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第63話 1536年 6歳 歓迎会を開いてくれたぞ
しおりを挟む歓迎会を開いてくれるそうなので、参加することにした。
弥太郎
「今日は我々の歓迎会を開いてくれるそうなので参加しましょう」
俺
「そうだな。夜襲の警戒は最小限に抑えて、
兵士には楽しむよう伝えてくれ」
歓迎会が始まった。
村長が挨拶をし、逸香が翻訳する。
……今は普通に通訳できている。
(ただし、細かいニュアンスは怪しい。)
逸香が忙しい時は、二郎が残りの兄弟の面倒を見ている。
二郎は無口だが、皆を支える兄貴だ。
時々、村長は逸香の頭を撫ぜたり、肩を揉んだりしてから、
「どうだ?」という顔で俺を見てくる。
これだ。困った。
逸香を見ていると、
アイヌの老若男女に好かれているのがよく分かる。
おまけに安田の兵士たちまで、
「姉さん、姉さん」とほぼアイドル状態だ。
この分だと、取引も上手く行く。
それは間違いない。
兵士も楽しんでいた。
そこへ時香が近づいてくる。
年齢が俺と同じだから親近感があるのだろう。
時香
「若様に、私たちの家を見てほしいなー」
近くにいた弥太郎が驚いて、
弥太郎
「若様、申し訳ございません。子供の言うことなので」
弥太郎。
俺と時香は同い年だ。忘れてないか。
俺
「まあ、いい。弥太郎も一緒に来い」
島田や水斗が付いて来ようとしたので止める。
俺
「宴会を楽しめ」
安田を見ると、嬉しかったのか酔い潰れて寝ていた。
兵が六十人もいれば、飲みの相手も大変だ。
時香に案内され、海沿いの村外れへ行く。
そこに倉庫と民家があった。
民家は敷地が広く、
三十人くらい暮らせそうな大きさだ。
時香
「若様、あれが私たちのお家だよ。
建てるの、すっーーーーーごく大変だったんだよ~」
苦労アピール。
褒めてほしいのだ。
俺
「時香、よく頑張ったな。偉いぞ」
弥太郎
「そういえば時香。蝦夷地に来てから、
文字や計算の勉強はしていたのか?」
時香は「しまった」という顔をして、
ぱっと走って逃げ――大声。
時香
「若様こっちこっち!家の中も見てーー!」
……してない。
話題転換が分かりやすすぎる。
俺と弥太郎は苦笑した。
家の中に入る。
事前に指示していた通り、
防寒用の暖炉があり、壁も厚い。
これなら蝦夷地の冬も越せただろう。
時香
「若様、聞いて!
冬の間、兄ちゃんの言う文字とか計算はできなかったけど、
アイヌ語は覚えてたんだよー!
アイヌのお友達もいっぱいできたんだよ~」
俺
「時香、偉かったな」
満面の笑みの時香。
俺
「よくこんな立派な家を建てられたな」
時香
「逸香姉ちゃんと三郎兄ちゃんと六郎兄ちゃんが
大工さん連れて来てくれて、
村の大人や兵隊さんや兄ちゃんたち、みーーんなで作ったの。
私も道具運んだり、いろいろしたんだよ~」
俺
「時香、偉かったな」
褒めて褒めてが止まらない。
妹ってこうなのか。
俺たちは宴会場へ戻り、舟で寝た。
翌朝、十時過ぎ。
三郎たちが帰って来た。
弥太郎と涙の再会だ。
相当苦労したのだろう。
そして――
通訳問題は、三郎が解決していた。
三郎は、完璧にアイヌ語を使えるようになっていた。
すごい。
やり方はこうだ。
食料を提供する代わりに、
町でアイヌ通訳をしている和人から基礎を教わる。
あとは、アイヌの人と話しまくって覚える。
三郎
「兄弟みんなにも、教えています」
頼もしすぎる。
その時、時香が飛び込んで来た。
顔面蒼白だ。
時香
「和人が、アカレを連れていっちゃったー!
どうしよう兄ちゃんどうしよう!」
パニックで要領を得ない。
俺
「時香、落ち着け。まず深呼吸だ。
息を吸え。吐け」
少し落ち着いた時香。
連れ去られたのは、アカレという六歳の女の子。
赤い服、頭に布を巻いている。
俺
「和人は何人だ。どっちに逃げた。特徴は?」
時香
「五人!西!ヒゲで怖そうな人!」
俺は時香を褒め、赤目を呼んで追跡させた。
十五分ほどで村長が来た。
三郎の通訳なので安心だ。
村長の話は、冷たく現実的だった。
米や酒を用意できる和人は、物々交換をする。
だが用意できない和人は――
アイヌの子供を誘拐して、商品を持って来させる。
やがて犯人が現れ商品を奪い、子供が戻る。
商品が来なければ――殺すか、奴隷商に売る。
村長は半ば諦め、
毛皮などを準備させていた。
一時間後、赤目が戻る。
赤目
「犯人の野営地を見つけました。どうします?」
俺
「始末しろ」
村長に「解決した」と伝えると、疑わしそうな顔。
俺
「待ってろ」
さらに一時間。
赤目滝が、アカレを連れて来た。
アカレの衣服に、返り血が少しついている。
きっちり始末したのが分かる。
村に着くなり、
アカレは両親の元へ走り、皆で大泣きした。
驚愕する村長。
そして――
「どうだ、俺たちの若様は凄いだろ」
という顔の九島兄弟。
甘粕や直江も、同じ表情だ。
安田も当然その顔をしている。
……皆、安田に似てきている。
良いのか、それで。
俺
「松前の蠣崎氏という代官を外し、
長尾家が松前を領地としました。
悪徳商人は、これから排除していきます」
三郎が信じられない顔で弥太郎を見る。
弥太郎が頷く。
三郎が訳して村長に伝える。
村長
「本当に良いことがあったー!」
そして村長は、
逸香の頭を撫で、肩を揉み、また「どうだ?」の顔。
……もう、いいって。
俺
「これからも俺たちと共に繁栄していこう」
村長が頷く。
で、また撫でる。揉む。どうだ顔。
ほっとこう。
俺は三郎に、どの港へ行ったかを聞く。
三郎
「小樽と、函館です。
もちろん“港”なんてありません。
弁才船が接岸できる場所を探して、
取引相手の村と交渉する仕事でした」
なるほど。
江差周辺は倉庫が手狭だ。
集積は松前の倉庫に回すよう指示した。
そして、次に攻略すべき接岸地も指示する。
夕食は鮭が中心だった。
俺は三郎と村長の所へ行く。
俺
「ここは鮭が沢山獲れるだろ。
鮭を米や酒に交換するぞ」
燻製と日干しの作り方を教える。
塩が重要なので、多めに置いていく。
村長
「教えてくれてありがとう。
この村の鮭料理は美味しい。沢山食べてくれ」
俺たちは「欲しい商品」についても話し合った。
翌日、昼過ぎ。
山に住む四つの村の村長と、
付き人十五名ほどが来た。
内容はクレームだ。
「自分たちの村に来ていた商人が来ない」
「この村が商人を独占している」
……そりゃそうだ。
松前で商人三十人、全滅させたからな。
強盗でも、必要とする村があったわけだ。
俺
「安心してくれ。
ここには米、塩、衣類、酒がある。
みんなが交換できる物を言ってくれ。交換しよう」
ここから先は、九島弥太郎と兄弟に任せる。
取引の間、
俺と甘粕、直江、安田たちは村の周囲を探索した。
見渡す限りの平原。
俺
「見てくれ。これだけの土地だ。
開拓して蕎麦を植えたい。
どれだけ兵士を動員できるだろう。
……十万人の兵士を見たくないか?」
越後のように小麦を植えたいが、
蝦夷地は寒すぎる。
蕎麦、キビ。
将来的にはじゃがいもも栽培する。
甘粕も直江も興奮している。
甘粕
「実は柿崎や宇佐美も蝦夷地に来たがってたんですよ。
彼らにも見せたかったですね」
直江
「確かに、この広大な土地を長尾家で独占するのは
たまらないですね!」
俺
「後で兵士全員にこの景色を見せてやろう。
皆で必ず実現させるぞ」
皆で「おおっ」と決意を固めた。
翌日から、
四村に加えて噂を聞きつけた村も商品交換に来た。
時香も働いている。偉いぞ。
このペースだと、
舟七隻に積める量は、あと二日前後で埋まる。
夜、二郎や逸香とも話した。
護衛は十人で十分すぎる。
強盗より怖いのは熊や狼で、
村へ行く時は護衛してもらう、とのこと。
ならば十人だけ残し、
残りは安田と共に越後へ戻す。
安田の舟酔いも治った。
蝦夷地を見せられて良かった。
二日後。
九島兄弟全員を載せた弁才舟と、
俺たちの舟七隻は――いったん松前へ向けて出発した。
理由は単純だ。
しばらく松前が取引の中心になる。
そこで、九島兄弟を町の皆に紹介しておきたい。
九島兄弟を軽く扱うことは、俺が許さない。
それを示せば、仕事もしやすくなる。
松前に着くと、逸香が
「紹介したい人がいる」と言って大工を連れて来た。
この大工、逸香に惚れているのか顔が赤い。
蠣崎氏から
「九島兄弟に協力するな」とお触れが出ていたのに、
江差まで行って家作りを手伝ったらしい。
俺は礼を言い、金を渡した。
そして港近くの海沿いの空地へ連れて行く。
俺
「ここに倉庫を七棟建てろ。
兵士百人、手が空いてる。手伝わせろ」
前金で払う。
俺
「逸香も、時々見に来てやってくれ」
大工は嬉しそうだ。
良かったな。
視線を感じた。
弥太郎が、怖い目で大工を見ている。
「逸香に手を出したら分かってんだろうな」
という顔だ。
大工よ。
九島兄弟という苦難を越えた先に、明るい未来が待っているぞ。
当の逸香は、アイドル気質なのか素知らぬ顔。
今度蝦夷地に来る時、どうなっているか楽しみだ。
安田は俺の考えを読んだのか、ニヤニヤしている。
お前も楽しみなんだろ。
町民への挨拶、顔合わせ、打ち合わせを終える。
そして俺たちは、
直江津へ向けて出航した。
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