侯爵令嬢アリスティアの愛する人

わらびもち

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番外編

息子がおかしい(ラウロの父視点)

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 結婚式あたりからラウロの様子がおかしい。
 
 いや、おかしいのは元からだが、それでもあいつの最近の行動は理解ができない。

 あれだけ寵愛していた平民女とも別れ、街で新しい女を探すのに躍起になっている。

 ここまでならおかしいとは思わなかった。
 だが、別邸の侍従からラウロがアリスティア様に似た女を探していると聞いた途端、嫌な予感がした。

 そういえば結婚式でもアリスティア様に手出ししようとして、王宮の騎士に文字通り倒されていたな。
 アレは冷や汗をかいたものだが、結局お咎めはなかった。
 本来なら厳罰ものだが、”公妾の夫”という肩書を持つことでラウロもこの伯爵家も大分お目こぼしされている。
 
 だが……愚息がアリスティア様を諦められず、再度馬鹿な真似なんかしようものなら今度こそどうなるか分からない。極端な話、アリスティア様の書類上の夫になるのは別にラウロにこだわる必要はないのだから。

 派閥や貴族の力関係を総合するに一番当家が都合がよかっただけのこと。
 公妾の夫だから何をしてもいいはずながない。
 切り捨てられたらそれまでだ。
 
 はあ……それにしても我が息子ながらあいつの言動は本当に読めない。
 アリスティア様会いたさに王宮に押しかけることだって有り得るな。
 いくら別邸の使用人が見張っているとはいえ、隙をつくことは可能だ。

 なんとも面倒なことになったな。
 まさかラウロが今更アリスティア様に興味を示すとは……。
 
 嫡男の役目も果たせないラウロに求めることは、アリスティア様に接触せずただこの伯爵家でひっそりと暮らすことだけだというのに……。あいつはそれすら出来ないのか。

 大体あれだけ嫌がってたというのに、どうして急にアリスティア様に好意を持ち始めた?

 はあ……自分の息子なのに、あいつの考えてることが理解できん。



「其方の子息の好みがアリスティアのような女性だった。ただそれだけのことよ」

 私は今、この国で最も尊い方と息子の好みのタイプについて話している。


「陛下、発言の許可を頂けますか?」

「もちろんだ。そもそもこの場には其方と余しかおらぬ。好きに話せ」
 
 そう、なぜか私はこの国で最も尊い御方である国王陛下と応接間で二人きりで話している。

 陛下専属侍従も近衛騎士も部屋の外に出ているので、嘘偽りなく本当に二人きりだ。

「ありがとうございます。陛下が先ほど仰ったことですが、うちの愚息はアリスティア様とは似ても似つかぬようなつまらぬ女を愛しておりました。なのに本当はアリスティア様のような女性が好みだったとはどういうことでしょう?」

「言葉通りの意味だ。自分の好みも理解していないなど、世間知らずの初心な少年にありがちだろう?」

 つまりラウロは好みでもない女にあれだけ入れ込んでたということか?
 それで自分の好みど真ん中のアリスティア様に出会い、急にその女への興味を失くしたのか。

 なるほど……思ったよりも阿呆臭い理由だった。

 ただ愚息ラウロが馬鹿だったというだけじゃないか。

 それにしても……どうして私は国王陛下と愚息の女の趣味について話し合っているんだ?

 それに本来なら伯爵風情が陛下と二人で話す機会なんて滅多にないんだぞ?

 
 なんでこんな事態になったかというと、その原因はアリスティア様にある。
 
 私は一応書類上の義父としてアリスティア様に近況報告などする義務があり、その際に軽くラウロのことを話してしまった。

 こちらとしてはアリスティア様に「ラウロが貴女に会いにくるかもしれないので身の回りには注意してほしい」という意味で言ったつもりだ。
 
 だが彼女はそれを別の方向性でとってしまったようなのだ。

「アリスティアは其方の子息を心配しておったぞ。恋人と別れたことで『ラウロ様は幸せではないのね……』と案じておった。公妾となるため書類上の夫にさせてしまった負い目があるのだろう。子息が幸福でないとアリスティアは罪悪感をもつようだ」

 お優しいアリスティア様はラウロが幸せに暮らしていないと申し訳ない気持ちになってしまうのか。
 
 そんなの気にする必要ないのにな。

「余のアリスティアが他の男を気にするのは面白くない。それに子息にはずっと”公妾の夫”でいてもらわねば困る。なので子息には好みの女を見繕ってやるからそれを愛でさせろ」

「お手を煩わせてしまい申し訳ございません。陛下のご厚意に感謝致します」

 とりあえずラウロはこのままアリスティア様の書類上の夫のままでいられるようだ。
 助かった……切り捨てられたらどうしようかと……。

 それにしても国王陛下は相当アリスティア様にご執心のようだな。
 寵姫の憂いを晴らすため、一貴族に女を斡旋してくださるなど誰が想像できようか。

 あの方は男を執着させてしまう魅力がお有りのようだ。
 
 愚息どころか陛下までもをここまで虜にしてしまうとは……。
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