189 / 226
鶯音を入る
第五十八夜
しおりを挟む「ん、ゴメン」
「今回は良いですけど、今後は気を付けてくださいね! ……私、嫉妬心高めな方なんで」
「わかった。……ビニール傘一本しか残ってなくて、嫌々……だったと思うけど」
彼女が傘の柄をくるくる回転させて遊び出したものだから、私は傘から手を離さざるを得なくなった。
「嫌でも何でも、相合傘は相合傘じゃないですか」
彼女はその時の状況に補足を入れただけなのだろうが、私には言い訳にしか聞こえなかった。
(急に雨降って、コンビニ駆け込んだけど…………みたいな? ありがちだけど、遠慮してよ。どういう環境で育ったら、自分の事紅さんと相合傘するに相応しい人間だと思える訳? 図々しすぎて無理。……というか、急に雨降ったりとかここ数年で珍しくなくなったんだから、普段から多めに仕入れておくとか出来ない訳?)
何なら、紅さんとどこぞの馬の骨が相合傘をせざるを得ないシチュエーションを作り出した神様的な存在にも抗議したいくらいだ。
「…………なら、日傘でも相合傘だし、初めては初めて。……反論、まだする?」
聞こえて来たのは、二度目の謝罪――――ではなく、過去の出来事にイラつく器の小さな私に対するささやかな反抗の言葉だった。
「……ふふ。紅さんも言うようになりましたね? 女王様なのは初対面の時からですけど、私が強い事言って注文つけても、これまでは唯唯諾諾って感じだったじゃないですか。嬉しいです、なんか……距離が近くなった気がして」
それを聞くなり、便秘の時のように腹部に溜まっていた重いものがどこかに消えた。
――――次に並んでベッドに掛ける時には、最初からくっついて座っても良いだろうか。
「翠こそ。遠慮しすぎだったから、もっと言ってくれて良い。敬語もやめて良いよ。……予定、ないの?」
「ないですね。敬語は…………わりと誰に対してもこんな感じですし。……あ、でも。ピアス開けて別人になったら、考え変わってるかもなんで、少しだけ期待しててください」
「ピアス、開ける前に気付いて良かった。ゴメンね、アタシ…………」
「いえ。ピアス開けようなんて、紅さんに言ってもらわなかったら、思い付きもしませんでしたから。……紅さんの耳で揺れてるバカデカピアス大好きなのに、なんか間抜けですよね」
話の流れで視線をずらし、失敗に気付く。私の愛する彼女の一部は、強制的に留守番をさせられている。
(別に…………ピアスがなくても、紅さんは紅さんだけど)
口角が下がらないようにするには表情筋を酷使するのだと、ここ最近は忘れかけていた事実に思い至った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる