やりなおしジュリアーナ姫の復讐劇

わらびもち

文字の大きさ
54 / 86

アニーの出産

しおりを挟む
 さて、オーガスタ家本邸にてジュリアーナと夫人が密談している時と同じ時刻、人里離れた邸では新たな命が誕生していた。

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」

 白衣を身に着けた産婆がおくるみに包まれた玉のような赤子をダニエルへと手渡す。

「これが……私の息子か。なんて可愛いんだ……! なあ、そう思わないか?」

 幼き命を腕に抱き、感動で涙を零すダニエルは傍らにいる乳母へと同意を求めた。

「ええ、ええ……なんと可愛らしい。坊ちゃまの赤ん坊の頃に瓜二つでございます……」

 父親の腕に抱かれて元気よく泣く赤子に目を細める乳母。
 家令からダニエルをもうアニーと会わせるなときつく言われはしたものの、やはり自分の子が産まれる瞬間には立ち会いたいだろうとそのいいつけを破ってしまった。

 本日の早朝、この邸の使用人からアニーが産気づいたとの報せを家令から伝えられた乳母はこっそりとダニエルへ知らせてしまったのだ。家令はダニエルの代わりに乳母がアニーと子の様子を見に行くよう言ったつもりで、ダニエル自身に伝えろとは一言もいっていない。完全な独断行動だ。

「アニーは無事か? アニーはどうしている?」

「無事ですのでご安心ください。出産でお疲れになったようで今は眠っておられます」

 初めての出産で疲労困憊となったアニーは産まれた赤ん坊の顔を見た瞬間倒れるように眠りについた。母子共に無事だと聞きダニエルはホッと胸を撫でおろす。

「そうか……よかった。アニーを労ってやりたかったが少し用事があるのでな。悪いが後は頼んでいいか?」

 乳母に赤子を手渡しながら頼むと、彼女は「お任せください」と返す。
 腕に感じる小さな命に在りし日のダニエルを重ねて。

 ダニエルを見送った後、乳母は泣きつかれてすやすやと眠る赤子を新生児用ベッドへと寝かせた。

「本当に、なんて可愛らしい……」

 愛らしい寝顔を前に乳母は胸が痛んだ。
 もし、この子が愛人ではなく正妻から産まれたのであれば間違いなくオーガスタ辺境伯家の嫡男となっていたことだろう。婚姻関係にない平民の母親から産まれたこの子は庶子として扱われ、オーガスタ家の家系図にも載らない。

 それに近いうちにこの子は母親と共にここを追い出され、平民として慎ましく暮らさなければいけなくなる。こんなにも父親の血を濃く受け継いだオーガスタ家の子が、ダニエルそっくりのこの子が平民として生きていかなくてはならない。乳母はそのことに憤りを覚えたが、こんなことを考えてはいけないと頭を振った。

 赤子の傍を離れ、アニーのいる部屋へと向かう。
 整えられたベッドの上には疲れ切った顔のアニーが横たわっていた。

(なんて寝顔かしら……。に育てられたら坊ちゃまそっくりのあの子まで貧乏くさくなってしまうわ……)

 アニーの寝顔を見ていた乳母の胸に不意にドス黒い感情が湧き上がった。

 そもそもこの女が平民の分際で分不相応にも辺境伯家当主と恋仲になったことが全ても間違い。坊ちゃまが当主の座を下ろされそうになっているのもこの女のせい。

 それまで考えないようにしていた想いが一気に膨れ上がる。
 乳母は口では「坊ちゃまが選んだ相手なら……」と言っておきながら本心ではこんな貧相な平民が分不相応にも貴族と恋仲になるなど図々しいと思っていた。

 ずっと蓋をしていた気持ちがここに来て溢れ返り、乳母はそっと寝ているアニーの首元に両手をかけた……。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

幼馴染の婚約者を馬鹿にした勘違い女の末路

今川幸乃
恋愛
ローラ・ケレットは幼馴染のクレアとパーティーに参加していた。 すると突然、厄介令嬢として名高いジュリーに絡まれ、ひたすら金持ち自慢をされる。 ローラは黙って堪えていたが、純粋なクレアはついぽろっとジュリーのドレスにケチをつけてしまう。 それを聞いたローラは顔を真っ赤にし、今度はクレアの婚約者を馬鹿にし始める。 そしてジュリー自身は貴公子と名高いアイザックという男と結ばれていると自慢を始めるが、騒ぎを聞きつけたアイザック本人が現れ…… ※短い……はず

両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。 オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。 「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」 「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」 「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」 妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。

処理中です...