92 / 228
【神の名を騙る島──南海の隠された禁風俗と、神官戦争編】
第81話『神の名に誓う自由──島に春を』
しおりを挟む
静寂が、島の中心に戻っていた。
空を覆っていた不穏な雲は晴れ、長く閉ざされていた神殿の天窓から、やわらかな陽が差し込む。
剣を手に、勇者・常盤流星は静かに深呼吸をついた。
その足元、砕け散った祭壇の中心に、封印術式の光が脈動している。
その中心──
黒く蠢いていた“夢魔・イゼリア”の姿は、今やか細い人影のように震え、力を失っていた。
「……なぜ、負けたのか……理解できない……」
夢魔は嗄れた声でつぶやいた。
「私はただ、“幸せ”を与えていただけ……それが、なぜ……」
「──あんたの“幸せ”は、誰かに強いたもんだ」
流星の声が、凛と響く。
「現実を無理やり夢に書き換えて、意思を縛って、自由を奪う癒しなんて──そんなの、誰も救えやしない」
イゼリアの目が、細く閉じられた。
一筋の黒い煙が、封印の結界に吸い込まれていく。
「……愚かな、男……」
「そうだよ。オレは愚かだ。風俗に行くたびに煩悩まみれで、女子にどやされて、怒鳴られて……」
リリア、アリシア、ヴァネッサ、ミレーユ──
四人の仲間たちが彼の後ろに並び、口々に叫ぶ。
「それでも、あんたは自分で選ぶ。現実を受け入れた上で、誰かに向き合ってる!」
「快楽に飲まれるだけじゃない……その先に、ちゃんと想いがあるから!」
「だから私たちも、支えるの! あんたが何度転んでも、そのたびに尻蹴って起こしてやる!」
「王家として誓います。彼の自由意志は、誰にも縛らせない……!」
夢魔の残滓が、静かに結界の中へ吸収され、完全に消えた。
封印術式が輝きを収め、ついに“神殿の闇”は終わった。
◆
その瞬間。
神殿の奥、転送の結界の向こうから──一人の女性が、膝をついて現れた。
それは、《神官レイナ》。
彼女は、長らく“神の声”と称してイゼリアの支配下にあった。
その瞳は虚ろで、記憶を取り戻しきれないまま、ゆっくりと顔を上げる。
「……私……?」
「レイナ!」
アリシアが駆け寄る。
レイナは涙を流しながら、自らの胸元を押さえた。
「私……ずっと……“神の意思”が私のすべてだと、そう信じていたの」
「でも……あれは“声”じゃなかった。私自身の声なんて、最初から……なかった……」
流星が、そっと近寄る。
「いいじゃん。これから出せば。今度こそ、あんた自身の声で、さ」
レイナは目を見開き、そして小さく笑った。
「あなた……風俗に通ってるんですってね?」
「……おう、そりゃもう魂込めて」
「──ふふっ……でも、わかる気がするわ」
空気が、軽くなった。
リリアたちは思わず顔を見合わせ、どこか安堵の表情を浮かべた。
「自由に癒され、自由に求める。
それが人の、本来の生き方だったのかもしれない……」
◆
数日後。
アナナス島の神殿は“再出発”に向けて改修が始まっていた。
今度こそ、“癒し”と“信仰”のバランスを取った、真の意味で開かれた施設として。
神殿は「祈りと癒しの共存施設」として再定義され、誰もが訪れてもいい“島の心の拠り所”へと姿を変え始めていた。
流星たちは、それを高台から眺めていた。
「……また、風俗で事件起こしたな……」
リリアがぼやく。
「いや、オレが事件を起こしてるわけじゃない。風俗が、事件を起こすんだ」
「どっちも同じに聞こえるんだけど」
アリシアが本を閉じて、横から真顔で言う。
「そろそろ真面目に考えて。あなた、癒しの旅っていう名目で、王国のあちこちに災害残してるのよ?」
「違うって! 解決してるじゃん!」
ヴァネッサが笑って割り込む。
「でもあんたの剣、ほんと頼りになったよ。ね、今夜は久々に……あたしの部屋で、どう?」
「寝るッ! 今夜は寝かせてッ!!」
ミレーユが笑いながら呆れ声をあげる。
「あなたたち、どんだけ騒がしいの……でも、そうね──この島に“春”が来たなら、それはあなたたちのおかげかも」
やさしい風が吹いた。
波の音が、どこまでも穏やかに響いていた。
煩悩と愛と、自由の旅路。
流星たちはまた歩き出す。
──次なる“癒し”を求めて。
(つづく)
空を覆っていた不穏な雲は晴れ、長く閉ざされていた神殿の天窓から、やわらかな陽が差し込む。
剣を手に、勇者・常盤流星は静かに深呼吸をついた。
その足元、砕け散った祭壇の中心に、封印術式の光が脈動している。
その中心──
黒く蠢いていた“夢魔・イゼリア”の姿は、今やか細い人影のように震え、力を失っていた。
「……なぜ、負けたのか……理解できない……」
夢魔は嗄れた声でつぶやいた。
「私はただ、“幸せ”を与えていただけ……それが、なぜ……」
「──あんたの“幸せ”は、誰かに強いたもんだ」
流星の声が、凛と響く。
「現実を無理やり夢に書き換えて、意思を縛って、自由を奪う癒しなんて──そんなの、誰も救えやしない」
イゼリアの目が、細く閉じられた。
一筋の黒い煙が、封印の結界に吸い込まれていく。
「……愚かな、男……」
「そうだよ。オレは愚かだ。風俗に行くたびに煩悩まみれで、女子にどやされて、怒鳴られて……」
リリア、アリシア、ヴァネッサ、ミレーユ──
四人の仲間たちが彼の後ろに並び、口々に叫ぶ。
「それでも、あんたは自分で選ぶ。現実を受け入れた上で、誰かに向き合ってる!」
「快楽に飲まれるだけじゃない……その先に、ちゃんと想いがあるから!」
「だから私たちも、支えるの! あんたが何度転んでも、そのたびに尻蹴って起こしてやる!」
「王家として誓います。彼の自由意志は、誰にも縛らせない……!」
夢魔の残滓が、静かに結界の中へ吸収され、完全に消えた。
封印術式が輝きを収め、ついに“神殿の闇”は終わった。
◆
その瞬間。
神殿の奥、転送の結界の向こうから──一人の女性が、膝をついて現れた。
それは、《神官レイナ》。
彼女は、長らく“神の声”と称してイゼリアの支配下にあった。
その瞳は虚ろで、記憶を取り戻しきれないまま、ゆっくりと顔を上げる。
「……私……?」
「レイナ!」
アリシアが駆け寄る。
レイナは涙を流しながら、自らの胸元を押さえた。
「私……ずっと……“神の意思”が私のすべてだと、そう信じていたの」
「でも……あれは“声”じゃなかった。私自身の声なんて、最初から……なかった……」
流星が、そっと近寄る。
「いいじゃん。これから出せば。今度こそ、あんた自身の声で、さ」
レイナは目を見開き、そして小さく笑った。
「あなた……風俗に通ってるんですってね?」
「……おう、そりゃもう魂込めて」
「──ふふっ……でも、わかる気がするわ」
空気が、軽くなった。
リリアたちは思わず顔を見合わせ、どこか安堵の表情を浮かべた。
「自由に癒され、自由に求める。
それが人の、本来の生き方だったのかもしれない……」
◆
数日後。
アナナス島の神殿は“再出発”に向けて改修が始まっていた。
今度こそ、“癒し”と“信仰”のバランスを取った、真の意味で開かれた施設として。
神殿は「祈りと癒しの共存施設」として再定義され、誰もが訪れてもいい“島の心の拠り所”へと姿を変え始めていた。
流星たちは、それを高台から眺めていた。
「……また、風俗で事件起こしたな……」
リリアがぼやく。
「いや、オレが事件を起こしてるわけじゃない。風俗が、事件を起こすんだ」
「どっちも同じに聞こえるんだけど」
アリシアが本を閉じて、横から真顔で言う。
「そろそろ真面目に考えて。あなた、癒しの旅っていう名目で、王国のあちこちに災害残してるのよ?」
「違うって! 解決してるじゃん!」
ヴァネッサが笑って割り込む。
「でもあんたの剣、ほんと頼りになったよ。ね、今夜は久々に……あたしの部屋で、どう?」
「寝るッ! 今夜は寝かせてッ!!」
ミレーユが笑いながら呆れ声をあげる。
「あなたたち、どんだけ騒がしいの……でも、そうね──この島に“春”が来たなら、それはあなたたちのおかげかも」
やさしい風が吹いた。
波の音が、どこまでも穏やかに響いていた。
煩悩と愛と、自由の旅路。
流星たちはまた歩き出す。
──次なる“癒し”を求めて。
(つづく)
20
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」
銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の
一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の
関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事
を裏でしていた。ある日のこと学校を
出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ
こりゃーと思っていると、女神(駄)が
現れ異世界に転移されていた。魔王を
倒してほしんですか?いえ違います。
失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな!
さっさと元の世界に帰せ‼
これは運悪く異世界に飛ばされた青年が
仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの
と商売をして暮らしているところで、
様々な事件に巻き込まれながらも、この
世界に来て手に入れたスキル『書道神級』
の力で無双し敵をバッタバッタと倒し
解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに
巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる