どこまでも付いていきます下駄の雪

楠乃小玉

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三十五話 頭のいかれた若造ども

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 一刻も早く広忠を助けたいとの義元公のご意向にて、
 天野孫三郎らを中心とした先遣隊二千人が編成され、
 早馬で岡崎に向かった。

 元実もその中にあった。

 今川の先遣隊が岡崎に到着すると、
 すでに敵軍は撤退していた。

 天文十六年十月二十日、敵の大将松平忠倫が松平広忠の放った刺客、
 筧重忠によって暗殺されたためである。

 今川方の援軍が間に合わぬと見た広忠が放った苦肉の策が当たったのだ。

 義元公ご到着のさい、
 手柄の一つも無うては居心地が悪いと孫三郎が言い出し、
 敵の落ち武者の探索が始まった。

 逃亡する敵兵を見つけ、追いかけたが吉良大浜辺りで姿をくらました。

 しばらく遁走したる敵兵を探していると
 小高い丘があった。

 その上に小柄な騎馬武者が立っている。

 頭の上に白地に紅筋が二つ引かれた頭巾をかぶり、
 猿回しの猿のような派手な陣羽織を着ている。

 どう見ても何か頭がおかしいような格好をしている。

 「いずこの御家中か」

 敵味方を確認するため元実が大声で怒鳴った。

 「阿呆」

 声が帰ってきた。
 童の声のようであった。
 答えぬとは敵に違いない。
 童が叫ぶとその童の周りにぞろぞろと騎馬武者が集まってくる。

 「調子に乗るな」

 実元は郎党より弓矢を受け取りその小僧めがけて矢をつがえた。

 「おのれ、殿を害するか」 

 丘の上の騎馬武者のうち一騎が猛然と駆け下りてくる。

 こちらは二千である。

 正気の沙汰ではない。

 元実の郎党たちは一斉に矢をつがえ、その騎馬武者を狙う。

 声からして子供のようであるが、
 襲いかかってくるなら討ち取るもやむなし。

 が、元実はその童子の騎馬武者がかぶりたる兜の飾りに目を遣った。

 それは六文銭であった。

 「ややっ、待て、そはお味方ぞ、六文銭は安倍殿の旗印、撃つな」

 元実が叫ぶと郎党は慌てて弓を降ろした。

 「待たれよ、我らはお味方ぞ」

 元実は突進してくる騎馬武者に必死に訴えかけた。

 騎馬武者は止まる。
 
 「六文銭を見てお味方と言うは、
 いずれ海野か望月の御家中か。当方は元は望月の家中なれど今は異なり」

 小僧の騎馬武者はこちらを威圧するように言いおった。

 「何を訳の分からぬことを言う、
 そちは安倍の御家中ではないのか」

 「左様な些細な事より、殿への非礼を詫びよ」

 「笑止なり、こちらは二千の軍勢ぞ、打ち殺されたいか」

 「殺したければさっさと殺せばよいから、早く殿に弓引きたる非礼を詫びよ」

 此奴頭がいかれておる。

 「もう良い、帰るぞ」

 丘の上の童が叫ぶと、六文銭兜の童武者は踵を返して丘に駆け上がった。

 元実の郎党がその童の背中めがけ矢をつがえる。

 「止めておけ、もしや名門吉良家御曹司のご一行やもしれぬ。
 吉良は今川のお家とも縁続きゆえ、討っては後がやっかいじゃ」

 実元は郎党を止めた。


 しばし敵兵を探索したがその姿無く、
 一行が肩を落して帰ろうとしたその時、
 後方で紅蓮の炎が上がった。
 その炎は風に乗って急速に燃え広がる。

「火計じゃ、火に突っ込んで風上に逃げよ、風下に逃げたら焼き殺されるぞ」

 天野孫三郎が叫び、一向は一団となって炎の中に飛び込んだ。
 髪がちりちちと焦げ、嫌な臭いが漂ったが誰一人死なずに済んだ。

 「おのれ、さきほどの童どもの仕業か」

 元実は歯ぎしりをしながら周囲を見回したが、
 あの童らの姿はどこにも無かった。
 腐れ童共はお味方の稲穂に火を放ちおった。

 米に火を付けるなど罰当たりこの上ない。

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