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他人のモノを奪った者の行く末④
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少ない荷物を纏め、外出着に着替えアンヌマリーは自分を身請けしてくれる男の元へと向かう。
愛しい恋人が迎えに来てくれたと弾む気持ちのまま扉を開けると、そこにいたのは知らない顔の男だった。
「は………? セレスタン様じゃない……誰よあんた!?」
先ほどまで恋する乙女の表情を浮かべていたアンヌマリーの顔は、一瞬にして魔女のように恐ろしい形相に変わる。愛しい恋人が迎えに来てくれたのだと喜んだのに、そこにいたのは全く別の人物。
期待を裏切られたアンヌマリーの絶望と怒りは全てその顔に表れていた。
「こら、アン! お客様に何て口をきくんだ! この方は売れないお前を引き取ってくださる有難いお人なんだぞ!? 立場を弁えろ!」
「はあ!? 立場を弁えろですって! ふざけないで! 私はセレスタン様だと思ったから身請け話を受けたのよ! こんな薄汚い男が相手なら断っていたに決まってるでしょう!?」
「お客様に何てことを言うんだ! だいたい俺は一言もお客様がその”セレスタン”とかいう奴だと言ってないだろうが!? お前は自分の立場ってもんを理解していないのか? ここに来る前がどうであれ、お前は今この店の娼婦でしかないんだよ! 売れっ子でもないお前が身請け相手を好きに選べると思うなよ!」
ドスのきいた支配人の怒鳴り声にアンヌマリーはビクッと体を震わせる。
貴族社会で生きてきた彼女はこのような粗野な口調で恫喝された経験など一度もない。
ここに来てから支配人には何度となく苦言を呈されてきたが、こんな風に声を荒げられたことはなかった。
だから勘違いしていたのだ。たかが平民の、こんな場末の娼館の支配人風情に何を言っても構わないのだと。
「勘違いするなよ、お前が身請けを拒否する権利などそもそもない。マリリンくらい売れっ子の稼ぎ頭なら身請けを拒否することも許されるが、客を一人もとれないお前なんかにあるわけがないんだ。それでも一応は意志を汲んでやったっていうのに……よりにもよってお客様を目の前にして断るとは何様だ!」
「あ……だ、だって……こんな人知らないもの……。知らない人に身請けされるなんて……そんなの……嫌よ……!」
アンヌマリーは支配人の迫力に恐怖し、ついには泣き始めてしまった。
支配人は客を罵倒し、あろうことか客の前で泣き始めたアンヌマリーにうんざりする。
「お客さん、すみませんね。みっともないところを見せちまって」
支配人が頭を下げて謝罪すると、その客はいきなり声をあげて笑い出した。
「ははっ……! その身勝手で幼稚な思考、君は昔のままだねアンヌマリー? 変わってなくて嬉しいよ……」
豹変した客の態度に支配人もアンヌマリーも驚きのあまり言葉を失う。
先ほどまでの大人しく地味な姿から一転し、狂気を感じさせるように笑う男に血の気が引いた。
「あ、あんた……誰よ、どうして私の本名を知っているの……?」
恐る恐るアンヌマリーが尋ねると、客の男は馬鹿にしたような表情を向ける。
「ふふっ……君の気まぐれで人生を壊された男をもう忘れたのかい? いかにも自分勝手な君らしいな!」
「人生を壊された……? 何それ、知らないわよそんな……」
「ふーん……なら、こう言えば分かるかな? 君の姉……男爵家当主ローズマリーの最初の夫だと……」
「え、え? お姉様の最初の夫……!? う、うそでしょう……! なんでこんな場所に……? それに、その姿はどうして……」
「どうして、ね……。君のせいで離縁されて追い出され、実家からも勘当された貴族の男がどうなるかなんて分かり切ったことだろう? 住む場所も金もない、生活能力の皆無な貴族が野垂れ死にしなかっただけでも奇跡だよ」
「実家からも勘当された……? そ、それは可哀想だと思うけど、私には関りがないことだし……」
「はは、冷たいね。あの時、君が僕を誘惑しなければこんなことにはなっていなかったんだよ? 僕はローズマリーの夫として何不自由ない暮らしを送ることが出来たんだ……。君さえいなければ、僕はこんな惨めでみすぼらしい姿になることもなかった……!」
「な、なによ……私のせいにしないでよ! お姉様と離縁したくなかったのなら、私の誘いなんて無視すればよかったじゃないの!? 勝手なことを言わないで!」
「ああ、そうだよ……! お前みたいな頭も尻も軽い馬鹿な女に言い寄られたくらいでその気になって……本当に僕は愚かだ。愚かでどうしようもない……! けどな、そんな僕から見ても君は最低最悪の下劣な女だ。ローズマリーへの嫉妬を拗らせ、夫である僕を奪うことで承認欲求を満たそうとしたのだろう?」
「はあ!? 馬鹿言わないでよ! 誰があんな不細工なお姉様に嫉妬なんてするものですか!!」
「確かにローズマリーは美人とは言い難い。だけど、とびきり頭がよくて統治能力に優れた女性だ。彼女が当主になってからこの領地は栄え、治安もよくなった。今じゃ領民のほとんどから崇められるほどの聡明な領主だ。……それに対して君は容姿以外何の取り柄もない、つまらない女だ。逆立ちしたってローズマリーの聡明さには届きやしない。自分でもそれを理解しているのだろう? だからローズマリーを貶めることで己の欲を満たそうとしたのだろう? はっ……くだらない女だよ、君は……。人から何かを奪うことでしか空っぽな自分を満たすことが出来ないのだから……」
二人の会話を黙って聞いていた支配人は軽蔑の視線をアンヌマリーに向けた。
随分と男爵様から恨まれているな、と不思議に思っていたのだが、まさか姉の夫を奪うなんて業が深い。
愛しい恋人が迎えに来てくれたと弾む気持ちのまま扉を開けると、そこにいたのは知らない顔の男だった。
「は………? セレスタン様じゃない……誰よあんた!?」
先ほどまで恋する乙女の表情を浮かべていたアンヌマリーの顔は、一瞬にして魔女のように恐ろしい形相に変わる。愛しい恋人が迎えに来てくれたのだと喜んだのに、そこにいたのは全く別の人物。
期待を裏切られたアンヌマリーの絶望と怒りは全てその顔に表れていた。
「こら、アン! お客様に何て口をきくんだ! この方は売れないお前を引き取ってくださる有難いお人なんだぞ!? 立場を弁えろ!」
「はあ!? 立場を弁えろですって! ふざけないで! 私はセレスタン様だと思ったから身請け話を受けたのよ! こんな薄汚い男が相手なら断っていたに決まってるでしょう!?」
「お客様に何てことを言うんだ! だいたい俺は一言もお客様がその”セレスタン”とかいう奴だと言ってないだろうが!? お前は自分の立場ってもんを理解していないのか? ここに来る前がどうであれ、お前は今この店の娼婦でしかないんだよ! 売れっ子でもないお前が身請け相手を好きに選べると思うなよ!」
ドスのきいた支配人の怒鳴り声にアンヌマリーはビクッと体を震わせる。
貴族社会で生きてきた彼女はこのような粗野な口調で恫喝された経験など一度もない。
ここに来てから支配人には何度となく苦言を呈されてきたが、こんな風に声を荒げられたことはなかった。
だから勘違いしていたのだ。たかが平民の、こんな場末の娼館の支配人風情に何を言っても構わないのだと。
「勘違いするなよ、お前が身請けを拒否する権利などそもそもない。マリリンくらい売れっ子の稼ぎ頭なら身請けを拒否することも許されるが、客を一人もとれないお前なんかにあるわけがないんだ。それでも一応は意志を汲んでやったっていうのに……よりにもよってお客様を目の前にして断るとは何様だ!」
「あ……だ、だって……こんな人知らないもの……。知らない人に身請けされるなんて……そんなの……嫌よ……!」
アンヌマリーは支配人の迫力に恐怖し、ついには泣き始めてしまった。
支配人は客を罵倒し、あろうことか客の前で泣き始めたアンヌマリーにうんざりする。
「お客さん、すみませんね。みっともないところを見せちまって」
支配人が頭を下げて謝罪すると、その客はいきなり声をあげて笑い出した。
「ははっ……! その身勝手で幼稚な思考、君は昔のままだねアンヌマリー? 変わってなくて嬉しいよ……」
豹変した客の態度に支配人もアンヌマリーも驚きのあまり言葉を失う。
先ほどまでの大人しく地味な姿から一転し、狂気を感じさせるように笑う男に血の気が引いた。
「あ、あんた……誰よ、どうして私の本名を知っているの……?」
恐る恐るアンヌマリーが尋ねると、客の男は馬鹿にしたような表情を向ける。
「ふふっ……君の気まぐれで人生を壊された男をもう忘れたのかい? いかにも自分勝手な君らしいな!」
「人生を壊された……? 何それ、知らないわよそんな……」
「ふーん……なら、こう言えば分かるかな? 君の姉……男爵家当主ローズマリーの最初の夫だと……」
「え、え? お姉様の最初の夫……!? う、うそでしょう……! なんでこんな場所に……? それに、その姿はどうして……」
「どうして、ね……。君のせいで離縁されて追い出され、実家からも勘当された貴族の男がどうなるかなんて分かり切ったことだろう? 住む場所も金もない、生活能力の皆無な貴族が野垂れ死にしなかっただけでも奇跡だよ」
「実家からも勘当された……? そ、それは可哀想だと思うけど、私には関りがないことだし……」
「はは、冷たいね。あの時、君が僕を誘惑しなければこんなことにはなっていなかったんだよ? 僕はローズマリーの夫として何不自由ない暮らしを送ることが出来たんだ……。君さえいなければ、僕はこんな惨めでみすぼらしい姿になることもなかった……!」
「な、なによ……私のせいにしないでよ! お姉様と離縁したくなかったのなら、私の誘いなんて無視すればよかったじゃないの!? 勝手なことを言わないで!」
「ああ、そうだよ……! お前みたいな頭も尻も軽い馬鹿な女に言い寄られたくらいでその気になって……本当に僕は愚かだ。愚かでどうしようもない……! けどな、そんな僕から見ても君は最低最悪の下劣な女だ。ローズマリーへの嫉妬を拗らせ、夫である僕を奪うことで承認欲求を満たそうとしたのだろう?」
「はあ!? 馬鹿言わないでよ! 誰があんな不細工なお姉様に嫉妬なんてするものですか!!」
「確かにローズマリーは美人とは言い難い。だけど、とびきり頭がよくて統治能力に優れた女性だ。彼女が当主になってからこの領地は栄え、治安もよくなった。今じゃ領民のほとんどから崇められるほどの聡明な領主だ。……それに対して君は容姿以外何の取り柄もない、つまらない女だ。逆立ちしたってローズマリーの聡明さには届きやしない。自分でもそれを理解しているのだろう? だからローズマリーを貶めることで己の欲を満たそうとしたのだろう? はっ……くだらない女だよ、君は……。人から何かを奪うことでしか空っぽな自分を満たすことが出来ないのだから……」
二人の会話を黙って聞いていた支配人は軽蔑の視線をアンヌマリーに向けた。
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