【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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嫉妬

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~昼休み~

 空き教室。小夜は二人に絢香のことを話していた。小夜の様子は意外にも落ち着いており、どこか他人事のように話していた。

「それでね、今日、絢香さんは朔也くんに何か話すんだって。」

話し終えた小夜を見ていた二人は、しばらく黙り込んだ。そして、最初に話し始めたのは紬だった。

「どうして小夜ちゃん、そんなに他人事みたいに話すの?朔也さんが取られちゃうかもなんだよ?」
「…分からない。でも、これで良かったんだって思ってるんだよね。」
「そんな!朔也さんのこと、諦めるの?」
「諦めるも何も…」

すると突然、香は箸を大きく机に置いた。その音に小夜と紬は肩を跳ね突かせ、香の顔を恐る恐る見た。香はいつもより低い声で小夜に質問した。

「諦めるも何も、何?」
「だから…私より絢香さんの方がずっと見合ってるし……」
「それで?」
「それで…私は邪魔なんじゃないかと思って…」
「ふざんけんな!!」

香は唐突に怒りだし、立ち上がった。小夜は予想外の反応に固まるしかなかった。

「小夜は朔也のことが好きなんだろ!?私らに毎日相談するほど好きなんだろ!?…だったら簡単に諦めんなよ!!私らだって真剣に小夜のこと応援してんだぞ!」

小夜はその言葉に泣きそうになりながら、俯いた。

「でも、辛いの。バイト中に朔也くんと絢香さんが仲良く昔の話してるとね。ああ、私の入る場所は無いんだなって考えちゃうの。別に絢香さんは何も悪い事してないのに、絢香さんがいなければとか、早く海外に帰らないかなって考える自分がどんどん醜く見えて……。こんな自分じゃ、朔也くんに女として見てもらうどころか、嫌われちゃうんじゃないかって…。怖くて朔也くんの目も見れない…。」

香は大きく溜息をつき、大袈裟に椅子に座った。それを見た紬は静かに笑った。

「いいか。小夜。それは女の思う壺だ。その女は小夜が店からいなくなるように仕向けてんだよ。」
「絢香さんが…?」
「小夜は女を良い人みたいに言ったけど、恋愛に良い人も悪い人もない。取るか取られるか、捕まるか捕まえるか、だ。朔也を取られたくないんだろ?だったら、辛くても、怖くても、その女と勝負してこい。」

香は先程の怒り顔を緩ませ、軽く微笑んだ。その表情に小夜は背中を押された気がして、諦めかけた気持ちが風化していった。

「ふふふっ、香ちゃんは本当に人想いだね~。友達の恋愛に真剣に怒ってくれる人なんて、なかなかいないよ。」
「うるさいな~」

紬は照れる香を見ながら、笑っていた。小夜はその二人を見て、改めて二人に出会ったことに、嬉しさを感じた。

「だけど、約束は約束だから、球技大会の練習には参加するよ。」
「じゃあ、球技大会終わったら、すぐに店に行きなよ。」
「うん。………香ちゃん。」
「ん?」
「ありがとう。」

香は小夜の言葉と笑顔に再び照れて、それを見た紬はまた笑った。
 昼休みが終わる頃、香は移動教室だったため、二人より先に出ていった。小夜は机と椅子を元に戻し、教室を出ようとしていた。その時、紬が柔らかい声で小夜を引き止めた。

「小夜ちゃん。」
「ん?」
「さっき、絢香さんのこと話してた時に自分が醜いって言ってたでしょ?」
「ああ…うん…。」
「それは違うよ。」
「え?」

紬は胸に手を置いて、ゆっくり話した。

「嫉妬するのはね、本気で恋してる証拠なんだよ。」
「嫉妬…?」
「そう。本当に好きだから、取られたくないって思うの。ちゃんと人を好きになってるっていう素敵な証拠なんだよ。」

紬は小夜の横につき、小夜の目を真っ直ぐに見つめた。

「だから、醜いなんて言わないで。大事な小夜ちゃんの気持ちなんだから。」

小夜の心を締め付けていたものは自然と消え失せ、先程まで醜いと思っていた感情を素直に受け入れることができた。朔也を好きになったから知ることができたんだと、嫌悪感より、むしろ喜びが少しだけ心の中に現れた。

「まあでも、嫉妬が有り余って行動になっちゃうと流石にダメだけどね。」
「確かにね。」

小夜と紬は笑い合いながら、空き教室を出た。

ーーーー体育館ーーーー

 学校が終わり、予定通りバレーの練習試合が始まっていた。その中で、一際目立っていたのは小夜だった。小夜は相手チームから返されたボールはどんなものでも拾い上げ、トスもアタックも完璧だった。それもそのはず。小夜はどんなことにも抜かりなく努力をしてきた。運動も人並以上の実力がある。
 相手チームが手も足もでない小夜の技術に全員が圧巻していた。

「百目鬼さん、すごい!!」
「すごいよ!!」

相手チームと二十点差で勝ち終えた頃には、小夜の周りに笑顔のチームメイトが群がっていた。あの時の女子二人組も手のひらを返すように、笑っていた。

「いやいや、チーム戦だし、私の力じゃないよ。」
「そんなことない!そんなことない!バレー部並のうまさだったよ!」
「そうかな…。」
「百目鬼さん、入れて良かった~!」
「ほんとだね~!」

小夜はチームの雰囲気が良くなっていることに安堵し、静かに喜びを噛み締めていた。

「あ!男子たちが来てる!」
「武流くんもいるじゃん!行こ行こ!」

小夜を取り囲んでいた女子たちは、あっという間に武流たちがいるところへ行ってしまった。小夜と武流は一瞬目が合ったが、武流がすぐに目を離し、近寄ってきた女子たちと話し始めたので、小夜も目を逸らしてその場に立っていた。

「すみません。バレー部の者なんですが…」

小夜が一人でいるとバレー部の女子たちが近寄ってきて小夜に勧誘をし始めた。

「いや、あの、嬉しいんですけど、部活には通えなくて…」
「そこを何とか…」

ー ー ー ー ー ー

「武流くん!野球勝てそう?」
「ぼちぼちかな。」
「何言ってんだよ。こいつめっちゃ上手いんだぜ。さっきもさ、野球部に勧誘されててさ…」

武流は相変わらずに猫をかぶり、いかにも好青年のような笑顔を振り撒き、話を聞いていた。

「うっわ。百目鬼いんの?大丈夫かよ。」
「百目鬼さん、バレーうまいんだよ。怖かったけど、入れてラッキーだった!…武流くんのおかげだよ!」
「……そっか。良かったね。」

武流が軽く笑うと、女子たちは頬を染めながら、口角を緩ませた。
武流は横目で勧誘に困っている小夜を見て、クスッと笑った。

「なんか私たち可笑しかった?」
「え?…あ、ううん。ただ、可愛いなって思っただけ。」
「え…、えへへ…」

目の前の女子たちが照れ笑いをしながら真っ赤になっているのをよそに、武流は再び小夜を見た。その瞳は、決して嘲笑のものではなく、見守るような温かく優しい眼差しだった。
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