侯爵令嬢アリスティアの愛する人

わらびもち

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番外編

ジェシー……なのか?

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「いいからラウロを出しなさいよ!!」

 門の近くまで行くと、何やら鬼の形相をしたみすぼらしい女が門番に向かって喚いている。
 そしてそれを侍従のディランが諫めていた。

「ああ、坊ちゃま。 騒がしくしてすみません、すぐにこの不審者を追い払いますので!」

 ディランが僕をその不審者の女と会わせないよう体で隠そうとするが、女の方は僕に気づいてハッとした。

「ラウロ! アタシよ! ジェシーよ! 会いたかったわ……!」

 ジェシーだって?
 この、髪も肌もくすみ垢塗れで異臭を放つ女がジェシー?
 それに……あれ、こんな顔だったか?
 眉毛もないし、目の大きさも違う。
 ここにいた頃の面影すらないじゃないか……。

「ちょっとラウロと喧嘩したくらいで貴方のパパがアタシをここから追い出したのよ! ラウロ、どうして探しに来てくれなかったのよ、ひどいわ!!」

「……本当にジェシーなのか? どうしてここに?」

「どうしてって、アタシは貴方の真実の愛だからに決まっているじゃない! アタシがいなくて寂しかったでしょう!? あの日だって、あの女じゃなくてアタシがラウロと結婚するために花嫁衣裳を来てあそこに立っていたのに! 貴方のパパがそれに怒ってアタシを家から追い出したのよ!」

 改めて聞くと「それはそうなって当然だろう」としか思えないな。
 
「それは悪かったな。だが、貴族の式に乱入するなんて、本来ならその場で斬られてもおかしくないが?」

「はあ!? ラウロのくせに何まともな事言ってんのよ!! ぐだぐだ言ってないでさっさとアタシを屋敷の中に入れなさいよ! ほんっと気が利かない男ね、全く!!」

 歯を剥きだしにし、唾を飛ばしながら怒鳴りつける女の顔はひどく醜悪だ。 

 どうしてこんな暴言を吐いておいて屋敷に入れると思うんだ? ジェシーの神経が分からない。
 
「酷い言い草だな。でも僕がまともでなかったのは事実だから反論はしない。それよりも……君は別に僕が恋しいから戻ってきたんじゃないんだろう? どうせ生活資金が無くなったから戻ってきただけだろう? 僕がお前に買った服や宝石を換金した金が無くなったからまた戻ってきたんじゃないか?」

 昔僕がジェシーにあげた贈物は全て家から無くなっていた。
 初めは父上が取り上げたのかと思ったが、手切れ金代わりに彼女が持って出て行ったと聞かされた。

「う…………そ、そうよ! あれっぽっちじゃすぐに無くなっちゃうじゃない! だいたい安物ばっかりだったわ! 貴族のくせに安物贈ってんじゃないわよ!」

「安物? 少なくてもあれは平民がおいそれと買える代物じゃないぞ。 換金した相手に騙されたんじゃないか?」

 服は高価な絹を使用した高級品だし、宝石も本物だ。なんなら鑑定書もある。
 
 平民があんな高価な物を持っていったから、換金相手に足元見られたんだろう。
 頭の軽いジェシーを騙して安く買い叩くのは簡単だったろうな。

「なっ……!? あ、あの換金商のオヤジ……アタシを騙したの!!?」

「はあ……ご愁傷様だな」

「え……ラウロ、なんか冷たくない? なんで……? あっ……ちょっと! 誰よその女! 浮気してるの!?」

「彼女は僕の妻だ。浮気といっても君と僕はもう何の関係もない。あんな罵倒をしておいてどうして優しくしてくれると思うんだ? それに、ここにいた頃の君は毎日毎日癇癪おこして物を壊して……はっきり言って迷惑だった」

 思い返せば彼女が癇癪をおこして物に当たる姿はまるで悪魔のようだった
 顔を真っ赤にして破壊行動をする姿は思い出すだけでゾッとする。
 
 昔の僕は何でこんな女に夢中だったんだろうか……。

「妻ですって!? アンタの妻はあのいけすかない貴族の女でしょう!? あ~、なるほど~……その人、貴方に騙されてるのね!? うわぁ、可哀想~!」

 ケタケタと笑うジェシーはひどく醜い。
 
 本当に僕は何でこんな女を愛していたのだろうか……。

「ワタシ騙されていないヨ! ラウロの本当の奥さんは王様のところにいるって知ってるもの! アナタがいくら美人でもワタシの方がラウロを好きヨ! ワタシはラウロに貰った物、売ったりなんかしない!」

 オニキス……! そういえばオニキスは僕が贈ったものを大切に使ってくれているな。
 
 うん……? 今、ジェシーをと言ったか……?

「はあぁ!? アタシが貰ったものをどうしようとアタシの勝手でしょう! それにアンタだって生活に困れば売るに決まってんだからね!?」

「ワタシは絶対に売ったりしないヨ! 全部ラウロがワタシのために選んで贈ってくれた大切なものだから! 売るくらいなら死ぬ方がましヨ!」

 オニキス……なんて可愛いんだ! 

「オニキス……嬉しいよ……」

「ん……ラウロ……好きヨ……」

 人前だろうが構わずオニキスを抱きしめて口付けた。
 
 僕への溺れるほどの愛を隠そうともしない彼女が愛しくてたまらない。
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