モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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鶯音を入る

第四十八夜

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「…………紅さん。私、今からでも間に合うと思います?」

 やはり彼女が私に何かしらのアクションを急かす事はなく、静寂を割ったのは私の方だった。

 ――――本当はまだ尋ねるつもりはなかった。ただ、声に出ていた。
 
 主語はないから、掘り下げられなければどうという事はないが、それでも、一度音に乗せてしまった言葉を引っ込める事は出来ない。

 そして、経験上、彼女は――――。

「何に?」

 案の定、故意に欠けさせられたピースを見逃してはくれなかった。

 存在しない穴を塞ぐ手に伸ばされた腕は私の倍程はあって、筋骨隆々な男の腕よりよほど好ましく、なおかつ頼もしく思われた。

…………」

 私の口から発せられたのは、それこそエアコンの弱にも満たない弱々しい声。

 紅さんに引っ掛けて、蚊の鳴くような声と言っても良いかもしれないが、音の感じが蚊の発するそれとは異なっている気がした。
 
 私の声が持っていたのは、担任の先生と一対一にされて、途端に元気をなくしてしまう小学生のような、迷子の子供が交番で警察の人の質問に答えるような、そんな辿々しさだったから。

(…………そんなに違わない……というか、強ち間違いでもないかも。紅さんと出会う前から、私、ずっと迷子だった……。意地張って、強がって、だけど、一人じゃいられないから、男漁って。幸せが欲しくて藻掻くほど、幸せから遠い所に流されちゃって……。押し付けられる『普通の幸せ』には反抗してたのに、多分、私が欲しがってたものも大差なかった。…………でも、今の私は、紅さんと出会った私。紅さんを好きになった私。……今の私は、普通に幸せになっても、それを幸せだと思えないようになってる筈。私にとっての幸せが何なのか、今はまだはっきりとは分からないけど、紅さんと離れたら完全に見失う気がする。いつまで一緒に居られるかも、居てくれるかも分からないけど、私はまだこの人と離れちゃダメだ。そもそも、離れたくない)

 少なくとも、今現在の私には、紅さんの家に滞在する理由なしに、ここに居座る事は出来ない。

 ――――存在しない第三者から見ても、およそ正当と思われるであろう理由なしには。
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