救国の聖女として騎士団副団長を国宝級ディルドだと貰ったことから始まる焦ったい恋の話〜世間も羨む幻のイチモツは男女逆転モラル世界では動かない〜

たまりん

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第五話 ディルドは自分を取り戻す

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 「……ゼバ、天才」
 「ゼバだと、……君という人は、やはりあの男のことを……」
 
 ひとつの光明に震える私に対して、ケイツ様の顔はまるで鬼神のように凍りついた。
 冷気すら漂わせ始めたケイツ様の頬が、ぴくぴくと剣呑に痙攣しているのに気付いた私はぎょっとして目を見開いた。

 (あ、もしかして、地雷はここだったのかな?)

 今更ながらそう思い至ったけど、今はそれどころではない。、あれは絶対に正論だと思うから。

 ――私は、この機会を絶対に逃さない

 「ケイツ様、ゼバの事はこの際どうでもいいんです!」

 そう言った瞬間、ケイツ様の瞳が戸惑いに揺れた。

 「……どう、でもいいと?」
 「はい、どうでもいいんです!!」
 「……どうでも、……本当に?」
 「はい、本当です!今はそんなことより、私達の未来の方が大事ですから」
 「……私たちの、……未来?」
 「はい!私達二人の未来です!!」

 私がそういうとケイツ様の死にそうだった表情は、じわじわと回復してその青灰色の瞳には分かりやすく少し明るい光が宿った。

 「二人の、……未来」

 ケイツ様はどこかうっとりしたようにそう呟いた。

 「はい、だから聞いてください!」
 「な、なにを……」
 「これから私の言う通りにしてください!!」

 私はそう言って、しっかりとケイツ様を見据えた。

 「一体、何をしろというんだ?」
 「ケイツ様、このまま私を抱いてください!」

 そう言った瞬間、ケイツ様はピシッと固まり、その瞳は見開かれた。

 「出来たら酷く、お願いします」
 「……は?」」
 「私が叫んでも、痛がっても、泣いても、もしかしたらケイツ様自身が苦しかったり痛かったりしても、私が良いと言うまで、行為を徹底的に貫き通していただきたいのです!!」
 「な、何を言ってるんだ、君は、そんなことをしたら、私は君を壊してしまう、最悪命だって保証出来ない……」

 そう戸惑うケイツ様に私は不敵に微笑みかけた。
 本当は私にも不安だってある。だけど、今、それをケイツ様に見抜かれる訳にはいかないと思った。

 「ケイツ様は私を誰だかお忘れですか?」

 その言葉にケイツ様は、はっと、息を呑んだ。

 「まさか、か、回復魔法を、でも、そんな……」
 「大丈夫です、必ず成功します……」

 その言葉にケイツ様は顔を歪めた。

 「しかし、もしも君の身に万が一のことがあれば、私は生きては行けない……」
 
 
 頭を抱えるゲイツ様に私はゆっくりと首を振って、微笑んだ。

 「二人で生きていく為に、です。ケイツ様、私は自分を信じているんです、だからどうかケイツ様も私の事を信じて下さい」
 「ひより……」
 「ケイツ様……」

 ケイツ様は苦渋の表情で目を閉じたまま一瞬の思案をしているようだったが、やがて不安そうに口を開いた。

 「わ、わかった、君に従おう……」

 私の身体をぎゅっと抱きしめたケイツ様の身体は震えていた。私も不安と希望のなかで、必死にその体を抱きしめ返した。

 ――大丈夫、きっと大丈夫

 「ひより……」

 憂うように青灰色の瞳が私をみつめる。

 「ケイツ様、どうかもう躊躇わないで、来てください……」

 私は今にも泣き出しそうなケイツ様に精一杯の笑顔を向けた。

 「ケイツ様……」
 「あぁ、ひより、愛しているよ……、愛してる」
 「私もです、ケイツ様」

 ――だから



 ◇◇◇


 
 「う、うぅぅぅ、くぅ……」
 
 目の前でケイツ様が、苦痛の極みと顔を歪めながら、くぐもった声をあげている。
 快楽と後悔を滲ませたその表情は私を堪らない気持ちにさせながら、彼の股間にそびえ勃つ熱くて大きな滾りは今、私の身体を蹂躙し、大きなナイフのように私の体を何度も串刺しにしている。
 
 「ふっっ、あっ、あっ、ケイツ様、もっと、辞めないで」
 「あ、っ、くそっ、どうして私はこんな、ひより…、ひより…」
 
 ――お願いだからやめないで

 私は、そう願いながらケイツ様に縋りつく。
 自分でも、随分酷なお願いをしている自覚はある。
 その証拠に、破瓜のものなのか、傷によるものなのか最早分からなくなった血液が寝台のシーツに染み渡っている。
 もう何度、ケイツ様をこうして咥えこんだまま過ぎた回復と苦痛を繰り返しているだろう。
 
 痛い、苦しい――
 
 だけどケイツ様は気付いているだろうか、それを繰り返している今、私がこんな状況からも、痛みだけではないものを確かに感じ始めていることを。

 「あっ、あぁ、あぁ、ケイツ様、もっと、もっと、もっと酷くしてください!」
 「あぁ、ひより、ひより、私のひより……」

 その言葉に泣きたくなった。
 苦痛と快楽により、少しずつ馴染んでいるようにも思う二人の結合部。

 ――私は、その言葉の通り

 そんな確かな希望と欲のなか、私は腹上死寸前の快楽と苦痛に耐え続けた。

 もう心は、寂しくない、苦しくない。
 ケイツ様がしっかりと私の手を握り、この瞳を真っすぐに捕らえて同じ思いで一つになる為に、今こうしてくれているから。
 
 だけど、傷つき、癒し、呻きながら受け入れ続ける、そんな私の中で、行為を強いられ続けるケイツ様の負担も計り知れない。

 精神的な負担はもちろんだけど、肉体的にも相当な負担を強いている。
 何度も何度も、本当に先が見えないほど何度も、私の中で高まり、精を吐き出したイチモツは、強制的に復活を繰り返されて、その精をひたすら私のなかで搾り取られる。
 それはもしかしたら、私の苦痛や快楽を大きく凌駕する果てしない責苦なのかもしれない。

 「あぁぁ、ひより、イク、また、イクよ…くっ…」
 「ケイツ様、来てください、ああっ!」
 「あっ、あぁぁ、っ……、ダメだ、快楽が強すぎる……」
 「ひよりっ……」
 「ケイツ様、ケイツ様……」
 「ひより、くっ、あああ!」

 私の中に倒れ込む、ケイツ様を抱きしめて、私はまた無情に徹してもう何度目かすら数え切れない回復魔法を口にする……

 「ケイツ様、ごめんなさい…」
 「謝るな、詫びねばならないのはこの私なのだから、はぁ、ひより、ひより…」



 そんなことを夜ごと繰り返し、空が白み始めた頃、私は最期の回復魔法を口にして、意識を手放した。
 たぶんその時には、気力も、体力も、魔力も使い尽くしていたのだと思う。

 そうして、丸一日眠りについていた私は、心配そうに私を抱きしめるケイツ様の腕の中で目を覚ました。

 「ひより、大丈夫?辛くはない?」

 大きな疲労感は残るものの、起き上がれないほどではないと悟った私は、ふぅぅ、と息をついて頷いた。

 ーーよかった、下腹も治癒魔法が効いている

 「はい、水を飲んで……」

 そう優しく差し出された、柑橘系の味がする水を飲み干した私の濡れた唇を見て、ケイツ様はそっと私に唇を重ねて、食むような甘いキスをしてそっと離れる。

 「ケイツ様、体の方は大丈夫ですか?私……」

 自責の念で顔を歪める私と瞳を合わせたケイツ様は、ゆっくりと笑みを作って首を振った。

 「私は大丈夫、むしろ、なんと言えばいいのだろう、生まれ変わったような、そんか気分すらしているよ、ひより、ありがとう、きっと私は……」

 そう何かを言いかけたケイツ様は「やめておこう、今、口にすると良からぬ思いに支配されて負担をかけてしまうから……」と言葉を濁して、寝台に横たわり、私を後ろからギュッと抱きしめてくれた。
 
 それが温かくて心地よくて、再びうとうとと眠気が襲ってくる。ドクンドクンと心音を刻む優しい胸に背中を抱かれながら、眠りに落ちそうなその瞬間、私の耳元でそっと、切なく囁かれた言葉を私は夢見心地のなかで聞いたように思う。

 「愛しているよ、ひより、だから、どうか待っていて欲しい、私は必ず貴女に誇れる自分となって君の傍で生きていきたいから……」



 そんな温かな夢から覚めた時、ケイツ様は屋敷から姿を消していた。

 『どうか待っていて、愛しているよ、ひより』

 ただそれだけの短い書置きを見て、私は苦笑した。

 「あっちの世界には、って言葉もあるんだと、ちゃんと話しておけばよかったかな……」

 そうひとつ悪態をつきながら、私は立っていられなくて、壁にもたれかかった。 


 ―――ケイツ様

 正直、取り残された私は不安だった。
 だけど私はケイツ様を信じようと決めた。

 この時、覚悟を持ってそう決めたのだ。



 ◇◇

 

 「――王宮に?」
 
 そうして一年が過ぎた。
 私は、ケイツ様の帰りを待ちながら、私の知る薬剤や医療器具などで、この国に応用できるものがあればと、情報を整理して国の有識者と面会するなど、それなりに忙しい毎日を過ごしていた。

 ―――ケイツ様は今、どうしているのだろう?

 そんなある日、我が家に王宮の使者が訪れた。
 突然女王から呼び出しを受けたのだ。

 「わかりました」

 訝しみながらも私はその午後、迎えに来た馬車に乗り王宮を訪れた。

 ―――相変わらず豪華なお城だなぁ

 広間に通された瞬間、女王の明るい声に迎えられた。


 「おお、聖女ひよりよ、久しいな、よく来てくれた!」
 
 相変わらずエルフのように美しい女王は嬉しそうに笑顔を浮かべたが、その後、ごほんとひとつ咳払いをして、少し口ごもったようにこう切り出した。

 「早速ではあるのだが、今日来てもらったのは、そ、そなたに以前与えた、ディルドの話であるのだが……」
 「はぁ……?」
 「やむを得ない事情があってな、一度わらわがあれを召し上げることとした、で、あるからして、今この時を持ってあれはそなたのものではない、しかとそう心得よ、聖女ひより」

 私は突然の話に驚愕して青褪めた。
 
 「ま、待ってください、それは困ります、それだけは……」

 ――受け入れるわけにいかない
 
 「だが、安心せよ、聖女よ、悪い話ばかりではない、その代わりそなたには、我が国の外れにある肥沃な領土を代わりに与えることにしようと思ってな」……

 血の気のない肌がますます色を失う。
 
 「領土……、そんな……」

 茫然自失の私は顔を歪めた。
 女王は諭すように淡々と続ける。

 「そなたはそこの領主として移り住むがよかろう、場所が場所であるからして魔物の侵攻はまれにあるかもしれんが、そなたは強い、わらわとしても彼の地を聖女が護り治めてくれたら心強い!」
「いえ、ちょっと待ってください、私は…」
「なに、魔物がでるといっても気候も温暖で、海、川、山に恵まれた良き土地であるぞ?」

 突然の話に狼狽えた私は、思わず声を上げた。

 「そんな、土地など不要です、ですからどうか今まで通りケイツ様を……」

 ――私は、ここで、ケイツ様の帰りを待つのだ
   待たなければならない

 ケイツ様を取り上げられ、他の土地への移動など考えられなかった。
 毎日ケイツ様を思い一人で過ごすだけでも、内心では寂しくて、不安で、逢いたくて、苦しくなって、それでもケイツ様が残してくれた一枚の紙に残された約束だけが、私の唯一の希望だった。
 
 それなのに、そんな辛うじて繋いでいる希望の糸すらも途切れてしまうなんて……
 私は泣きそうになりながら女王に詰め寄った。

 「理由を、理由をお聞かせください、女王陛下、私に出来ることなら、なんでもしますから……」

――お願いだから、私からケイツ様を奪わないで

 そんな私をみつめた女王は、豪華扇の上からじっと私の様子をみて、考えるように呟いた。
 
 「ほう、……、それは勇ましいことだな」

 そう言葉を切った女王は私の顔をじっと見据えた。
 私は恐々としながら次の日言葉を待った。
 
 「実は、そなたとの縁談を望む者からの嘆願がきておってな、どうしてもとそれはもうシツコイ男で、わらわもほとほと困っておる」

 そう言って女王は美しい顔で呆れたように溜息をついたが、私はその言葉にひくりと息を呑んだ。

 「一度はにべもなく断ってやったのだが、わらわが冗談で口にした辺境の魔の巣窟の奪還に成功して、無事凱旋してきおってな……」

 その言葉に私は眉を寄せた。

 ――縁談?この私に??
   冗談ではない
 
 「女王陛下、何を言っていらっしゃるのですか、私には縁談など受ける気はありません、ただ今のままあの屋敷に、もし、それがダメなら王都の片隅で出来る仕事をさせていただきながら身を置かせていただけたら、それだけで……」

 縋り付くように懇願する私に、女王は驚いた様子で瞳を瞬かせ続けた。
 
 「まぁ、待て、そう事を急くでない、まずは考えてやってみてはくれぬか?今日は、その男もここにやってきている」

 その言葉に私は驚愕した。
 逃げ場を失う恐怖が心臓に嫌な音を鳴らし始める。
 あの日と同じ様に、訳も分からないまま、運命を変えられてしまったらと思うと恐ろしかった。

「お待ちください、女王陛下、私は本当に結婚など考えてはおりません、だからどうか……」

 だけど、女王は煌びやかな扇を片手に、フンと鼻を鳴らした次の瞬間、声を張り上げた。
 まるで、あの日と同じように……

 ――あぁ、私はどうすればいいのだろう

 あの日ほどではないにしても、こんなに多くの人々が見守るこの広間で、おそらくはその人の功績を讃えるために設けられたこの席で、功労者に恥をかかせるなんて
通常では考えられないことなのだろう。
 
 そうして今更ながら思い至る。

 ――あぁ、きっとあの時、ケイツ様も

 このような思いだったのだろうと切なくなる。
 モノのように見ず知らずの異性に下げ渡されたあの時のケイツ様の心情はいかばかりだっただろう。

 それでも、私は、どんな罰を受けようとも、あの人を諦めることなどもう出来ない。
 その結果、たとえ女王陛下の顔を潰し、不敬罪で罪人とされてもうケイツ様に逢えないとしても、私はここでケイツ様以外の他人と縁など結べない。

 「辺境の騎士、バーディーン、入室を許可する!」
 「はっ……」

 その名に私は目を見開いた。

 ――バーディーン?

 私は俯いたまま近づく靴音を聞きながら、息を呑んだまま固まっていた。
 ドクンドクンと心臓が波打つ。

 ――まさか、ここはバーディーン様が存在する世界?

 今はただただ、私に近づくその男と向き合うのが恐ろしかった。
 私などが、この状況と、あの絶対的な存在感に抗うことなど、出来るのだろうか?
 だけど、それでも、ケイツ様……
 私は、心のなかで、愛しい男の名を口にした。


 やがて、俯いたままの私の横に一人の男が歩みを止めて立ち並んだ。
 女王陛下に一礼したらしい男は、彼女が頷くのを待って、私に向き合うよう歩み寄る。

 
 やがて、その男は、私の前に片膝を立てて跪いて、俯いたままの私の指先にひとつ小さなキスを落とした。
 私はそれに肩をびくりと震わせた。

 ――やめて

 私の不安は限界値に達して心が悲鳴を上げる。
 だけど、そんな気持ちも知らないで、目の前の男性は私を見上げた。

 ――あぁ、ダメ、目なんて合わせたくないのに

 そう思うのに、閉じてはいられない瞳の視界の先には、どうしても想像してしまう一人の男性が映り込む。
 
 グリーンの瞳が間近で私を見つめている。

 ――あぁ、やはり、バーディーン様、その人に違いない

 
 だけど……
 そうなのだ、確かに、そうなのだけれど…………も………………??

 ――――えっ、えええ??ちょっと待って???

 私の脳の処理能力はどうかしてしまったのだろうか?ケイツ様恋しさにバグってしまったのだろうか。


 私は目前のその姿をバーディーン様と分かっていながらも、バーディーン様だと


 ――だって、今、私の目前で柔らかく微笑んでいるのは

 「ケ、イツ……さ、ま?」

 そう口にすると、目の前の男はそれを肯定するように喜色を滲ませた優しい瞳で笑みをつくり、私の疑問を受け止めた。

 「だ、だけど……」

 戸惑う私に、女王が苦笑しながら声をかける。

 「聖女ひよりよ、その者が先ほど話したシツコイ男よ、名はケイツ・バーディーンという、もはやディルドではなく、故にそなたのではない……」

 その言葉に私は鳩が豆鉄砲を食らったように、愕然と固まることしか出来ない。

 「……ケイツ・バーディーン?」

 私は、しばらく間をおいた後に、そう呟いてパチパチと瞬きをした。
 そんな私に女王はしてやったりという顔で微笑んだ。
 
「この度そなたに授けた領地と魔物の住まう国境の間には緩衝地帯として大変重要な砦があるのじゃ。そこにおるバーディーンには今後、としてその砦を護り治めてもらうこととなった。ちなみにその者の旧名であるビコティッシュはわらわが『ティッシュ持ちの美少年』という意味から名付けてやったディルド名であった」
「……へ?」

 ――な、何それ?

 「ちなみに、その名づけの時、髪色と瞳の色も魔石の効力によりわらわ好みに改変していたのだが、それも本来のものに返せ戻せと煩いので、今回、心機一転戻してやったところだ、ディルドでないならもう褒賞とは言えぬから、聖女からは一旦返却してもらうしかない、その代わりの褒美がかの辺境の地と言う訳だ……」

 女王陛下は、そう溜息をつきながらも生温かな瞳でケイツ様を見つめた。

 「さぁ、ケイツ・バーディーンよ、これでそなたの功績に報いる為に、わらわに出来ることは全てやりつくした」
 「はっ、ありがたきことにて」
 「だが、ここからの二人の気持ちにわらわは干渉するほど無粋ではない、我が恩人、聖女ひよりよ、後は心のままに己が道を決めるがよいぞ」

 そう言って女王陛下が鈴の音水戸のお殿様のような笑い声をあげた瞬間、ケイツ様が握っていた私の指先に力が込められた。

 「聖女、いや、……ひより」

 ケイツ様が、今私の前で跪き、真っすぐな瞳で私を見つめていた。
 その瞳は私の知る、青灰色の優しい色ではなく、どこか野性味の感じられる翠の瞳。プラチナブロンドだった髪色は濃い蜂蜜色に変貌している。
 私は未だ理解が追いつかない頭でケイツ様を見つめる。

 ――ケイツ様、ケイツ様なのだ
 
 だけど変化はそれだけではない。
 白かった肌は小麦色に日焼けし、身体は実用的な筋肉を纏い肩や腕などは特にその厚みを増していて、頬に傷痕が残る。
 そして纏う武器も実用的で重量感を感じさせて、全身に纏う雰囲気も猛々しい。

 ――これがあのケイツ様

 優しい水色に輝く瞳はもう存在しない。
 だけど私を真っ直ぐに見つめる翠瞳のなかには、確かに私の知りすぎた温もりが宿っている。
 最後の夜、何度も激しく口づけを交わしながら、見つめ合った瞳の奥の熱を今も私に向けて宿している。
 じわじわと体中に広がっていく安堵と熱が、私に目の前の人がケイツ様なのだと知らしめる。

 どれだけそうして見つめ合っていただろう。
 まるで私が納得するタイミングを見計らっていたかのように、ケイツ様が僅かにまつ毛を伏せて、私の手を握る指先に力を込めた。

 「ひより、どうかこのケイツ・バーディーンを君の唯一の伴侶として欲しい、私はこの先、君をただ一人の妻として、いつ如何なるときも君を愛し、敬い、護り、共に歩む事を誓う、待たせてすまなかった……」

 そう言われた瞬間、自然と涙が溢れていた。
 噛み締めた唇が音もなくふるふると震える。

 「ケイツ様……」

 溢れ続ける涙でなかなか言葉を紡ぐことが出来ない私は、人目も憚らずケイツ様の胸に崩れ落ちるように抱きついた。

 「私、私も、誓います、ケイツ様、どうか私を貴方の妻にしてください……」

 「「「「「おおお――!!!」」」」」

 その瞬間、周囲は溢れんばかりの拍手と歓声と口笛に包まれた!何故か管弦楽団が音楽を奏で始める。

 「ひより、ありがとう……」
 「私こそ、ありがとう……」

 そうして抱きしめ合う私達に向けて女王は「決まりじゃな」と息をついて、「宴の準備をするのじゃ、盛大にな!!」と指示を出して周りはその言葉に歓喜する。

 そのまま王宮では、私達の結婚と、ケイツ様の功労、私達の新天地への就任が祝われて賑やかな夜会が時を忘れて繰り広げられた。
 この世界でも、こうして時間が経つほどに、無礼講になるのが常なのか、徐々に場は和んでゆき、堅苦しい礼儀を抜きにしてお酒を楽しむ人達が増え始めた。
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