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知らなかったの?
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「ディアナ……いったいどうしたというんだ? 君はもっと大人しく……慎ましい女性だったじゃないか?」
「はい? 貴方がわたくしをどう見ていたかは知りませんが、今はそんな話はしておりませんわ。お金を強請りに来るのは困ると申しているのです。もう貴族ではないのですから、きちんと働いてお金を稼ぎませんと。乞食行為ばかりしては、ドリスさんに呆れられてしまいますよ?」
「は……? 僕が貴族ではない? どういうことだ!?」
「どうもこうも……アルバン子爵家はお取り潰しになりましたもの。ならその家の子息である貴方はもう貴族じゃありませんよね?」
「なっ……アルバン子爵家が取り潰し!? そんな……どうして……」
「どうしても何も、陛下が決めたことですもの。仕方ないんじゃありませんこと?」
「陛下が……? どうして陛下が我が家を……?」
「まあ、簡単に言えばアルバン子爵家は教会から破門宣告を受けたからですね。教会から見放された貴族が爵位を保てるわけもないですから」
「は、はもん……? 教会が? なんでそんな……嘘だ!」
生家が取り潰されたことがよほど衝撃だったのか、エーリックは虚ろな表情でディアナを見上げる。
ディアナはそんな彼を何の感情もない顔で一瞥した。
「信じないのは結構ですけど、ここに来られるのは困るんですよ。もうわたくしは貴方と何の関係もないですし……」
「関係ないだって……? 君と僕はそんな簡単に切れてしまうような関係だったのか?」
「……? 仰っている意味がよく分かりませんわ? わたくしは貴方と関係を深めた覚えはございません。婚約中も会ったのは2度ほどでしたし、そちらの家にお邪魔したこともありませんしね」
そのディアナの言葉にエーリックはハッとなった。
アルバン子爵家には最愛のドリスがいたから。
婚約者という存在を、彼女は嫌がるだろうから敢えて邸には招待しなかった。
そのことについてディアナは特に何も言わなかったが……実はそれを不満に思っていたのだろうか……?
「ご、ごめん……その、邸にはドリスがいたから……」
「ええ、存じております。よいのですよ、こちらも貴方と必要以上に仲を深める気もありませんでしたし」
「え……? いま、なんて……」
ディアナが何気なく呟いた言葉にエーリックは耳を疑った。
聞き間違いでなければ、今彼女は自分と仲を深めるつもりはなかったと言わなかったか?
だがディアナはそんなエーリックの質問に答えず「それにしても」と話を変えた。
「貴方の家も大概ですよね。当家から多額の融資を受けておきながら、わたくしをぞんざいに扱うんですもの。恩知らずにも程がありますわ。そんな家に嫁がなくてすんだのですもの、ドリスさんにはむしろ感謝したいくらいです」
アルバン元子爵家はディアナに対して何の気遣いもしてこなかった。
邸に招いてもてなすことも、彼女が嫁入りする前に息子の恋人をどうにかすることも。
融資をされておいてとんだ恩知らずだ。あの両親にしてこの子ありとはまさにこのこと。
どちらもディアナ及びセレネ伯爵家への気遣いが全くない。
「え? 融資? 我が家が?」
「あら、知らなかったんですの? アルバン子爵家の財政状況なんて火の車でしたのよ?」
「そんなの知らない! 僕は昔から金に困ったことなどないぞ!?」
「まあ借金を重ねて体裁を整えていたようですから。当家が融資しないことには貴方の代で潰れるところでした。まあそれより早く潰れてしまったようですけど……」
項垂れるエーリックを見てディアナは呆れた。
よくも自分の家の財政状況も知らずに後継者を名乗れたものだと。
「……もうお帰り下さい。ここに来ても貴方の居場所はありません」
「そんな……僕は、これからどうすれば……」
「ドリスさんと慎ましく暮らせばよろしいのでは? 駆け落ちから数か月経っているのですもの、住んでいる家くらいはあるのでしょう?」
「いや……家はもう引き払ってしまって……」
「あら? じゃあ昨晩はどうしたんですの? 野宿でもしたのですか?」
「いや……宿をとった。その、君に貰った金で……」
「なら、宿に戻ってドリスさんと今後についてお話されたらよろしいのです。あなた方は駆け落ちまでした仲なのですから」
もう話すことはないとばかりにディアナはエーリックに背を向け、そのまま邸内へと入ってしまった。
残されたエーリックは門番によって追い出され、仕方なくトボトボとした足取りで宿まで帰っていく。
駆け落ちまでした最愛の女性が、すでに行方をくらませたことも知らずに……。
「はい? 貴方がわたくしをどう見ていたかは知りませんが、今はそんな話はしておりませんわ。お金を強請りに来るのは困ると申しているのです。もう貴族ではないのですから、きちんと働いてお金を稼ぎませんと。乞食行為ばかりしては、ドリスさんに呆れられてしまいますよ?」
「は……? 僕が貴族ではない? どういうことだ!?」
「どうもこうも……アルバン子爵家はお取り潰しになりましたもの。ならその家の子息である貴方はもう貴族じゃありませんよね?」
「なっ……アルバン子爵家が取り潰し!? そんな……どうして……」
「どうしても何も、陛下が決めたことですもの。仕方ないんじゃありませんこと?」
「陛下が……? どうして陛下が我が家を……?」
「まあ、簡単に言えばアルバン子爵家は教会から破門宣告を受けたからですね。教会から見放された貴族が爵位を保てるわけもないですから」
「は、はもん……? 教会が? なんでそんな……嘘だ!」
生家が取り潰されたことがよほど衝撃だったのか、エーリックは虚ろな表情でディアナを見上げる。
ディアナはそんな彼を何の感情もない顔で一瞥した。
「信じないのは結構ですけど、ここに来られるのは困るんですよ。もうわたくしは貴方と何の関係もないですし……」
「関係ないだって……? 君と僕はそんな簡単に切れてしまうような関係だったのか?」
「……? 仰っている意味がよく分かりませんわ? わたくしは貴方と関係を深めた覚えはございません。婚約中も会ったのは2度ほどでしたし、そちらの家にお邪魔したこともありませんしね」
そのディアナの言葉にエーリックはハッとなった。
アルバン子爵家には最愛のドリスがいたから。
婚約者という存在を、彼女は嫌がるだろうから敢えて邸には招待しなかった。
そのことについてディアナは特に何も言わなかったが……実はそれを不満に思っていたのだろうか……?
「ご、ごめん……その、邸にはドリスがいたから……」
「ええ、存じております。よいのですよ、こちらも貴方と必要以上に仲を深める気もありませんでしたし」
「え……? いま、なんて……」
ディアナが何気なく呟いた言葉にエーリックは耳を疑った。
聞き間違いでなければ、今彼女は自分と仲を深めるつもりはなかったと言わなかったか?
だがディアナはそんなエーリックの質問に答えず「それにしても」と話を変えた。
「貴方の家も大概ですよね。当家から多額の融資を受けておきながら、わたくしをぞんざいに扱うんですもの。恩知らずにも程がありますわ。そんな家に嫁がなくてすんだのですもの、ドリスさんにはむしろ感謝したいくらいです」
アルバン元子爵家はディアナに対して何の気遣いもしてこなかった。
邸に招いてもてなすことも、彼女が嫁入りする前に息子の恋人をどうにかすることも。
融資をされておいてとんだ恩知らずだ。あの両親にしてこの子ありとはまさにこのこと。
どちらもディアナ及びセレネ伯爵家への気遣いが全くない。
「え? 融資? 我が家が?」
「あら、知らなかったんですの? アルバン子爵家の財政状況なんて火の車でしたのよ?」
「そんなの知らない! 僕は昔から金に困ったことなどないぞ!?」
「まあ借金を重ねて体裁を整えていたようですから。当家が融資しないことには貴方の代で潰れるところでした。まあそれより早く潰れてしまったようですけど……」
項垂れるエーリックを見てディアナは呆れた。
よくも自分の家の財政状況も知らずに後継者を名乗れたものだと。
「……もうお帰り下さい。ここに来ても貴方の居場所はありません」
「そんな……僕は、これからどうすれば……」
「ドリスさんと慎ましく暮らせばよろしいのでは? 駆け落ちから数か月経っているのですもの、住んでいる家くらいはあるのでしょう?」
「いや……家はもう引き払ってしまって……」
「あら? じゃあ昨晩はどうしたんですの? 野宿でもしたのですか?」
「いや……宿をとった。その、君に貰った金で……」
「なら、宿に戻ってドリスさんと今後についてお話されたらよろしいのです。あなた方は駆け落ちまでした仲なのですから」
もう話すことはないとばかりにディアナはエーリックに背を向け、そのまま邸内へと入ってしまった。
残されたエーリックは門番によって追い出され、仕方なくトボトボとした足取りで宿まで帰っていく。
駆け落ちまでした最愛の女性が、すでに行方をくらませたことも知らずに……。
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