どこまでも付いていきます下駄の雪

楠乃小玉

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五十一話 三国同盟

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 元実が家に帰って父、宗是にその話をすると、
 今後は家の事はかまわぬ故、雪斎様のご助力に専念せよと命じられた。

 元実は関口親永殿を通じ、瀬名家の伝手を頼って武田と話しを通した。

 また同じ小笠原一族の小笠原氏興殿を通じて北条と話を通した。

 雪斎様のご実家の庵原氏を通じて武田家の山本勘助などとよしみを通じ、
 今川、武田、北条の重臣が駿河臨済寺に集まり、会合を開くこととなった。

 元実も雪斎様に随行して臨済寺に行くことになったが、
 今川から出席されたのは田原雪斎様、朝比奈泰能殿、
 武田からは飯富虎昌(おぶとらまさ)殿、穴山信嘉(あなやまのぶよし)殿、
 山本勘助殿、北条からは松田盛秀(まつだもりひで)殿、
 北条綱成(ほうじょうつななり)殿であった。

 列席された諸将の中、北条綱成殿を見て元実は体が固まった。

 それはまさしく、福島孫九郎その人であった。

 孫九郎もこちらに気が付き、笑いをかみ殺した。

 実元は慌てて下を見る。

 かの孫九郎が北条の重責を担っているのに、実元はまだ中堅。

 この場で田原雪斎様は自説を述べられた。

 「元より北条のお家は京に上られるおつもりはございますまい。
 欲するは上野、武蔵、下総、上総、」

 雪斎様は国の名前並べながら松田殿、綱成の顔を一瞥された。

「そして」

 甲斐の山本勘助が口を差し挟み、
 飯富、穴山のご両人の顔を見て含み笑いを浮かべた。

「 ふふふ」「ははは」ご両人は低い声で笑った。

 「いやいや」

 松田盛秀殿が苦笑いして首を横に振った。

 綱成は涼しい顔をしておる。

 「武田のお家が欲するは海、されど南に進めば今川家と北条家に挟撃されまする。
 よって向かうは信濃、その向こうの越中の海でござる。
 信濃は小国人分裂し、
 守護小笠原氏に力無く、
 越中は畠山氏と神保氏が争うて取るに容易き事情にござる。
 されば、北に進まれるためには南の守りを盤石としたるが肝要でございましょう」

 「北条、武田の事情は分かる。
 されば、今川家は何の利得ありて同盟を結ばれるか」

 松田盛秀殿が問うた。

 「されば今川殿はケツに火がついておいでですからな」

 また山本勘助が余計な事を言った。

 「はて」

 雪斎様が首をかしげられる。

 「尾張の猿がケツに火をつけて回っておるでしょう」

 勘助の言葉に北条の諸将が無言のままで目を見合わせた。

 泰能殿はそしらぬ顔で平然としておられる。

 「今川の事情はさておき、北条家、武田家にとって悪いお話ではないはず。」

 武田の方でも飯富虎昌殿が口を開いた。

 「穴山殿いかがか」

 「悪い話とは思いませぬ飯富殿が承諾されるなら某に異論はござらぬ」

 「勘助はどう思う」

 「北条はさておき、今川の、その中でも駿河衆は茹で蛙ゆえ、
 盟約を結べば攻めてくることはないでしょう」

 「これ、口を控えよ」

 さすがに虎昌殿が叱責された。勘助は静かに頭を下げた。

 「北条としても異論ござらぬ」

 松田盛秀殿が仰った。

 「それでは、次に、婚姻のお話をいたしましょう」

 雪斎様は盟約に続いて、
 今川、北条、武田の婚姻のお話を始められた。

 今川義元公のご息女が 武田信玄殿の子武田義信殿に嫁ぎ、
 武田信玄殿の娘が北条氏康の子北条氏政殿に嫁ぎ、
 北条氏康殿の娘早川殿が今川義元公のご嫡子、
 今川氏真様に嫁がれることで話しが決まった。

 今考えてみれば、雪斎殿はもとより駿河を捨てて
 信長と戦う気は無かったと見える。

 最初から武田、北条との同盟を鑑み、
 もう一段高みの無理筋から義元公をお攻めになられたのであろう。

 ここまでは雪斎様のもくろみ通りに進んでおるように元実には思えた。
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