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鶯音を入る
第四十九夜
しおりを挟む(エアコンが届かなくなれば、新しい部屋に越すか、別のエアコン注文するまでは、紅さん家にお世話になれる。……今の私に出来る最大限はそれ。どんなに頑張っても、そこまで。勇気が湧くとは限らないけど、引き延ばせるだけ延ばしてみて、自分が変われる可能性に賭けるしかない。……紅さんは元々、お金勿体無いでしょって誰でもわかるレベルで頻繁に家を変えてるかもしれないし、実際のタイムリミットはすぐそこまで来てるかもしれないけど。引っ越す時は私にも教えてくれるだろうし。なんにも言わないで置いていくような真似はしない筈。……出来ないよね、紅さんは好きな女が困ってるって知ってて、見捨てられるような人じゃない。冷酷な人なら、自分が生んだ子供のその後どうなってるかなんて、絶対気に掛けてないだろうし。…………ああ、嫌な事思い出しちゃった。紅さんは私が逃げ続けてる事とずっと向き合ってるのに、ちゃんと責任果たしたうえで好きに生きてるのに、好き勝手生きてる私が紅さんと一緒に居て良いの? ……一緒に居る資格、ある?)
「連絡、来た?」
毎日一分考え続けたらノイローゼ必至の考え事を止めたのは、美しい声だった。
短く問うた彼女は、私の思惑なんてきっと探ろうともしていないのだろう。
(紅さんの長所で、短所だよね。他人に干渉しない所。……私は我儘だな。干渉されるのは嫌いだけど、ちゃんと気に掛けてもらえてるって分かる程度には構って欲しいなんて。こんなメンヘラ、逃げられて当然…………)
私がこの家に転がり込む事になったきっかけがエアコンの故障だったという事自体、記憶から綺麗さっぱり消去されてしまっているかのような物言いに拍子抜けして、転けそうになった。コント中の芸人ばりに、大袈裟に。
「音沙汰ないですね。あっちの事情で遅れてるんですし、まともな企業なら定期的に連絡くれると思うんですけど。……まあ、流石に発送出来る段階になってもだんまり……って事はないと思うんで、良いんですけどね」
「…………そ」
いつも通りの相槌は、一体どんな意味を含んでいたんだろう。
――――私はそのたった一音から安堵を感じ取ったが、思い込みからくる幸せな勘違いの可能性は低くない。
「忘れられてるんですかね? 人気の機種だって聞いてますし、ありえない話でもないのかもしれません。あと、こういうのも考えられますよね。同時期に注文が殺到してたとしたら、私の注文受けたのと丁度同じ時期に大口の注文とかもあって…………恩を売っておいたほうが後々特になるほうに先に回したり……なんて事も、企業によってはしてる……みたいな。あんまり疑り深いのも良くないなあって思うんですけど。…………ダメですね、考え方の癖ってなかなか治らなくて」
同情を引いて、少しでも長くここに居座ろうとしている事を――――、隠す気のない私の狡さを、紅さんはきっと見抜いている。
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