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鶯音を入る
第五十一夜
しおりを挟む「アタシとは…………ひと夏の関係?」
彼女の質問に面食らったが、その理由には数秒で辿り着く事が出来た。――――足りなかった。言葉が、圧倒的に。
「違いますよ。本当にひと夏の思い出で終わらせるつもりなら、ピアス開けるか開けないかでこんな真剣に悩んでません」
誤解させるような言い回しを選んでしまった自分を恨みつつ、根拠を提示する。
私はそれっぽい態度より誠実な対応が欲しくて、その他の人間関係と同じように、恋愛でもそういった振る舞いを心掛けてきたが、男達からは『可愛くない』と大不評だった。
「そっか。……じゃ、どういう事?」
しかし、彼女は眉間の皺を退治して、わかりやすく安堵を浮かべてくれた。
「……エアコン、届いても届かなくても同じ気がしたんです。もっと正確に言うと、あってもなくても同じかも、って。部屋、買ってるならともかく、借りてるだけの私が奔走する必要もなかったんですよね。今思うと。大家さん、悪い人じゃないのかもしれませんけど、諸々の対応が遅いイメージで、『こんな猛暑酷暑にエアコンなかったら本当に死ぬ!』と思って、勝手に選んで、勝手に設置しようとしてますけど」
話す傍ら、考える。『私は、前からこういう話し方をしていただろうか?』と。
少しカタコトっぽくて、句読点多めの話し方は――――。
「…………ん、そうだね。ホントなら、上に確認取らないといけないトコだけど、自分がなんとかしなきゃならないとしか思えない時、アタシにもある。結構、しょっちゅう。……その位、必要だったんだね。その時の翠には、エアコンが」
待っているのが苦手ですぐ走り出してしまう所を、『余計な事をして!』と言われてきた所を、『可愛げねえな~……』と呪いを掛けられてきた所を、紅さんは『可愛い』で済ますのではなく、共感して寄り添ってくれた。
短所だと思っていた全てが一個の性質に変わった瞬間は、きっと南瓜が馬車に変わるより、ボロボロ衣服が誰も袖を通した事のないドレスに変わるより、私の心に深く沁みた。
「…………でも、もういらなくなった。アタシの家で涼めば良いし」
「そうです。避難場所があのバーだけじゃなくなった。それが私の現状で。……でも、正直今まではエアコン届いたら、ここにいる理由なくなっちゃう気がして、『永遠に届くな』って思ってたんです。その割に、キャンセルの連絡も出来なくて。紅さんは優しいから、エアコン来ても同じ位頻繁に部屋呼んでくれるだろうとは信じてるんですけど、私が私に許可出せなくて。……今も本当は出せてないのかもなんですけど、せっかくピアス開けるし、心もイメチェンしてみようかなって気持ちになったんです」
「心のイメチェン?」
私が何気なく発した一言は、彼女の関心を引いたらしい。
彼女が髪を耳に掛けたすぐ後に、ココナッツの香りが広がった。
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