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鶯音を入る
第四十一夜
しおりを挟む「…………かえって、翠の根性試すみたいになっちゃう。……けど、開けてくれる? 開けてくれたら、アタシは嬉しい。すごく」
彼女は自身の耳たぶから手を離した。女王様らしくはない言い回しではあったが、本来の彼女の姿からはそう遠くないようにも思えた。――――なんて言い方は、流石に彼女をわかったつもりになりすぎているだろうか。
たかだか数ヶ月一緒に過ごした程度で。次の夏にはもう、彼女の隣にいさせてもらえていないかもしれないのに。一年後どころか一ヶ月先もこうしていられる保証もないのに。『お前は彼女の何なのだ』と問われたら、一言ではとても言い表せない関係なのに。
「当然じゃないですか。そもそも、私が紅さんに決めてほしかったんです。……まあ、意見求めたときにはもう開けるつもりではいたんですけどね」
難度の高い楽曲よろしく畳み掛けてくる不安から逃げるように言い切った。
「そうなの?」
「はい。なんていうか、最終的な承認をしてもらいたかったというか……そんな感じで」
共感は得られないだろうと思いつつ、苦笑交じりに告白した。
「承認? そんなのなくて、良いのに?」
「女王様タイプの紅さんにはない感覚かもしれませんけど、あえてお伺いを立てたい時っていうのもあるんですよ。……下僕適性の高いタイプには」
「そっか」
「私が『下僕適性の高いタイプ』だって所は否定しないんですね?」
「……ん。アタシと翠、真逆くらい違う。……よね? アタシ、自分の事、よく分からない。けど、翠はアタシの事、よく『女王様』って言うでしょ。多分、翠の言う通りだと思うし、アタシの事『女王様』って言う時の翠、嬉しそうだから、アタシは『女王様』でいたいと思った。翠の前では意識しすぎて、無駄に威張っちゃってる?」
「そんな事ありませんよ。紅さんは出会った時から一定の女王様レベルを保ってます。それ以上でもそれ以下でもない、丁度良い塩梅の女王様です」
自分でも必死すぎると思いつつ全力でフォローを敢行したのは、私が彼女に忠誠を誓っているからだろうか。――――否。答えはもっとシンプルな感情のはずだ。私はこの感情がなんなのか知っている。うんざりするほどに知っている。
「良かった。…………アタシは、翠の事、本当に可愛いと思ってる。アタシが絶対になれない理想を、全部叶えたみたいなコ。……か、アタシの……真逆? ――女王の反対は下僕だと思って、否定しなかっただけ。翠のこと、下僕っぽいなんて思ってない。安心して。……言われただけで、安心出来る?」
長い爪を弄る彼女は、他人との距離感を測りかねている初々しい少女のようだと思った。
「…………ふ、ふふふ。そんな風に言われたら、意地でも安心しなくちゃって思いますよ。別に良いんですけどね、紅さんにならいくら不安にさせられても。……というか、ある意味、不安にさせてほしい位です。『売れすぎてどうしよう』、『私、こんなすごい人に釣り合わないんだけど』って思わせてほしい。……すでに凄い人だと思いますし、少しも釣り合ってないと思ってますけどね」
この世に運命なんてきっとない。人間が運命と称するものは全て、偶然を必死に繋ぎ止めて運命と言っても不自然ではない強固な絆に昇格させたものだから。だから――――私がこの関係を続ける努力を怠ればすぐに、彼女との縁は切れてしまうだろう。糸なんてびっくりする位、脆い物なのだから。
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