モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌

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鶯音を入る

第七十九夜

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「はい。楽しみがいっばいですね。スケジュールに書く事、毎日ありそうです。……書き切れるかな?」

「うん。全部楽しみ。……終わっちゃったら、寂しくなりそう。アタシ、ツアーの時そうなる。準備してる時と、回ってる時もずっと楽しいのに、終わったら抜け殻。二週間位、引き摺る」

「ああ……わかります。全力で楽しんだだけ、終わった時の喪失感も大きくなりますよね。でも、大丈夫ですよ。楽しみが尽きない仕組みを……を作れば良いだけですから!」

 忘れないように写真をお気に入りに登録し、写真アプリとカメラアプリを落とした。

 尤も、写真を撮る事回数が多くないので、埋もれる心配もなかったのだが、なんとなく、今しがた撮影した写真が特別な思い出である印を付けておきたい気がしたから。

「終わらせない? ……ずっとしない、って事?」

「ずっとしない? …………ああ、なるほど。ずっと準備期間のままにしておくのも、『終わらせない』にはなりますけど……そういう事じゃなくて。重要なライフイベントって、結婚だけじゃないでしょう。そういうのを一緒に楽しめば良いんじゃないかなあと思ったんです。頭にライフって付かなくても、イベントなら? 一年中ひっきりなしじゃないですか?」

 私が言葉足らずなせいで起こしてしまった勘違いを正すべく、殆ど使用する事のないカレンダーアプリを立ち上げて、数ヶ月先までスワイプしていく。

 元号が変わった事で国民の休日が消えた、一番最後の月までひとっ飛び。

「誕生日とか、クリスマス?」

 顔を上げた彼女は、ケーキの上の蝋燭の炎より、街を彩るイルミネーションより、幸福な輝きを瞳に灯していた。

「はい。そういう季節行事もですし、恋人やパートナーともなれば、記念日は無限に作れるじゃないですか」

「記念日…………。なら、初めて会った日とか、話した日?」

「はい、そうです。恋人同士になった日とか……初めて一緒にお酒飲んだ日だって、そうですよ。他の人からしたら小さい事……どころか、なんでもない日かもしれません。お酒とか、特別な関係じゃなくても一緒に飲むし。……でも、どれが欠けても、今の私達にはなってない訳ですから、その日を特別に祝う事はなくても、大切にしていきたいです。何年経っても」

「初めて家に呼んだ日、とかも?」

「それ、私達ならではって感じで、すごく良いと思います!」

「アタシもそう思う。……アタシ達、初めて話した日と、初めて一緒にお酒飲んだ日と、初めて家に呼んだ日、全部同じ日だけど」

「確かに。三冠達成で、かなり特別な日って感じします。さっきまでは祝うつもりなかったんですけど…………これは、念入りに祝わないといけないかもしれませんね?」

「ん、そうしよ。楽しい事、いっぱいだね。どれから準備しようか、迷っちゃう」

「やっぱり、他の人の助けが絶対的に必要なイベントから、進めて行くのが無難じゃないですか? 重要度的には最優先かもしれませんけど、トリプルおめでたいデーは二人だけで祝えますし」

「そうだね。……ウェディングフォトは、ドレスがないといけないから、ウェディングドレス最初?」

「そうですね。まずは、ウェディングドレスから話し合って行きましょうか。イメージ伝える時に、やっぱりデザイン画はあった方が良さそうですよね。私、絵にもあんまり自信ないんですけど、ないよりは。プロなら、汲み取ってくれるでしょうし。紅さんは、どういうのが良いですか? ……あ、紅さんにデザイン画描いてもらうのもアリですかね?」

「…………絵は描いても良い……けど、ウェディングドレスって、どんなのだっけ? 色々見てからじゃないと、ダメかも」

「それなら、ドレス貸し出してるお店覗いて――――」

 解像度の低い花嫁衣装を脳内で彼女に着せてみて、無視出来ない違和感をおぼえた。

(……でも、本当にこれで良いの? 私達、結局既存の枠組みから抜け出せてないよね? 『普通の人達に寄せた、それっぽい幸せ』なんかで満足して良いの? それって、私達に合ってる? ……私達の幸せになってる?)

 確かに彼女は美しい。何を着ていても。そして、恐らく、何も着ていなくても。

 だが、彼女の持つ美しさを最大限に活かす事が出来るのは、純白のドレスではないのではないだろうか。
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