異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri

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二章

あの日の食卓

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今日の稽古を終えて屋敷に戻ったあと、みんなはそれぞれの部屋へと散っていった。
 オルフェンさんは筋トレに、レミーユさんは日記のような祈りの記録に、アレンはたぶん読書か昼寝。

 あれだけ稽古をして、まだ筋トレをするオルフェンさんに若干引きつつ、
僕はというと、借りてきた魔導書を机に積み上げたものの、文字を追う気にはなれなかった。

 代わりに表紙の次のページを捲ると載っているこの国の地図を眺める。

 ーーー僕がいたあの村はこの辺かな。

指で追ってみるが、そこには森としか書かれておらず、村の名前は載っていなかった。
 土地勘があると自信があるわけではないからかくしょうはないのだけれど。
確かにあの村はここらへんのはず。

 ……あれ、違ったかな。

 スマホのマップでは場所を指定すると自動的に見つけてくれる。
現代っ子の僕では、恥ずかしいが地図は少し難しかった。

レオやロラに会いたいな。
ミランダさんとゴルガさんは元気かな。



 でも、あの村のことを考えるたびに、どうしても引っかかる。
あの村には僕と同じ世界の言語を喋る人がいた。
その中にミランダさんの子のレオも含まれている。
 レオとロラの見た目は双子のようにそっくりだったけど、本当に血が繋がっていたんだろうか。
 だってレオはロラとは違って時々、僕の世界と同じ言語を喋り、
 そのたびに、僕は聞き間違いか?って思おうとしたけれど、あれは確かに日本語だった。
僕と同じ世界の住人だったらなんでここにいるんだろう。
みんな僕のように使命があってここにいるのかな。
あんなに無邪気な小さな子が僕と同じように何かをしなければいけないなんて考えられない。
だから僕はそんな考えは早々に消した。

 そして、あの世界。
 あの村で最後に見た、葉っぱが光になって消えるあの瞬間から何かが変だった。
 空や森、僕が毎日魔法を練習していた原っぱまでもが、どこか幻で作られているような気がしてならなかった。
 風の匂いも、地面の感触も確かにあったのに、心のどこかで「ここは本当に存在しているのか?」と疑っていた。

 実際どうだったのか、ゴルガさんに聞こうとした。
 けれど、彼はただ自分で確かめろって、それ以上は何も話そうとしなかった。
自分で確かめろってどういうことだろう。
王都に来たらあの村のことがわかるかもしれないと思っていたが、未だ、なんの情報も得られない。
なにせ、あの村の話はしてはいけないと言われたから、知ってそうな人に聞くことはできないのだ。

 多分、僕に言うことで何か不都合があったんだろう。
 それとも、知らない方がいいことなのか。

 魔導書を閉じて、窓の外を見上げる。
 
考えてもわからないことってある。
そして、考えれば考えるほど不安になる。

あの村の人たちにはもう会えないのかな。
僕を受け入れてくれた。
異世界での最初の居場所をくれた。
それなのに、恩返しをちゃんとできなかった。
はっきり言って心残りだ。
もっと僕にできることがあったんじゃないかって。

ーーーそうだ!

僕は台所の方へ足を向けた。
今そばにいてくれる三人には、できる形で「ありがとう」を伝えたい。

異世界から来たよそ者の僕を受け入れてくれて
僕の稽古に付き合ってくれて
これから、旅する仲間として認めてくれて

最初は怖いと思っていた三人の印象が変わりつつあった。
旅が始まったらこういうことはできないかもしれないから。


 食材庫を覗くと、卵がいくつかと、米、玉ねぎ、それに干し肉があった。
 トマトに似た赤い果実もある。

 ーーーこれなら、いけるかもしれない。

「オムライス、作ってみよう」

 小さく呟いた。
 忙しい母が時々仕事から戻ってくるときはよく作ってくれた。
 学校で疲れて帰った日の夕飯に出てくると、それだけで救われた気がした。
 異世界でも、あの優しい味を再現したい。

 火を起こし、フライパンを熱して、油を敷く。
 干し肉を細かく刻んで、玉ねぎと一緒に炒めると、香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
 そこに炊いたご飯を加え、赤い果実のソースで味をつける。
 じゅう、と音を立てて湯気が立ちのぼる。

「美味しそうな匂いがするね」

 振り返ると、オルフェンさんが台所の入口に立っていた。
 匂いに釣られたのか鼻をひくつかせながら、興味津々といった様子だ。

「これは真白くんの世界の料理?」

「そうです!オムライスっていって、卵とご飯を使った料理です」

「オム……ライス?」

 舌に慣れない響きを転がしながら、オルフェンさんはふっと笑った。

「面白い。味見をしてもいいかな?」

「もちろんです」

 スプーンを手渡すと、彼は一口すくって口に運んだ。
 しばらく黙り込んで、やがて感心したように頷く。

「これは美味しい。戦いの前に出されたら、兵の士気が上がる味だよ」

「あはは、それはよかったです!」

 褒め言葉が、ちょっと大げさで、ちょっと嬉しかった。

ご飯を炒めたのを一旦お皿に移して、フライパンに解いた卵を注ぐ。
卵が少し固まったら、ヘラの角で少しかき混ぜてほぐすと、スクランブルエッグみたいになってふわふわのオムライスができる。
その様子をオルフェンさんが黙ってじっくりみてくるから緊張しつつ、卵の中に炒めたご飯を乗せて優しく包んだ。

「まぁ、なんて可愛らしい料理なの」

 続いてレミーユさんが姿を見せた。
 いつも凛とした彼女が、まるで少女のように目を輝かせている。

「黄色と赤色がとても綺麗。食べ物で、こんなに心が明るくなるなんて」

「ただの家庭料理ですよ」

「いいえ。あなたの優しさが詰まっているわ。それが一番のご馳走よ!」

 そう言われて、少し顔が熱くなる。
僕は褒められ慣れていないからすぐに照れてしまう。
 なんでこんなに真っすぐな言葉をくれるんだ。

「うるせぇな、階段まで声がしてんぞ」

 不機嫌そうな声とともに、アレンが現れた。
 腕を組んで、眉をしかめている。

「何だそれ、卵包んだだけじゃねぇか」

「食べてみる?」

「誰が食うかよ」

 そう言いながらも、数秒後にはスプーンを手に取っていた。
もしかして、アレンも匂いに釣られてきたのか。
 一口食べて、黙り込む。
 やがてぼそりと呟く。

「悪くねぇ」

目が明らかに輝いていたが、それを指摘するといつもの仏頂面に戻ってしまうからあえて言わない。

 気づけば、三人が自然と食卓に集まっていた。
 オルフェンさんはおかわりを求め、レミーユさんは微笑みながら皿を拭い、アレンはそっぽを向きながらも黙々とスプーンを動かす。

 なんだろう、この感じ。
 言葉にできないけれど、あたたかい。

「真白くん、また作ってよ」

 オルフェンさんが僕の元へやってくる。

「今度は私も手伝わせてね」

レミーユさんが頷いた。

「オムライス、みんなに気に入ってもらえてよかったです!また、作りますね」

「好きにしろよ」

 アレンの不器用な言葉に、思わず笑ってしまった。

 窓の外では、夜の星がきらきらと瞬いている。
 その光を見上げながら、僕は静かに思った。

 
この世界でずっと生きていければいいのに。










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