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鶯音を入る
第七十八夜
しおりを挟む「翠?」
消えた言葉を不審に思ったらしい彼女が、日傘を少し持ち上げた。
「すみません、紅さん。二転三転して、申し訳ないんですけど…………。話してたら、『これで良いのかな?』って気持ちになってきちゃって…………。嫌じゃないんですけど、何か凄く……違和感があって」
向かって来るママチャリの金属各部の反射光が私の目を潰しに来たお陰で、一瞬で現実に帰って来られた。
「違和感は無視しちゃ、ダメ。……アタシに、話せる?」
「はい。話しますから、聞いて欲しいです。………………紅さんと結婚するのも、紅さんとお揃いのドレスを着るのも大賛成です。でも、ウェディングドレスって、なんか……私達らしくない気しません?」
「……らしいとか、らしくないとかわかんないけど、翠は似合うんじゃない? ……アタシは見てみたい」
「ありがとうございます。でも、似合う似合わないの問題じゃないというか。……そうですね。私も、言葉が足りなかったかもしれません。紅さんにも似合うと思いますよ、ウェディングドレス。……なんですけど、私はそもそもドレス…………いや、長い丈のスカートが好きじゃないんですよね。歩きづらいし、階段で踏まれるし。あんな、意味あるんだかないんだかわからないヴェールを引き摺って歩くのも嫌です。なんでわざわざ晴れ舞台で、式場の掃除用具にならないといけないの、って思うじゃないですか。かといって、小さい女の子たちに持たせるのも嫌ですし」
「……ホントは、もっと早歩きだもんね。膝位までのスカートと細いヒールで、一瞬で遠くまで行っちゃう。『都会のヒト』って感じ。格好良いって思ってた」
彼女の髪が揺れる。人が潜った後の暖簾のように。
つられて俯くと、小股でちょこまか歩く私の足と、ゆったり大きく一歩ずつ踏み出す彼女の足が奇跡的に同じ速度で進んでいた。
「結婚式のしきたり? 的なやつも、おせちの具に込められた願いみたいに、全部にちゃんとそれぞれ意味があるのかもしれませんけど、私にとってはどれも意味不明。失礼クリエイターことマナー講師の皆さんが考えた、意味なし非合理的マナーにしか思えません。そもそも、柄じゃないんですよ。長ったらしいものは、基本的になんでも嫌いです。……長い物に巻かれるのは、もっと嫌い。物理的にも、慣用句的にも嫌いです。鬱陶しければ鬱陶しい程良いと思うのは、私のこれまでの一生分の記憶ひっくり返しても、紅さんのピアスだけですよ。……私、ただでさえ引き摺るタイプなんで、服の裾位はジャストか短めにしておかないと」
「じゃあ、やめる? オソロのウェディングドレス」
面映くてお礼も言えなかった私に、彼女が掛けた言葉は予定の変更――――、否、取りやめだった。
「…………でも、今回逃したら、ウェディングドレス着る機会ないですもんね。他の人と一緒になる気もないし、今が残りの人生で一番若いし。ウェディングドレス着るだけなら、この先にもチャンスは作れるかもしれませんけど、紅さんとお揃いのウェディングドレスを着るためには、きちんと準備する必要があるから、『今しかない』は過言じゃない……かもしれない。とりあえず、着てみましょうか。しっくり来なかったら、それはそれで良いのかも。『何十年後も笑えるネタが一つ増えた』、って思えば」
「…………『やっぱりアタシ達らしくない』と思っても、アタシが宝物にするから、大丈夫」
「……なんですか、『宝物にする』って」
ユニークな発言に噴き出して思った。
今が夏の盛りで、日中で、連日高温注意報が発令されていて良かったと。
だって、彼女の声を遮る無粋な合唱団は、何処を探してもいないから。
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