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球技大会
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~二日後 球技大会~
球技大会、当日。天気は雲一つない晴天で、一月にしては気温の高い日であった。グラウンドの右半分には五個のバレーコートが並んでおり、左半分には野球のグラウンドが広がり、真ん中には仕切り用の小さなネットが横並びに置いてあった。
バレーは午前中に予選を終わらせ、午後に上位二十位を決める試合をする。小夜たちのチームはEコート、つまり一番奥のコートで予選を行っていた。
「小夜ちゃん!今日も頼むね!」
「頼むね!」
いつもの女子二人組はこの三日間で『百目鬼さん』から『小夜ちゃん』に呼び名を変え、小夜を怖がる様子もすでに無くしていた。その流れが良かったのか、クラスまでも小夜を怖がる雰囲気が消えているようだった。
小夜たちのチームは午前中最後の試合をしていた。この試合に勝てば、予選を勝ち抜き、上位二十位は確定になる。小夜は練習通りの強さをみせ、チームに大きく貢献していた。
残り一点。サーブ権は相手コートにあった。小夜は普段より集中して構えていた。しかし、相手のサーブは大きく小夜たちのコート超えてしまった。
「やった!!ラッキー!!これで上位に行けるね!」
「やった!!やった!!」
チームのみんなは肩を組み、黄色い声を上げて喜んでいた。小夜はその様子を見送って、飛んで行ったボールを取りに行っていた。ボールは仕切りを超えていたものの、すぐそばにあった。小夜はそれを拾い上げ、微笑んだ。
(もしかしたら、私ちょっと信頼されるようになってるかもしれない。佐藤が言ってたように、バレたのは仕方なかったけど、努力は無駄じゃなかったのかな…。隠し事も今はもうしなくても良いしね。)
小夜がボールに語りかけるように、ボールを見つめていると、豪速球の野球ボールが小夜に向かって飛んできた。ボールは小夜の頭の高さにあり、小夜は咄嗟に持っていたボールを捨て、両腕で顔を覆うような体勢をとった。しかしその意味もなく、すぐに駆けつけた武流が小夜を庇ってボールを背中で受け止めた。
「ぐっ…。」
武流は当たったボールの痛みで小夜にもたれかかり、小夜は一瞬で起きた状況をうまく飲み込めれず、体勢を崩しかけた。
「うわっ!ごめん!武流!…そっちに人いると思わなくて…。」
「気をつけろ~!野球部!!」
ボールを投げたのは試合休憩中にキャッチボールをしていた野球部の男子だった。武流は痛みを我慢しながら普段と同じ笑顔で野球部の男子に返事をした。
「ねぇ…今の絶対痛かったよね…?」
小夜はもたれかかった武流の体を退け、当たった部位を心配するように触った。
「いっ…!」
「やっぱり…。救護室に行こう。」
小夜は武流の手を取り救護室に連れて行こうと引っ張ったが、逆に武流がその手を引っ張り、武流と小夜の顔が近づいた。
「お前さ、こんな細い腕で防ぐつもりだったの?バカかよ。…つーか、何?心配してくれてんの?」
武流はいつもの嘲笑を浮かべたが、流石に痛いのか少し余裕が無さそうだった。小夜は武流の右頬に強く手を当て、真っ直ぐに武流を見た。
「当たり前でしょ!自分を庇ってくれた人間を心配しない人間がどこにいるのよ!」
武流は小夜の真剣な目に引き込まれそうになり、自然と嘲笑が消えていた。小夜は目つきを変えて、少し怒り気味に武流を見た。
「それに、冷や汗かいてるくらい痛いなら、変にスカしてんじゃないわよ。」
「…はい。」
武流は端麗な顔の睨みに、少し肌が粟立てた。
小夜はバレーボールをコートの籠に返すと、すぐに武流の元に戻り、救護室に向かった。救護室のテントにいた保健の先生に話しかけたのだが、何がどうなったのか、足からの出血が止まらない子の手当てで手を離せない様子だった。先生は武流の体を触りながら、必要最低限の確認をし始めた。
「呼吸がしずらいとかは無いわね?」
「まあ、はい。」
「じゃあ、悪いけど、保健室の鍵渡すから、入ってすぐ右にある冷蔵庫の中の湿布を貼って待ってて。…背中だから小夜さんに貼ってもらいなさい。私もこの子の手当が終わったらすぐに行くから。
小夜さん、よろしくね。」
「はい。」
先生は小夜に鍵を渡した後に、すぐに怪我をした生徒の元に行った。
ーーーー保健室ーーーー
小夜は武流を座らせると、言われた通りに冷蔵庫から湿布を取り出した。
「じゃあ、脱いで。」
「は!?」
「何驚いてんのよ。脱がなきゃ貼れないでしょ。」
「…そうだけどさ、そういうの簡単に言える人間なんだな…。」
「?」
小夜は、赤くなりながらも眉間に皺を寄せている武流を見ながら、湿布を貼る準備をしていた。武流が上の服を脱ぎ終わると、小夜は武流の後ろにまわり湿布を貼ろうとした。
「赤くなってる…。」
「は!?赤くなってねえよ!」
「いや、怪我のとこが赤くなってるのよ。」
「ああ、そっちか…。」
小夜は痛みを与えないようにと、膝を突きながらゆっくり丁寧に湿布を武流の背中に貼った。
「ありがとう。…庇ってくれて。」
「ああ。」
「それ以外にも、いろいろ。」
「は?」
「あの女の子たち二人が私と距離を詰めてくれたのは、あんたのおかげでもあるから。」
「別に、俺は…」
小夜が湿布を貼り終わった後に武流はゆっくり後ろに目線を送り、小夜を見た。
「なんか顔赤いわよ?」
「…るせぇ!…女に裸なんて見られる機会ねえんだよ。」
「へ~」
小夜は武流の弱点を見つけた気になって、勝ち誇ったような顔をして武流を見ていた。
「お前は、男の裸見慣れてんのかよ。」
「私の住む家は男が圧倒的に多いので、見慣れてます。」
「なんか、ムカつく…」
「何でよ。まあ、でも…」
「何だよ?」
小夜は吹き出すように笑うと、武流を見上げるようにして見た。
「結構ウブなんだね。そういうとこいいと思う。いつもスカしてるくせに……」
小夜は笑いを堪えるために最後まで言えなかった。それを見た武流は急に小夜の腕を鷲掴みにし、小夜の後ろにあるベットに小夜を押し倒した。
「な、なに!?」
「お前さ、あんま調子乗んなよ。」
「離してよ!!」
小夜は鷲掴みにされた両腕を抜こうとしたが、武流が力を強めたので、余計に抜けなくなってしまった。
「俺だって一人の男なんだけど。」
武流はどこか悲しげな表情で小夜を見つめ、小夜はその目に何も言えなくなってしまった。武流は小夜の耳元に息がかかるほど顔を近づけた。
「やっ…近っ…」
(近すぎて、武流の吐息が耳に…)
小夜は初めて顔を赤くし、鼓動をうるさくした。しかし武流は何か言おうとして力つき、小夜の横で倒れた。
「ちょっ…、何…?」
「くっそいてー…」
武流は無理に動いたので、背中を再び痛めたのだ。小夜はすぐにうつ伏せになった武流の体を退け、楽な姿勢を取らせた。
「調子に乗ってんのはどっちよ。」
「…ふっ、そういうお前も顔赤いけどな。」
「うっ。」
武流の言う通り、小夜の顔は赤くなっていた。小夜も自分で赤くなっていると分かるほど顔が熱くなっていたので、強くは反論しなかった。
こうして、午前の部と昼休みが終わった。
~午後~
午後の部では武流のことがあったせいか小夜の調子も伸びず、十位という結果で終わってしまった。しかし、チームのメンバーは小夜を褒め称え、喜びあった。
片付けや着替えなどが終わり、終礼がなった頃、小夜は教室に遊びに来た紬と香とで話していた。
「この後、店に行くんだろ?頑張れよ。」
「うん。」
「小夜ちゃんなら絶対大丈夫だよ!」
「ありがとう。」
顔馴染みが話しているのを見かけた武流は三人の間に入ってきた。
「あ、香さんだ。紬も。」
「あ、じゃないだろ。いつの間にか馬鹿でかくなったな、武流。」
「武流くん、久しぶり。」
「武流。『紬』じゃない。『お姉様』だぞ。」
「香ちゃん、気が早いよ~」
「そうっすよ。将来の話でしょ。」
三人の話が分からず難しい顔をしていると、香が気付き、紬の肩に手を置いてニヤつきながら話し始めた。
「紬の好きな人は武流の兄、誠くんです!」
「え!?」
紬は恥ずかしそうにしながら小夜に説明した。
「告白したらね、付き合えることになって…。旭さんにも許してもらってね。その…卒業したら結婚するの。」
「婚約者ってこと?」
「うん。」
「すごい!素敵だね!」
小夜は紬をキラキラと光る瞳で見た。好き同士で婚約者とは幸せ以上の何者でもない。紬は小夜の言葉に顔を赤くしながら照れていた。
「何言ってんだよ。小夜も婚約者にする勢いで勝負してこいよ!」
「香ちゃん、婚約者って…。」
小夜が困り顔で首を振っていると、横に来ていた武流は目を細くして小夜を見た。
「何だよ。お前、婚約者いんのかよ。」
「いや、婚約者とかじゃなくて…」
「小夜はな、バイト先に好きな人がいるんだよ。」
香は楽しそうに武流に話してしまった。
(香ちゃん…。そいつにはバレたくなかった…。)
小夜は香の嬉しそうな顔を見て、項垂れた。武流は至って表情を変えることなく、小夜を見ていた。
「ふーん。」
「何よ?」
「そいつの顔見に行こうかな。」
「は!?」
「この前の店だろ?どうせお前の好みだし、ブスだろ。」
「はぁ~!?ふざけないで!いいわよ。見に来てみなさいよ。すっごくかっこいいんだから。」
武流は嘲笑を浮かばせながら、内心を隠していた。小夜は怒りながら荷物の支度をし始めた。
「武流。今余計なことするなよ。ナイーブになってるんだから。」
「香さんはお世話好きですね。
……ナイーブ、ね。」
武流は真剣な顔つきで何か考え事をしていた。二人は武流の様子を見た後に訝しげな顔をしてお互いを見た。
ーーーーおまけーーーー
保健室にて。
「ごめーん!お待たせ!」
急に入ってきた先生に驚き、二人はすぐに距離を取った。
「あれ?武流くん、貼り終わったなら、服着ていいのよ?」
「あ、はい!」
小夜は武流が服を着ている間に、保健室を急足で出ていった。小夜が出ていった後、先生は書類を整理しながら武流に話し始めた。
「武流くんって、小夜ちゃんが倒れた時に運んできた男の子じゃない?」
「…バレてたんですね。」
「どうしてまだ本校の生徒じゃなかった君があの時校内にいたのかな?」
先生は試すような顔で武流の顔を覗き込んだ。武流は何とも説明できず、目を逸らした。
「まあ、今更誰にも言わないけどね。」
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
先生はボードに記入が必要な書類を挟んで武流に渡した。
「青春してるわね~。羨ましいわ。」
「…何のことですか。」
「私も甘酸っぱい恋をしてる時に戻りたいってこと。」
「……先生って意地悪ですね。」
「そうかしらね。」
ウブな小夜と武流に比べて、大人な先生であった。
球技大会、当日。天気は雲一つない晴天で、一月にしては気温の高い日であった。グラウンドの右半分には五個のバレーコートが並んでおり、左半分には野球のグラウンドが広がり、真ん中には仕切り用の小さなネットが横並びに置いてあった。
バレーは午前中に予選を終わらせ、午後に上位二十位を決める試合をする。小夜たちのチームはEコート、つまり一番奥のコートで予選を行っていた。
「小夜ちゃん!今日も頼むね!」
「頼むね!」
いつもの女子二人組はこの三日間で『百目鬼さん』から『小夜ちゃん』に呼び名を変え、小夜を怖がる様子もすでに無くしていた。その流れが良かったのか、クラスまでも小夜を怖がる雰囲気が消えているようだった。
小夜たちのチームは午前中最後の試合をしていた。この試合に勝てば、予選を勝ち抜き、上位二十位は確定になる。小夜は練習通りの強さをみせ、チームに大きく貢献していた。
残り一点。サーブ権は相手コートにあった。小夜は普段より集中して構えていた。しかし、相手のサーブは大きく小夜たちのコート超えてしまった。
「やった!!ラッキー!!これで上位に行けるね!」
「やった!!やった!!」
チームのみんなは肩を組み、黄色い声を上げて喜んでいた。小夜はその様子を見送って、飛んで行ったボールを取りに行っていた。ボールは仕切りを超えていたものの、すぐそばにあった。小夜はそれを拾い上げ、微笑んだ。
(もしかしたら、私ちょっと信頼されるようになってるかもしれない。佐藤が言ってたように、バレたのは仕方なかったけど、努力は無駄じゃなかったのかな…。隠し事も今はもうしなくても良いしね。)
小夜がボールに語りかけるように、ボールを見つめていると、豪速球の野球ボールが小夜に向かって飛んできた。ボールは小夜の頭の高さにあり、小夜は咄嗟に持っていたボールを捨て、両腕で顔を覆うような体勢をとった。しかしその意味もなく、すぐに駆けつけた武流が小夜を庇ってボールを背中で受け止めた。
「ぐっ…。」
武流は当たったボールの痛みで小夜にもたれかかり、小夜は一瞬で起きた状況をうまく飲み込めれず、体勢を崩しかけた。
「うわっ!ごめん!武流!…そっちに人いると思わなくて…。」
「気をつけろ~!野球部!!」
ボールを投げたのは試合休憩中にキャッチボールをしていた野球部の男子だった。武流は痛みを我慢しながら普段と同じ笑顔で野球部の男子に返事をした。
「ねぇ…今の絶対痛かったよね…?」
小夜はもたれかかった武流の体を退け、当たった部位を心配するように触った。
「いっ…!」
「やっぱり…。救護室に行こう。」
小夜は武流の手を取り救護室に連れて行こうと引っ張ったが、逆に武流がその手を引っ張り、武流と小夜の顔が近づいた。
「お前さ、こんな細い腕で防ぐつもりだったの?バカかよ。…つーか、何?心配してくれてんの?」
武流はいつもの嘲笑を浮かべたが、流石に痛いのか少し余裕が無さそうだった。小夜は武流の右頬に強く手を当て、真っ直ぐに武流を見た。
「当たり前でしょ!自分を庇ってくれた人間を心配しない人間がどこにいるのよ!」
武流は小夜の真剣な目に引き込まれそうになり、自然と嘲笑が消えていた。小夜は目つきを変えて、少し怒り気味に武流を見た。
「それに、冷や汗かいてるくらい痛いなら、変にスカしてんじゃないわよ。」
「…はい。」
武流は端麗な顔の睨みに、少し肌が粟立てた。
小夜はバレーボールをコートの籠に返すと、すぐに武流の元に戻り、救護室に向かった。救護室のテントにいた保健の先生に話しかけたのだが、何がどうなったのか、足からの出血が止まらない子の手当てで手を離せない様子だった。先生は武流の体を触りながら、必要最低限の確認をし始めた。
「呼吸がしずらいとかは無いわね?」
「まあ、はい。」
「じゃあ、悪いけど、保健室の鍵渡すから、入ってすぐ右にある冷蔵庫の中の湿布を貼って待ってて。…背中だから小夜さんに貼ってもらいなさい。私もこの子の手当が終わったらすぐに行くから。
小夜さん、よろしくね。」
「はい。」
先生は小夜に鍵を渡した後に、すぐに怪我をした生徒の元に行った。
ーーーー保健室ーーーー
小夜は武流を座らせると、言われた通りに冷蔵庫から湿布を取り出した。
「じゃあ、脱いで。」
「は!?」
「何驚いてんのよ。脱がなきゃ貼れないでしょ。」
「…そうだけどさ、そういうの簡単に言える人間なんだな…。」
「?」
小夜は、赤くなりながらも眉間に皺を寄せている武流を見ながら、湿布を貼る準備をしていた。武流が上の服を脱ぎ終わると、小夜は武流の後ろにまわり湿布を貼ろうとした。
「赤くなってる…。」
「は!?赤くなってねえよ!」
「いや、怪我のとこが赤くなってるのよ。」
「ああ、そっちか…。」
小夜は痛みを与えないようにと、膝を突きながらゆっくり丁寧に湿布を武流の背中に貼った。
「ありがとう。…庇ってくれて。」
「ああ。」
「それ以外にも、いろいろ。」
「は?」
「あの女の子たち二人が私と距離を詰めてくれたのは、あんたのおかげでもあるから。」
「別に、俺は…」
小夜が湿布を貼り終わった後に武流はゆっくり後ろに目線を送り、小夜を見た。
「なんか顔赤いわよ?」
「…るせぇ!…女に裸なんて見られる機会ねえんだよ。」
「へ~」
小夜は武流の弱点を見つけた気になって、勝ち誇ったような顔をして武流を見ていた。
「お前は、男の裸見慣れてんのかよ。」
「私の住む家は男が圧倒的に多いので、見慣れてます。」
「なんか、ムカつく…」
「何でよ。まあ、でも…」
「何だよ?」
小夜は吹き出すように笑うと、武流を見上げるようにして見た。
「結構ウブなんだね。そういうとこいいと思う。いつもスカしてるくせに……」
小夜は笑いを堪えるために最後まで言えなかった。それを見た武流は急に小夜の腕を鷲掴みにし、小夜の後ろにあるベットに小夜を押し倒した。
「な、なに!?」
「お前さ、あんま調子乗んなよ。」
「離してよ!!」
小夜は鷲掴みにされた両腕を抜こうとしたが、武流が力を強めたので、余計に抜けなくなってしまった。
「俺だって一人の男なんだけど。」
武流はどこか悲しげな表情で小夜を見つめ、小夜はその目に何も言えなくなってしまった。武流は小夜の耳元に息がかかるほど顔を近づけた。
「やっ…近っ…」
(近すぎて、武流の吐息が耳に…)
小夜は初めて顔を赤くし、鼓動をうるさくした。しかし武流は何か言おうとして力つき、小夜の横で倒れた。
「ちょっ…、何…?」
「くっそいてー…」
武流は無理に動いたので、背中を再び痛めたのだ。小夜はすぐにうつ伏せになった武流の体を退け、楽な姿勢を取らせた。
「調子に乗ってんのはどっちよ。」
「…ふっ、そういうお前も顔赤いけどな。」
「うっ。」
武流の言う通り、小夜の顔は赤くなっていた。小夜も自分で赤くなっていると分かるほど顔が熱くなっていたので、強くは反論しなかった。
こうして、午前の部と昼休みが終わった。
~午後~
午後の部では武流のことがあったせいか小夜の調子も伸びず、十位という結果で終わってしまった。しかし、チームのメンバーは小夜を褒め称え、喜びあった。
片付けや着替えなどが終わり、終礼がなった頃、小夜は教室に遊びに来た紬と香とで話していた。
「この後、店に行くんだろ?頑張れよ。」
「うん。」
「小夜ちゃんなら絶対大丈夫だよ!」
「ありがとう。」
顔馴染みが話しているのを見かけた武流は三人の間に入ってきた。
「あ、香さんだ。紬も。」
「あ、じゃないだろ。いつの間にか馬鹿でかくなったな、武流。」
「武流くん、久しぶり。」
「武流。『紬』じゃない。『お姉様』だぞ。」
「香ちゃん、気が早いよ~」
「そうっすよ。将来の話でしょ。」
三人の話が分からず難しい顔をしていると、香が気付き、紬の肩に手を置いてニヤつきながら話し始めた。
「紬の好きな人は武流の兄、誠くんです!」
「え!?」
紬は恥ずかしそうにしながら小夜に説明した。
「告白したらね、付き合えることになって…。旭さんにも許してもらってね。その…卒業したら結婚するの。」
「婚約者ってこと?」
「うん。」
「すごい!素敵だね!」
小夜は紬をキラキラと光る瞳で見た。好き同士で婚約者とは幸せ以上の何者でもない。紬は小夜の言葉に顔を赤くしながら照れていた。
「何言ってんだよ。小夜も婚約者にする勢いで勝負してこいよ!」
「香ちゃん、婚約者って…。」
小夜が困り顔で首を振っていると、横に来ていた武流は目を細くして小夜を見た。
「何だよ。お前、婚約者いんのかよ。」
「いや、婚約者とかじゃなくて…」
「小夜はな、バイト先に好きな人がいるんだよ。」
香は楽しそうに武流に話してしまった。
(香ちゃん…。そいつにはバレたくなかった…。)
小夜は香の嬉しそうな顔を見て、項垂れた。武流は至って表情を変えることなく、小夜を見ていた。
「ふーん。」
「何よ?」
「そいつの顔見に行こうかな。」
「は!?」
「この前の店だろ?どうせお前の好みだし、ブスだろ。」
「はぁ~!?ふざけないで!いいわよ。見に来てみなさいよ。すっごくかっこいいんだから。」
武流は嘲笑を浮かばせながら、内心を隠していた。小夜は怒りながら荷物の支度をし始めた。
「武流。今余計なことするなよ。ナイーブになってるんだから。」
「香さんはお世話好きですね。
……ナイーブ、ね。」
武流は真剣な顔つきで何か考え事をしていた。二人は武流の様子を見た後に訝しげな顔をしてお互いを見た。
ーーーーおまけーーーー
保健室にて。
「ごめーん!お待たせ!」
急に入ってきた先生に驚き、二人はすぐに距離を取った。
「あれ?武流くん、貼り終わったなら、服着ていいのよ?」
「あ、はい!」
小夜は武流が服を着ている間に、保健室を急足で出ていった。小夜が出ていった後、先生は書類を整理しながら武流に話し始めた。
「武流くんって、小夜ちゃんが倒れた時に運んできた男の子じゃない?」
「…バレてたんですね。」
「どうしてまだ本校の生徒じゃなかった君があの時校内にいたのかな?」
先生は試すような顔で武流の顔を覗き込んだ。武流は何とも説明できず、目を逸らした。
「まあ、今更誰にも言わないけどね。」
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
先生はボードに記入が必要な書類を挟んで武流に渡した。
「青春してるわね~。羨ましいわ。」
「…何のことですか。」
「私も甘酸っぱい恋をしてる時に戻りたいってこと。」
「……先生って意地悪ですね。」
「そうかしらね。」
ウブな小夜と武流に比べて、大人な先生であった。
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