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夕顔別当
第四十五夜
しおりを挟むそれからまた数日、数週間――――。
エアコンが納品される時期についての続報もないまま、私は相変わらず彼女の家にいた。
「音沙汰なさすぎて心配なんですけど、ちゃんと納品されると思います?」
「されなかったら……お金は残念だったけど、部屋引き払って、そのままここに住めば良い」
「! 本気ですか?」
「嘘に見える?」
彼女の表情に変化はないが、冷静になってみると、そもそも掴み所のないこの人の感情をそんな表面も表面な場所から得られる情報で測ろうとしていたという事自体、烏滸がましい事のように思えた。
「いえ。紅さんが私に吐こうとして噓吐いた事なんてないでしょうし」
「…………」
自信を持って言い切ったのに、彼女はにこりともせず。
「紅さん……?」
「ううん。何でもない。それより、さっきの返事は?」
そればかりか、いつもの女王陛下的態度で催促する始末だった。
私だって、返事して安心させてほしいのは同じなのだが。
「随分軽く言ってくれるじゃないですか。引っ越すのって面倒な事の詰め合わせみたいなイベントなんですよ? 住民票とかも色々移し替えなきゃいけないんですけど」
ふてくされている筈なのに、真顔にもなれない。
「知ってる。でも、翠、嬉しそう」
彼女は私でさえ気付ける事に気付かない人ではなかった。
「嬉しくない訳がないってわかって言ってますよね?」
「ん。無駄になった家賃の分位、アタシが翠に払ったげるし。今、いくら位になってる?」
上機嫌で財布を出した彼女がそれを開くのを慌てて阻止する。
孫を甘やかすおじいちゃんおばあちゃんじゃあるまいし、第一、私はもう十分過ぎるほど甘やかされていた。
「え!? いやいやいや。なんで紅さんが私んちの家賃まで払うんですか? 一体どういう理屈で?」
彼女は、私が居候になってから一度も、ここの家の家賃、光熱費、水道代、電気代等を折半した額を頑なに受け取ってくれていない。
「理由はない。けど、出費嵩んで、可哀想だし。欲しい物もないし。なら、貯金しとくより、翠にあげたいと思って。……お小遣い?」
「むしろこっちが貢ぎたい位なんですけど……まあ、そうならないように祈っておきますよ。私の貯金と紅さんの資産を守る意味でも。……それより、キス。してください」
トントンと自分の唇の端を叩いてアピールすると、望み通り紅い唇が、それに続く形で睡魔が襲ってきた。
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