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鶯音を入る
第五十二夜
(つくづく私には似合わない香り…………。紅さんにはすごく似合ってるけど。これもお揃いだし、もしかしたらピアスなんてなくても、恋人アピールとして十分なのかもしれないけど、今のままは悔しい)
今は私も同じ香りを纏っている。これからもここに泊まるたび、この香りを纏う事になる。
自分の香りなんてわからないし、体臭と混ざって違う香りのようになっているとしても。
(まだ私は、この香りを自分のものに出来てない。『着せられてる』風に言うと、『纏わされてる』。同じシャンプー使って、同じピアスぶら下げたって、私自身が変わらないんじゃ意味がない。好きなんだから、染まりに行けば良い。これまで散々してきたみたいに)
何もかもを紅さんとお揃いにする必要はないが、一緒にいるのに影響を受けないほど寂しい事もないだろう。
「そうです。…………私、生まれてからずっと、後ろ向いてる期間の方が長かったというか……。俯いてのろのろ歩いてきたようなもんなんで、そろそろ前向いてみようかな、って。エアコンの有無なんかに、私達の関係は左右されない、って。……私達のご縁は、そんな事じゃ切れない、って。エアコンがあってもなくても変わらない、って――――信じてみようと思ったんです」
紅さんに話しかけられた日。あの日、私は今までの私なら乗らなかった誘いに乗った。
大袈裟に捉えるなら、その決断をした事が変化の兆しだったのではないだろうか。
「『あってもなくても、変わらない』。…………良いね、なんか。今って、携帯の機種とか……決済方法とか? 色々変わりすぎだし、種類増えすぎてる。……から、たまに変わらないもの見つけると、落ち着く」
私の言葉を自分の中に落とし込むために復唱してみせた彼女の横顔に、そして美声に、その身の裡に湛えた、変わりゆきつつ巡る季節がごとき美しさの片鱗を見た気がした。
「……あ、私達が宅飲みする場所がひとつ増えたりはすると思うんですけどね、エアコンが無事に届いた場合。そこは変わると思います。届かなかったら、その時はその時で。エアコンがあって、問題なく使えてたとしても、紅さんは『独りで寝たくないから』、私に声掛けてくれるでしょう? 子ども生む前は血だって欲しいでしょうし。だから、私の家にエアコンがある状態になっちゃっても、大丈夫だなって。…………別に、そんな事位じゃ、紅さんとの縁は切れないな、って。やっと考えられるようになりました。……やっと実践出来ました、紅さんのアドバイス。『したい事をする』って」
「翠は…………やっぱり自分の事、全然わかってないね。アタシのアドバイスは素直に聞くし、変な受け取り方とかもしないのに」
やりきったつもりで伸びをしたと言うのに、彼女は肩を竦めて首を振った。揺れるべきものがない耳は、やはりどこか寂しげだった。
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