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夕顔別当
第四十四夜
しおりを挟むそれからまた数日。数週間だったかもしれない。
カレンダー通りに生きられない職種の人間である私の時間の感覚は、元から大雑把だった。
だって、そうだろう。
『今日の日付が何年の何月何日か』なんて事よりも、『今夜、私の穴は満たされるのか』の方が重要なトピックだったのだから。
――――今となっては、それともまた違う状況になってはいたが。
「ん?」
風呂上がりの彼女は、いつもより一回り小さく見えた。
わかりやすく言えば『痩せた』ように見えるが、一晩で目に見えて痩せる事など、まずありえない。
ダイエットに取り憑かれた女性が手を出すような、どう考えても人体に有害な薬を飲んでいたらありえる事なのかもしれないが、彼女はそういった薬の危険性もわからないような愚か者ではないと断言出来る。
それに、体型の変化についてどうこう言うのは、どんな関係の人相手でも失礼だ。
「どしたの、翠」
「…………いえ。紅さん、なんか雰囲気変わったかなあと思ったんですけど、気のせいですよね。きっと」
前にも同じような事はあったし、生理前後で体重が三キログラム程変わってしまう人もいると聞く。
それだけ違えば見た目にも影響するだろうし、普段から体重の増減が激しいタイプなのだろう。
ある『歌姫』――彼女ではなく、所謂国民的な歌手の一人だ――を思い浮かべて、そんな所も『マダム・ルージュ』らしいと思ってみたりもして。
「雰囲気?」
「はい」
「……ああ、コレのせい?」
苦し紛れに濁した結果、とても不自然な物言いになってしまったが、彼女は真剣な面持ちになって黙った後、髪を耳に掛け、遠くからは開いているかもわからない程の小さな小さな穴を見せてきた。
「今日はしてなかったんですね、ピアス」
「時間なくて」
私には彼女がこの話題を早く切り上げようとしているように見えた。
余計な事を口走るのを恐れているような。そうでなければ、必要以上に他人行儀といった具合だろうか。
出来れば気のせいであってほしいが、嫌な予感ほど的中するものだ。
だって、彼女が一回り小さくなったと感じる事は、これより前にもあったから。
そう。あれは――――彼女が急に『抱っこさせて』と言ってきたときの事。
その理由が判明するのは、そう遠くない未来だという気がした。
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