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王妃様からの勧誘①
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「いらっしゃいアリスティア、よく来たわね」
「ご機嫌麗しゅうございます、王妃様。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
お父様が仰ったある人とは、なんと王妃様のことでした。
王妃様はわざわざ私をご自分の宮に招待してくださり、人払いまでしてくださいました。
「オスカーから聞いたわ。アリスティア、貴女は同年代の男性に嫌悪感を抱いてしまうのね?」
オスカーとは私のお父様、ヴァージル侯爵のことです。
お父様は王妃様とは従兄妹であり、子供の頃から親交があったと聞いております。
もちろんその娘である私も幼い頃より王妃様に大変可愛がっていただいております。
「はい……そうなのです。彼等は何も悪くないのに、触れられると鳥肌が立つほどの嫌悪を感じてしまいます。私と同年代の令嬢は触れられると頬を染めて喜ぶというのに……。私はどこか変なのです」
「いいえ、貴女は変ではないわ。そういう性質というだけよ。他と異なるからといって、自分を変だなんて思ってはいけないわ。それに……わたくしもそうだもの」
「えっ……王妃様が!?」
お父様が仰っていた私以外の変わった性質を持つ女性とは、王妃様のことだったようです。
「ええ、といってもわたくしの場合は男性を恋愛対象として見れないということ。わたくしの恋愛対象はね……同性である女性なの」
「ええっ!? そうなのですか! で、では……国王陛下とは……」
「陛下のことは尊敬しているし、大切だわ。でも……伴侶として愛せるかと言われたらそれは無理なのよ。子は何とか設けたものの、それ以降は閨を共にもしていないわ」
王妃様は子供の頃から自分が女性しか愛せないことを分かっていたそうです。
ですが、筆頭公爵家であるダンデライオン家の息女として王妃となるのは宿命でした。
なので自分を押し殺して役目を果たしたのでしょう。なんてご立派な。
「陛下とは幼馴染でね。互いに気心知れた仲ではあるのだけど、そのせいでわたくしが男性である陛下を決して愛せないことも知ってしまわれた。それでも陛下はわたくしを尊重し、妃として遇してくれるの。それが心苦しくて……」
王妃様の話によれば、陛下は本当は誰かと愛し愛される関係を望んでいるとのこと。
でも王妃様の性質は理解しているからこそそれは望めない。だからずっと寂しさを抱えているみたいです。
「それなら側室か愛妾を持てばいいと思うでしょう? でも、今の情勢でそれは難しいの……。側室か愛妾に子が出来ればそちらにも継承権が発生してしまう。それは絶対にあってはならないのよ」
「確かに……王妃様の御子であられる第一王子殿下が王太子とならねば国は荒れますね」
王妃様の生家、ダンデライオン公爵家は我がヴァージル侯爵家も属する派閥の長です。
多くの寄子を抱えるダンデライオン家の血を引く王子以外が王位を継いだとしたら、公爵閣下は謀反を起こし王家を潰すでしょう。それくらい過激な方なのです。
「そうなのよ……。陛下もそれを十分理解していらっしゃるから、側室も愛妾も決して娶ろうとなさらない。ご自分の欲より国を優先させる、本当にご立派な方なのよ。そんな方を愛せないわたくしは駄目な妻だわ。でもそんな駄目な妻でも十分大切にしてくださっているの。わたくしはそれが申し訳なくて……」
王妃様は御自分を駄目だというが、それでも世継ぎの王子を産んだのだからそれだけでも立派だと思います。私では、王妃様の立場でも拒否しかねません。女性しか愛せないのに男性を受け入れた王妃様の覚悟は素晴らしいです。
「陛下には癒しが必要なの。あの方を心から愛してあげられる人がね。……そこで思いついたのが、そういう女性を公妾にすることよ」
「まあ、公妾ですか! なるほど、それならば……」
公妾ならば陛下の御子を身籠ったとしても、書類上それは夫の子として登録されます。
もちろん王位継承権も発生しません。
「だけど中々これという女性が見つからなくてね……。本人にも家にも野心が無くて、なおかつ陛下を心から愛してくれるような情の深い人でないと。それから賢くて教養に優れていることね。それから外見は美しい方がよいわね、公妾は公務にも携わってもらうと思うから」
「王妃様……それだけの条件を通過する女性自体、中々いないのでは? しかも我が国で公妾は貴族女性に限りますし、それだと益々狭き門なのでは……」
賢く教養深く、優しく愛情深く、なおかつ美しい。
そのような貴族女性は早々に婚約を結んでしまうのでは?
それでも残っている場合、本人に瑕疵があるとしか思えません。
「ええ、これをオスカーにも相談した時同じことを言われたわ。でもね、案外身近にいたのよ、全ての条件を満たす女性が……」
「まあ……! そうなのですか!? それはおめでとうございます!」
「ええ、後はその女性と陛下が互いに好意を抱いてくれたらいいわね」
「そうですね。そればかりは実際に会って話してみないと分からないでしょうね。相性もあると思いますし……」
「そうね、わたくしもそう思うわ。……なのでアリスティア、これから陛下に会ってみない?」
んん……? この流れでどうして私が陛下にお会いする話になるのでしょうか?
「ご機嫌麗しゅうございます、王妃様。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
お父様が仰ったある人とは、なんと王妃様のことでした。
王妃様はわざわざ私をご自分の宮に招待してくださり、人払いまでしてくださいました。
「オスカーから聞いたわ。アリスティア、貴女は同年代の男性に嫌悪感を抱いてしまうのね?」
オスカーとは私のお父様、ヴァージル侯爵のことです。
お父様は王妃様とは従兄妹であり、子供の頃から親交があったと聞いております。
もちろんその娘である私も幼い頃より王妃様に大変可愛がっていただいております。
「はい……そうなのです。彼等は何も悪くないのに、触れられると鳥肌が立つほどの嫌悪を感じてしまいます。私と同年代の令嬢は触れられると頬を染めて喜ぶというのに……。私はどこか変なのです」
「いいえ、貴女は変ではないわ。そういう性質というだけよ。他と異なるからといって、自分を変だなんて思ってはいけないわ。それに……わたくしもそうだもの」
「えっ……王妃様が!?」
お父様が仰っていた私以外の変わった性質を持つ女性とは、王妃様のことだったようです。
「ええ、といってもわたくしの場合は男性を恋愛対象として見れないということ。わたくしの恋愛対象はね……同性である女性なの」
「ええっ!? そうなのですか! で、では……国王陛下とは……」
「陛下のことは尊敬しているし、大切だわ。でも……伴侶として愛せるかと言われたらそれは無理なのよ。子は何とか設けたものの、それ以降は閨を共にもしていないわ」
王妃様は子供の頃から自分が女性しか愛せないことを分かっていたそうです。
ですが、筆頭公爵家であるダンデライオン家の息女として王妃となるのは宿命でした。
なので自分を押し殺して役目を果たしたのでしょう。なんてご立派な。
「陛下とは幼馴染でね。互いに気心知れた仲ではあるのだけど、そのせいでわたくしが男性である陛下を決して愛せないことも知ってしまわれた。それでも陛下はわたくしを尊重し、妃として遇してくれるの。それが心苦しくて……」
王妃様の話によれば、陛下は本当は誰かと愛し愛される関係を望んでいるとのこと。
でも王妃様の性質は理解しているからこそそれは望めない。だからずっと寂しさを抱えているみたいです。
「それなら側室か愛妾を持てばいいと思うでしょう? でも、今の情勢でそれは難しいの……。側室か愛妾に子が出来ればそちらにも継承権が発生してしまう。それは絶対にあってはならないのよ」
「確かに……王妃様の御子であられる第一王子殿下が王太子とならねば国は荒れますね」
王妃様の生家、ダンデライオン公爵家は我がヴァージル侯爵家も属する派閥の長です。
多くの寄子を抱えるダンデライオン家の血を引く王子以外が王位を継いだとしたら、公爵閣下は謀反を起こし王家を潰すでしょう。それくらい過激な方なのです。
「そうなのよ……。陛下もそれを十分理解していらっしゃるから、側室も愛妾も決して娶ろうとなさらない。ご自分の欲より国を優先させる、本当にご立派な方なのよ。そんな方を愛せないわたくしは駄目な妻だわ。でもそんな駄目な妻でも十分大切にしてくださっているの。わたくしはそれが申し訳なくて……」
王妃様は御自分を駄目だというが、それでも世継ぎの王子を産んだのだからそれだけでも立派だと思います。私では、王妃様の立場でも拒否しかねません。女性しか愛せないのに男性を受け入れた王妃様の覚悟は素晴らしいです。
「陛下には癒しが必要なの。あの方を心から愛してあげられる人がね。……そこで思いついたのが、そういう女性を公妾にすることよ」
「まあ、公妾ですか! なるほど、それならば……」
公妾ならば陛下の御子を身籠ったとしても、書類上それは夫の子として登録されます。
もちろん王位継承権も発生しません。
「だけど中々これという女性が見つからなくてね……。本人にも家にも野心が無くて、なおかつ陛下を心から愛してくれるような情の深い人でないと。それから賢くて教養に優れていることね。それから外見は美しい方がよいわね、公妾は公務にも携わってもらうと思うから」
「王妃様……それだけの条件を通過する女性自体、中々いないのでは? しかも我が国で公妾は貴族女性に限りますし、それだと益々狭き門なのでは……」
賢く教養深く、優しく愛情深く、なおかつ美しい。
そのような貴族女性は早々に婚約を結んでしまうのでは?
それでも残っている場合、本人に瑕疵があるとしか思えません。
「ええ、これをオスカーにも相談した時同じことを言われたわ。でもね、案外身近にいたのよ、全ての条件を満たす女性が……」
「まあ……! そうなのですか!? それはおめでとうございます!」
「ええ、後はその女性と陛下が互いに好意を抱いてくれたらいいわね」
「そうですね。そればかりは実際に会って話してみないと分からないでしょうね。相性もあると思いますし……」
「そうね、わたくしもそう思うわ。……なのでアリスティア、これから陛下に会ってみない?」
んん……? この流れでどうして私が陛下にお会いする話になるのでしょうか?
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