やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

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鏡の中の青年

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「ジュリアーナ……本当にあのような男と婚約するのか? 今ならまだ撤回も可能だぞ?」

 その日の晩餐で父はジュリアーナにダニエルとの婚約に異を唱えた。
 前回はこんな風に言われたことなどなかったはずだが、それはおそらくジュリアーナが婚約に浮かれていたからだろう。娘が嬉しそうにしているのに水を差すようなことは言えないという父の優しさと配慮からそうなったのだと思う。

「いえ、撤回はしません。公の場で求婚を受けたのですもの、婚約は致します」

「だが……あの男がお前の夫になるのは不安しかない。どうも気が利かないうえに配慮が無い。そういった男がお前を幸せにしてくれるとはとても思えん」

 それはその通り。幸せどころか不幸せで屈辱的な目に遭わされたのだから。

「陛下のおっしゃる通りですよ、ジュリアーナ。だいたい戦勝の褒美に王家の姫を望むなど無礼にもほどがあります。身の程というものを弁えない者が立派な夫になれるとは到底思えません。辺境伯風情がなんと不敬な……」

 怒りに満ちた母が晩餐のチキンソテーにブスっとフォークを刺す。
 プライドの高い母が自分の娘を自分よりも身分の低い者にまるで物のように扱われて不満を抱かないはずもなかった。

 両親の態度から前回もダニエルとの結婚には思うところがあったのだと分かる。
 それでもジュリアーナが幸せそうに浮かれていたから水を差すまいと黙ってくれていたのかもしれない。

 つくづくどうしてあんな男にホイホイ引っかかってついて行ってしまったのか。
 馬鹿すぎる自分が恥ずかしくてたまらない。
 そのせいでマーサが……

「ジュリアーナ?」

 自然と涙が滲み、それが母に見つかってしまった。
 誤魔化すようにジュリアーナは「何でもありませんわ」と微笑み、話題を逸らす。

「婚約はしますが、結婚をする気はありませんのでご安心を。わたくしがオーガスタ伯と婚約いたしましたのは彼のを耳にし、それを確かめようとしたからです」

「よからぬ噂ですって?」

「ええ。オーガスタ伯は先の戦でと耳にしました。それだけではなく、とある女性を身籠らせて邸に匿っているらしいです」

「何ですって!? 孕ませた女がいながら貴女に求婚したというの?」

「何だと!? 他人の功績を横取り? それが本当だとしたら騎士として最も恥ずべき行為だ!」

 父母が同じような台詞を叫ぶが、どちらに反応したかは別だ。
 おそらく父は前半部分を、母は後半部分を。

「それは本当か? だとしたら授与した勲章も取り下げ厳しく罰せねばならん。おまけにそんな不誠実な行いをしたうえでお前を娶りたいなどとは言語道断だ! 場合によっては爵位剥奪も有り得るぞ」

「その証拠を掴むために婚約いたしました。とある者の密告によりオーガスタ伯がわたくしに求婚してくることは分かっておりましたから」

「事前に分かっていたというわけか? しかし……その密告は信用に値するものなのか? お前を騙す為にわざと嘘をついている可能性もある。その密告者は本当に信頼できる者か?」

「ええ、勿論です。ご安心ください」

 これは嘘だ。密告者など存在しない。
 ダニエルが求婚してくることも、孕ませた女が邸にいることもジュリアーナ自身がやり直し前に知り得たこと。

 そして“他人の功績を横取りした”と言う部分は、これから真実にしようと画策していることだ。

(あんな男を“英雄”として歴史に名を刻むなどさせてやるものですか……。その名声ごと地に落としてやるわ)

 これからジュリアーナがやろうとしていることは以前の彼女では考えつかなかったほど汚く狡猾なこと。それでもいい。どれだけ手を汚したって必ずあの男を地獄に叩き落すと心に決めたのだから。

 晩餐を終え、自室に戻ってきたジュリアーナは椅子に座り一息ついた。
 ようやく復讐の一歩を踏み出すことが出来た。その達成感と今更後戻りできない状況に自然と体が震える。

「ん…………?」

 ふと、部屋の隅の方に何か光るものが見えた。
 気になって確かめようとそちらに向かうと、全身を映す為の姿見が仄かな光を放っている。

 ジュリアーナはその現象に対して驚きもせず、光り輝く姿見の鏡面にそっと触れる。
 すると光が消え、鏡の中にえもいわれぬ美青年が映し出された。

「こんばんは、姫君。いい夜だね」

 鏡の中の美青年が妖しい笑みを浮かべ話しかける。
 普通ではあり得ない現象だがジュリアーナは表情一つ変えぬまま挨拶を返した。

「こんばんは、。ええ、素敵な夜ですこと」

 洗練された優美な礼をとるジュリアーナ。
 そんな彼女を鏡の中の青年は満足そうに眺めていた。
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