173 / 226
鶯音を入る
第四十二夜
しおりを挟む「そもそも、売れてるか売れてないかなんて、資本主義に毒されすぎた人間の指標でしかありません。凄いですよ、紅さんは。異種族の中にいても自分の武器で勝負してるんですから。裸一貫って言うんですかね。私にはとても真似出来ません。……本当は私にもなりたいものとかしたい事とか沢山あった筈なんですけど、全部忘れちゃったな……。まぁ、私なんて目立つほうでもないし、人前で披露出来る特技もないモブ中のモブですし、志した所で大成はしなかったでしょうけど」
耳たぶに糸を通せるかどうかなんて今の今まで考えた事はなかったが、彼女が新たに開けてくれた穴なら、運命の赤い糸の通り道になってくれるさえ気する。
「…………『何かを始めるのに、遅過ぎるという事はない』んでしょ。また、見つければ良いんじゃない? アタシと一緒に」
それはきっと、彼女にとっては何気ない一言だった。それでも、私にとっては喉から手が出るほど欲しかった約束だった。
「!」
生まれたときにはすでに開いていた耳の穴に通り抜けていった声は、運命の女神のものだったのかもしれない。
「……女王様で運命の女神様とか、属性欲張り過ぎですって。名物喫茶のヤケクソパフェじゃないんですから……」
私の運命の輪が回り始めたのは、きっとあのバーで初めて彼女を見掛けたとき。そして、私の運命が大きく変わり始めたのは、あのバーで彼女に話し掛けられたとき。――――それなら、三回目の変化は私自身のアクションで起こしたい。
「パフェ?」
私の独り言の変な部分だけ拾った彼女は、聞き返しがてら距離を詰めてきた。――――ああ、なんだ。私に対する遠慮がそうさせたなんていうのは悲観的な思い込みで、彼女はただ単純に目測を誤って想定より私から離れてしまっただけだったらしい。
「…………いいえ、何でもありません。強いて言えば、紅さんはパーフェクトだと思っただけです」
夏っぽい服の素材を腕に感じることさえ幸せだと思わせてくれる人に出会う事が出来て、私はその人を好きになれて、その人も私を好きになってくれた。その事実だけで、引き寄せられない運命も起こせない奇跡もないのではないかと思えた。
「したい事も、なりたいものも、絶対なくちゃいけないって事ないと思うけど。……確かに、あったほうが楽しいと思う。……でも、そういう事考えられるの、余裕ある人だけだから。翠がそういう事考える余裕、アタシに作れる?」
だが、臆病な私は心配事を見つけるのが得意だ。私が本当にしたい事を見つけて、それをして、なりたいものになる事が出来たら――――いや、ひょっとしてそれを探し当てたら……かもしれない。貴女は私から離れていってしまうのではないだろうか。『自分は役目を果たした』と少し寂しげに、とても誇らしげに。
「……勿論です……! …………新しい目標が見つかっても、紅さんは私といてくれますか?」
声とともに手が震える。蜃気楼や陽炎の先に広がる景色のように、視界まで不安定にぐらつき出したのは何故だろう。
「当然。叶える手伝い、させてよ」
それをぴたりと止めてみせたのは、穏やかな穏やかな声だった。
0
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる