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鶯音を入る
第六十夜
しおりを挟む(紅さんは、今までどれだけ多くの物を諦めて来たんだろう。…………いや、違う。諦めさせられて来たんだろう。色んな理由で、色んな人に。諦めさせられて来たのは、物だけじゃないか。きっと、人も。自分の子を自分で育てられないのも…………。それが一番、辛い事なんだろうな。紅さんが過去を振り返らないのは、終わった事にいちいち執着しないのは、多分、元からじゃなくて……そうした方が楽だったり、そうしないと精神保てなかったりしたから……とかだったりしそう)
私も彼女がしていたように、袖を引っ張ってみた。
――――伸びない。
(あー……。なんか、本当に…………本っっっ当に腹立つな。色んな事にムカついてて、もうどこに怒りぶつければ良いかもわからない。……社会がクソ過ぎる、壮大にクソ過ぎる!! 誰のために生きてんの、皆。重税で? 物価高で? そこら中に熊が、そこらへんに変質者が彷徨いてて? 生きてるだけで虐げられてるみたいなもんなんだから、もっと自分のために生きて良いのに! 紅さんにも、もっと自由に生きてほしいのに!! ……私、お金も権力も何にもなくて、何にも出来ない。……何かないの、私に出来る事!! 私が紅さんに希望と居場所を貰ったみたいに、私から紅さんにあげられるものってないの!? 派手な一発逆転は無理だけど、お揃いの服くらいパッと用意したいのに)
念の為、もう一度引っ張ってみる。確認はこれで最後だと決めて。
――――やはり、伸びない。
(ピアスは紅さんの好きな店で、服は私の好きな店で…………とか考えてたけど、甘かったな……)
服としての出来はとても良い。
その評価は覆りようがないが、話題が話題だけに、しっかりしたつくりの服が、なんだか融通のきかない制度やルールや社会を思わせて、やるせない気持ちが弥増した。
(でも、私が一番ムカついてるのは、何一つ変えられない私だ)
今着ているのは、成人後から贔屓にしているブランドで購入した服だ。
私がそのブランドを愛好するようになった理由は主に三つある。
それというのが、老舗らしく流行を過度に取り入れすぎない所と、何歳になっても着用出来るシンプルで品の良いデザインと、丈夫な生地が使用されており縫製も丁寧になされている所だ。
最後の理由から、実は確かめるまでもなかったが、このブランドですら、お直しなしで彼女の身体にフィットするアイテムを発見するのは困難だろう。
(他と比べたらずっと品質良いけど、着始めた頃から考えると、相当質落ちてるのに、新規開拓面倒臭がって、思考停止で愛用し続けてる私も、他人の事言えないよ)
日傘の柄を思い切り握り締める。
同じ柄でも、今、私が携えているのが傘で良かった。
――――もしこれが刀なら、古き良き伝統に倣って、衝動的に自分の腹を掻っ捌いていたかもしれないから。
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