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夕顔別当
第九夜
しおりを挟む「早く聴きたいな……。紅さんの声すごく好きなんで、オリジナル曲出してるとか夢みたい。何年分損してたんだろ、私……」
「……ふふ。『夢みたい』って、初めて声掛けた時にも言ってた」
彼女は肘を付き、視線を送ってきた。
「覚えててくれたんですね」
ガードの緩すぎる胸元を見ないように注意しながら返す。
「翠、アタシの記憶力舐めてるでしょ」
彼女の表情が、ジト目かつ流し目に移り変わる。初めて見る表情だ。
「ええ。実はかなり」
「そこまで忘れっぽい?」
「……と、思いますけど。納得してなさそうですね。記憶力、テストしてみて良いですか?」
一瞬だけ間を空けてしまったのは、『彼女は私の事になると、通常以上の記憶力を発揮する』せいだ。
「ん。良いよ」
と彼女は親指を立てた。
やはり随所で見せる古臭いポーズの事を考えると、私の想定よりも年齢は上なのかもしれないが、だから何だという話だし、イケイケに見える彼女のそのギャップがむしろ私には好ましい。
『イケイケ』なんて言葉を使う私だって他人の事は言えない。
「まあ、記憶力を測定する……ってより私が知りたいだけなんですけど。『マダム・ルージュ』は今まで何曲位出してるんですか?」
「? 何曲だっけ?」
予想以上に愉快な反応だ。
「いや、私が聞いてるんですって」
「そうだった。ごめん」
笑いながら突っ込みを入れると、彼女も楽しそうに身体を揺らした。
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