2 / 86
豹変
しおりを挟む
「君には本邸ではなく別邸に住んでもらう。 ここは私と愛するアニーが住む場所だ、君が足を踏み入れることは許さない」
王都にいる間ずっと熱烈に口説いてきたダニエルは、オーガスタ家に戻るなり豹変した。
蕩けるような甘い視線で見つめてくれていたのに、今の彼は虫けらを見るような蔑んだ目をジュリアーナへと向ける。愛を囁いてくれた優しい声が冷たく無機質なものへと変わり辛辣な言葉を吐く。
まるで別人かと思うような変わりようにジュリアーナは驚いて何も返せなかった。
“アニー”とは一体誰なのか、どうしてそんな態度をとるのか。
そう言いたいのにショックと恐怖で声が出ない。
何が起こったか分からずただ固まるジュリアーナにダニエルは更に酷い言葉を投げかけた。
「君は単なる“お飾り”だ。王女を娶ればうるさい親戚も口を噤む。その為だけに娶ったのだから、間違っても私に愛されようなどと思わないように」
屈辱に満ちた台詞を夫となった男に吐かれ、茫然自失となるジュリアーナ。
放心している間にオーガスタ家の騎士によって無理やり別邸へと押し込まれる。
王女として蝶よ花よと大切に育てられた彼女はこんな乱暴な扱いをされたことはない。
生まれた初めて受ける荒々しい行為に恐怖のあまり涙が溢れる。
はらはらと涙を零すジュリアーナに騎士は気まずそうに目を逸らし、別邸で待機していた中年の執事に後を頼みさっさとその場を後にした。執事は痛ましそうな視線をジュリアーナに向けたまま淡々と告げる。
「旦那様には真実の愛で結ばれたアニー様という奥様がいらっしゃいます。 お二人の邪魔をせぬようジュリアーナ姫様はこちらでお過ごしください」
「なんと無礼なっ!! こちらは畏れ多くも国王陛下の御息女ですよ? こんな扱いが許される御方ではありません! そもそも陛下がお認めになった辺境伯夫人はジュリアーナ様です! “アニー”というのがどこの者かは分かりませんが正式な奥方である姫様以外を奥様と呼ぶなんて正気ですか!?」
唖然として何も言い返せないジュリアーナに代わり、乳母のマーサが執事に向かって吠える。身一つで嫁いでくれとダニエルに言われたので、当初は誰も連れてこないつもりだったがこのマーサだけは「生涯姫様にお仕えします」とついて来てくれた
「……そうは言いましても、旦那様のご命令ですから。 ああ、それとこの別邸の門は外から鍵がかかっておりますので、外部には出られません。 逃げ出そうとしても邸の周囲は高い鉄の柵で囲ってありますので無駄だと思います。どうか大人しくなさっていてくださいね」
「姫様にこんな扱いをしていいと思っているのですか!? これは王家に対する反逆です! 国王陛下の知るところとなれば不敬罪で全員首が飛びますよ!」
「私に言われましても……。私はただ命令に従っているだけですので……」
敬い尊ばれるべき高貴な身に対しての有り得ない仕打ちにマーサは激高した。
「ふざけないでください! たかが辺境伯風情が王家の姫君を虐げるような命令を下して許されるとでも!? 処刑されたくなければ今すぐここから出しなさい!」
「はあ……騒いでも無駄ですよ。いくら王家の姫であろうとも今はオーガスタ家に嫁いだ身。であれば当主である旦那様の命令に従うのは当然ではありませんか?」
「嫁いだ身ですって? でしたらきちんと辺境伯夫人として扱うべきでしょう! 屁理屈ばかりこねるのはお止めなさい!!」
口ではマーサに敵わないと思った執事はその場からそそくさと逃げ出した。
それを追いかけるマーサだがスカートでは間に合わず目の前で扉が閉められ、ガチャリと施錠をする音が室内に響く。
閉じ込められた、と理解した瞬間ジュリアーナは全身から血の気が引きその場で膝から崩れ落ちた。
王都にいる間ずっと熱烈に口説いてきたダニエルは、オーガスタ家に戻るなり豹変した。
蕩けるような甘い視線で見つめてくれていたのに、今の彼は虫けらを見るような蔑んだ目をジュリアーナへと向ける。愛を囁いてくれた優しい声が冷たく無機質なものへと変わり辛辣な言葉を吐く。
まるで別人かと思うような変わりようにジュリアーナは驚いて何も返せなかった。
“アニー”とは一体誰なのか、どうしてそんな態度をとるのか。
そう言いたいのにショックと恐怖で声が出ない。
何が起こったか分からずただ固まるジュリアーナにダニエルは更に酷い言葉を投げかけた。
「君は単なる“お飾り”だ。王女を娶ればうるさい親戚も口を噤む。その為だけに娶ったのだから、間違っても私に愛されようなどと思わないように」
屈辱に満ちた台詞を夫となった男に吐かれ、茫然自失となるジュリアーナ。
放心している間にオーガスタ家の騎士によって無理やり別邸へと押し込まれる。
王女として蝶よ花よと大切に育てられた彼女はこんな乱暴な扱いをされたことはない。
生まれた初めて受ける荒々しい行為に恐怖のあまり涙が溢れる。
はらはらと涙を零すジュリアーナに騎士は気まずそうに目を逸らし、別邸で待機していた中年の執事に後を頼みさっさとその場を後にした。執事は痛ましそうな視線をジュリアーナに向けたまま淡々と告げる。
「旦那様には真実の愛で結ばれたアニー様という奥様がいらっしゃいます。 お二人の邪魔をせぬようジュリアーナ姫様はこちらでお過ごしください」
「なんと無礼なっ!! こちらは畏れ多くも国王陛下の御息女ですよ? こんな扱いが許される御方ではありません! そもそも陛下がお認めになった辺境伯夫人はジュリアーナ様です! “アニー”というのがどこの者かは分かりませんが正式な奥方である姫様以外を奥様と呼ぶなんて正気ですか!?」
唖然として何も言い返せないジュリアーナに代わり、乳母のマーサが執事に向かって吠える。身一つで嫁いでくれとダニエルに言われたので、当初は誰も連れてこないつもりだったがこのマーサだけは「生涯姫様にお仕えします」とついて来てくれた
「……そうは言いましても、旦那様のご命令ですから。 ああ、それとこの別邸の門は外から鍵がかかっておりますので、外部には出られません。 逃げ出そうとしても邸の周囲は高い鉄の柵で囲ってありますので無駄だと思います。どうか大人しくなさっていてくださいね」
「姫様にこんな扱いをしていいと思っているのですか!? これは王家に対する反逆です! 国王陛下の知るところとなれば不敬罪で全員首が飛びますよ!」
「私に言われましても……。私はただ命令に従っているだけですので……」
敬い尊ばれるべき高貴な身に対しての有り得ない仕打ちにマーサは激高した。
「ふざけないでください! たかが辺境伯風情が王家の姫君を虐げるような命令を下して許されるとでも!? 処刑されたくなければ今すぐここから出しなさい!」
「はあ……騒いでも無駄ですよ。いくら王家の姫であろうとも今はオーガスタ家に嫁いだ身。であれば当主である旦那様の命令に従うのは当然ではありませんか?」
「嫁いだ身ですって? でしたらきちんと辺境伯夫人として扱うべきでしょう! 屁理屈ばかりこねるのはお止めなさい!!」
口ではマーサに敵わないと思った執事はその場からそそくさと逃げ出した。
それを追いかけるマーサだがスカートでは間に合わず目の前で扉が閉められ、ガチャリと施錠をする音が室内に響く。
閉じ込められた、と理解した瞬間ジュリアーナは全身から血の気が引きその場で膝から崩れ落ちた。
959
あなたにおすすめの小説
「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜
水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」
効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。
彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。
だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。
彼に残した書き置きは一通のみ。
クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。
これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる