、段々思い出してきたわ。この魔女って、魔女という割にはすごく優しい女性なのよね? 村人の病を治療したり、日照りから村を救ったりと」

「そうそう、病の夫にも献身的に尽くす良い妻なんですよね。でもこの夫が物凄くクズで、子供心ながらに憤慨した記憶がありますよ」

 二人でこのお伽噺を聞いてはこのクズ夫の場面で怒っていたものだ。懐かしい。
 私がそれを思い出し、笑みを零すとノーラはそのまま話を続けた。

『魔女は夫の病を治すため、日夜薬の研究に明け暮れ、そしてついに治療薬を完成させたのです。でもその頃には魔女もすっかり年をとり、かつての美貌は衰えてしまいました。そして病が完治した夫は魔女を捨て、村の若い娘と駆け落ちしてしまいました―――』

「清々しいほどのクズぶりよね。長年患ってた病を治してくれたうえ、ずっと自分を看病してくれたのよ? 普通だったら感謝して、今度は自分が死ぬまで妻を大切にしよう、と思うものじゃない? それを年取って美貌が衰えたからって捨てる、普通?」

「普通じゃしませんよ、そんなクズ極まれりな行動なんて。……でもなんか、この夫と旦那様ってちょっと似てません? 妻が綺麗じゃなくなったから捨てる、というあたりが……」

「あー……確かにそうね。旦那様はローレン嬢を捨てたんじゃなくて、自分が捨てられたんだけども……。でも尽くした妻への恩を仇で返すあたりはそっくりね」

 デイビットから自分は一度人生をやり直しているという話を聞いたとき、最初に感じたのは不快感、そして次に感じたのは軽蔑だった。
 
 水仕事一つしたことがない貴族令嬢が、それをやらざるを得ない状況に追い込まれるということがどれだけ辛いか。幼い頃から着飾る事が当然だった彼女達がそれを出来ないことがどれだけ恥ずかしいか、彼は全く理解していなかった。

 それでも文句も言わずに尽くしてくれた妻を、綺麗じゃなくなったからといって蔑むなど、どれだけ性根が腐っているのか。そこは感謝して妻の存在を有難がるものだろう。

「それでこの後、魔女が浮気相手と夫に報復するのよね。彼等の若さを奪い、魔女は若返りかつての美貌を取り戻すの」

「そうそう、そのくだりは幼心にざまあみろと思いましたよ。それで恐れをなした夫が必死で許しを請うも魔女は決して許さず、二人にを与えるんですよね」

「そうそう、浮気相手を自分に模した像に変え、夫には不死の呪いをかけるの。それで一生魔女の為に“若さ”を捧げ続けるのよね」

『村娘と夫から若さを奪い、かつての美貌を取り戻した魔女は喜び、もう二度とこの美しさを衰えさせたくないと願いました。なので、夫に命じるのです。妾の為に人間から“若さ”を奪ってきなさい、と―――』

 魔女の夫が彼女を捨てる際、何と言ったかは分からない。
 だが妻から受けた恩を忘れて他の女と駆け落ちするするような男のこと、きっとろくでもない台詞を吐いたのだろう。

 それこそデイビットがローレン嬢に投げかけた言葉と同じように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

処理中です...