3 / 86
監禁
しおりを挟む
それから数週間、外にでることもできずジュリアーナはマーサと共に牢獄のような別邸でただ時をすごしていた。マーサは王家へこの現状を伝えようと手紙をしたためたがそれは辺境伯家の使用人によって握りつぶされ、外部と連絡する手段は一切絶たれてしまった。
「マーサ……わたくし、こんな惨めな状況はもう耐えられないわ。ああ、どうしてこんなことに……」
幸せな結婚が出来ると信じて疑わなかったのに、どうして今このような状況に置かれているのか。抗う術も見いだせない現状にジュリアーナはただ嘆くしか出来なかった。
「姫様、どうかもうしばらくのご辛抱を。しばらくすれば王家からのご連絡だってあるでしょうし、どなたかが訪ねてくることだってきっとあるはずです。 そのときが来ましたらここから逃げ出して陛下に訴えましょう!」
「ええ、そうね……。ごめんね、マーサ……貴女までこんなことに巻き込んでしまって……」
「何をおっしゃいますか。このマーサはいつまでも姫様のお傍におりますよ。巻き込まれたなどと思うわけがありません。それに悪いのはあの男です!」
マーサはそう言ってジュリアーナを励ましてくれたが、待てど暮らせど王家からの連絡はなかった。というのもどうやらダニエルが上手い具合にかわしているらしく、手紙が来てもジュリアーナの筆跡を真似て勝手に返信し、茶会や夜会の招待状も欠席の返事を出してしまう。これではいつまで経ってもここから逃げ出せやしないが、何も知らされていない二人がそれに気づくことはない。
監禁生活に段々と衰弱していく二人に更なる悲劇が待ち受けようとしていた。
「そういやお前、知っているか?」
ふと、窓の外から話し声が聞こえた。
その日は蒸し暑かったので窓を開けていたためか外の会話が室内にいてもはっきりと聞き取れる。
声がする位置から館の外を警備……もとい中にいるジュリアーナが逃げ出さないように見張っているオーガスタ家の門番かと思われる。彼等は室内に会話が聞こえていると知らずに大声で話していた。
「早朝にアニー様が産気づいたそうだぞ」
「あ~……どうりで本邸がバタバタしていると思った」
聞き捨てならない発言にジュリアーナはマーサと顔を見合わせた。
会ったことは無いがその“アニー”とやらは多分ダニエルの愛人なのだろう。
正式な妻として迎えられないあたりから察するに彼女は貴族ではないと考えられる。
その愛人が産気づいた、ということはつまりダニエルがジュリアーナに求婚した時点で愛人の腹には彼の子がいたことになる。
他の女と子を作っておきながら王家の姫に求婚するなど正気とは思えない。
ジュリアーナをこんな場所に閉じ込めたことといい、もしやダニエルは気が触れているのではないか。
とんでもない狂人に求婚されてしまったとジュリアーナは顔を青くさせた。
「しかし、いくら愛し合っているとはいえアニー様は平民、旦那様は貴族。貴族と平民との間に生まれた子に爵位の継承権はないよな?」
「無いな。それに旦那様は書類上ジュリアーナ姫様と婚姻関係にある。だからアニー様との子は婚外子だ。婚外子の存在を王家に知られたら旦那様の首が物理的に飛ぶぞ」
「うえ……怖いな。じゃあ旦那様はアニー様との子をどうするつもりなんだろうな?」
「それが……なんでも姫様との間に産まれたことにするらしいぞ。それなら継承権だって発生するからな」
「はああ? そんなの無理に決まっているじゃないか! それに赤ん坊が産まれたってんならその顔を見に王家の誰かがここに来るかもしれないだろう。それで姫様に今の状況を訴えられてみろ、下手すりゃこの家の者全員が処刑されかねないぞ?」
「ああ、だから姫様には死んでもらうそうだ……。子供を産んで儚くなったことにすれば大丈夫だろうって」
とんでもない発言にジュリアーナとマーサは息を呑んだ。
死んでもらう? 子供を産んで儚くなったことにする?
あまりにも狂った内容に脳が理解を拒む。
「はあ!? 何だよそれ? どう考えてもおかしいだろうが! だいたい嫁いで日が浅い姫様が子を産むこと自体あり得ない! 旦那様は気が触れちまったのか!?」
「おい、静かにしろ! 旦那様に聞こえちまうだろう!」
「だってどう考えたっておかしいじゃないか!? 旦那様はそんな嘘がまかり通ると本気で思ってんのか? 誰も信じねえよそんなの!」
「そんなの俺だって分かってるよ! でもな、旦那様は少しもおかしいと思わないんだよ……。分かるだろう? 本邸にいる上役の使用人は皆旦那様至上主義の連中ばっかりだ。その下の使用人がいくらまともな事を言おうが聞く耳持ちやしねえ。だから旦那様があんな……自分が世界の中心といわんばかりの自己中人間になっちまったんだ」
「ああ、あいつらか……。いや、だが……それでもこのままでいいのか? これって王家への反逆に問われるんじゃないのか?」
「……それを旦那様に言ってみろ。お前もお前の家族も切り捨てられるぞ? あの方は自分の意見が反対されることをひどく嫌う。今までだって旦那様を諫めた使用人はその場で切り捨てられたじゃないか……」
「う……それは、そうだが……このまま見過ごすってのも……。そうだ! こっそり逃がしてしまえばよくないか? 目を離した隙に逃げましたって言い訳すれば……」
「それをすれば俺達が責任を取らされるぞ……。そうなれば俺もお前も俺達の家族も旦那様に殺される。あの人は使用人の命なんて何とも思っちゃいねえ……。そうなりたくなければ大人しくするしかないんだよ」
「だが……これじゃあまりにも姫様が可哀想じゃないか? 嫁いですぐにこんな場所に閉じ込められた挙句に命まで取られるなんて……」
「そうは言ってもどうしようもないだろう……? 旦那様を止めることも姫様を逃がすことも無理だ。諦めるしかないんだよ……」
あまりにもおぞましい思惑にジュリアーナは顔面蒼白のまま膝から崩れ落ちる。
とても現実とは思えない事態に絶望し、ぼろぼろと涙を零した。
「マーサ……わたくし、こんな惨めな状況はもう耐えられないわ。ああ、どうしてこんなことに……」
幸せな結婚が出来ると信じて疑わなかったのに、どうして今このような状況に置かれているのか。抗う術も見いだせない現状にジュリアーナはただ嘆くしか出来なかった。
「姫様、どうかもうしばらくのご辛抱を。しばらくすれば王家からのご連絡だってあるでしょうし、どなたかが訪ねてくることだってきっとあるはずです。 そのときが来ましたらここから逃げ出して陛下に訴えましょう!」
「ええ、そうね……。ごめんね、マーサ……貴女までこんなことに巻き込んでしまって……」
「何をおっしゃいますか。このマーサはいつまでも姫様のお傍におりますよ。巻き込まれたなどと思うわけがありません。それに悪いのはあの男です!」
マーサはそう言ってジュリアーナを励ましてくれたが、待てど暮らせど王家からの連絡はなかった。というのもどうやらダニエルが上手い具合にかわしているらしく、手紙が来てもジュリアーナの筆跡を真似て勝手に返信し、茶会や夜会の招待状も欠席の返事を出してしまう。これではいつまで経ってもここから逃げ出せやしないが、何も知らされていない二人がそれに気づくことはない。
監禁生活に段々と衰弱していく二人に更なる悲劇が待ち受けようとしていた。
「そういやお前、知っているか?」
ふと、窓の外から話し声が聞こえた。
その日は蒸し暑かったので窓を開けていたためか外の会話が室内にいてもはっきりと聞き取れる。
声がする位置から館の外を警備……もとい中にいるジュリアーナが逃げ出さないように見張っているオーガスタ家の門番かと思われる。彼等は室内に会話が聞こえていると知らずに大声で話していた。
「早朝にアニー様が産気づいたそうだぞ」
「あ~……どうりで本邸がバタバタしていると思った」
聞き捨てならない発言にジュリアーナはマーサと顔を見合わせた。
会ったことは無いがその“アニー”とやらは多分ダニエルの愛人なのだろう。
正式な妻として迎えられないあたりから察するに彼女は貴族ではないと考えられる。
その愛人が産気づいた、ということはつまりダニエルがジュリアーナに求婚した時点で愛人の腹には彼の子がいたことになる。
他の女と子を作っておきながら王家の姫に求婚するなど正気とは思えない。
ジュリアーナをこんな場所に閉じ込めたことといい、もしやダニエルは気が触れているのではないか。
とんでもない狂人に求婚されてしまったとジュリアーナは顔を青くさせた。
「しかし、いくら愛し合っているとはいえアニー様は平民、旦那様は貴族。貴族と平民との間に生まれた子に爵位の継承権はないよな?」
「無いな。それに旦那様は書類上ジュリアーナ姫様と婚姻関係にある。だからアニー様との子は婚外子だ。婚外子の存在を王家に知られたら旦那様の首が物理的に飛ぶぞ」
「うえ……怖いな。じゃあ旦那様はアニー様との子をどうするつもりなんだろうな?」
「それが……なんでも姫様との間に産まれたことにするらしいぞ。それなら継承権だって発生するからな」
「はああ? そんなの無理に決まっているじゃないか! それに赤ん坊が産まれたってんならその顔を見に王家の誰かがここに来るかもしれないだろう。それで姫様に今の状況を訴えられてみろ、下手すりゃこの家の者全員が処刑されかねないぞ?」
「ああ、だから姫様には死んでもらうそうだ……。子供を産んで儚くなったことにすれば大丈夫だろうって」
とんでもない発言にジュリアーナとマーサは息を呑んだ。
死んでもらう? 子供を産んで儚くなったことにする?
あまりにも狂った内容に脳が理解を拒む。
「はあ!? 何だよそれ? どう考えてもおかしいだろうが! だいたい嫁いで日が浅い姫様が子を産むこと自体あり得ない! 旦那様は気が触れちまったのか!?」
「おい、静かにしろ! 旦那様に聞こえちまうだろう!」
「だってどう考えたっておかしいじゃないか!? 旦那様はそんな嘘がまかり通ると本気で思ってんのか? 誰も信じねえよそんなの!」
「そんなの俺だって分かってるよ! でもな、旦那様は少しもおかしいと思わないんだよ……。分かるだろう? 本邸にいる上役の使用人は皆旦那様至上主義の連中ばっかりだ。その下の使用人がいくらまともな事を言おうが聞く耳持ちやしねえ。だから旦那様があんな……自分が世界の中心といわんばかりの自己中人間になっちまったんだ」
「ああ、あいつらか……。いや、だが……それでもこのままでいいのか? これって王家への反逆に問われるんじゃないのか?」
「……それを旦那様に言ってみろ。お前もお前の家族も切り捨てられるぞ? あの方は自分の意見が反対されることをひどく嫌う。今までだって旦那様を諫めた使用人はその場で切り捨てられたじゃないか……」
「う……それは、そうだが……このまま見過ごすってのも……。そうだ! こっそり逃がしてしまえばよくないか? 目を離した隙に逃げましたって言い訳すれば……」
「それをすれば俺達が責任を取らされるぞ……。そうなれば俺もお前も俺達の家族も旦那様に殺される。あの人は使用人の命なんて何とも思っちゃいねえ……。そうなりたくなければ大人しくするしかないんだよ」
「だが……これじゃあまりにも姫様が可哀想じゃないか? 嫁いですぐにこんな場所に閉じ込められた挙句に命まで取られるなんて……」
「そうは言ってもどうしようもないだろう……? 旦那様を止めることも姫様を逃がすことも無理だ。諦めるしかないんだよ……」
あまりにもおぞましい思惑にジュリアーナは顔面蒼白のまま膝から崩れ落ちる。
とても現実とは思えない事態に絶望し、ぼろぼろと涙を零した。
933
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる