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《欲望の女王と、快楽の均衡戦線(バランス・オブ・デザイア)》
第129話『淫魔の都──誘惑は国家の本能』
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快楽の香りは、空をも支配する。
──淫魔王国《アストラシア》。
魔族の中でも“本能を司る種族”とされる淫魔たちが築いたこの国は、今や「快楽による統治」を掲げ、豊かさと混沌の渦中にあった。
「うわ……何だ、この街並み」
流星が呆然と口を開ける。
目の前には、王都《ヴァルセイリア》の壮麗な景観が広がっていた。
金銀の装飾をあしらった建物。肌を大胆に露出した住民たち。通りには“誘惑の音楽”が常に流れ、香が焚かれ、笑い声が絶えない。
リリアが険しい顔で言う。
「……はっきり言って、街全体が“風俗テーマパーク”だな」
「だが、おかしい」
アリシアが冷静に分析する。
「明るく華やかに見えるのに……その下に、冷たい“統一感”がある。喜び方まで、統制されているみたい」
「快楽が……作られてる?」
ミレーユが訝しむ。
「うん。香りも、“自律感情制御香”の可能性がある。街全体に、“幸福に感じることが義務”として仕込まれてる……そんな空気」
「幸せを強制されるって……それ、地味に一番きついヤツじゃない?」
ヴァネッサが肩をすくめながら、道端の案内板を指さす。
《ようこそ! 快楽の都ヴァルセイリアへ!
笑顔の少ない方は市民登録できません♡》
「……笑わなきゃ、国民になれないのか」
流星は、喉の奥に渇いたものを感じた。
「ここって、本当に……癒しの国か?」
*
淫魔王国の中央宮殿《アストラシア宮》。
黄金と紫のカーテンが翻る謁見の間には、かつて出会ったあの女王──エイリーン=アストラシアの姿があった。
光沢ある漆黒のドレス、曲線を描く髪、そして何より、瞳に宿る“征服の色”。
「お久しぶりですわ、煩悩の勇者様」
艶やかな声。
しかしその微笑みの下には、かすかに滲む執着と……何か、揺らぎのようなものがあった。
「ご足労感謝いたします。“貴方の指先”で、私の快楽は基準を失いましたの」
「……そんなつもりはなかった」
「ええ、分かっています。でも、事実は変えられません」
エイリーンは立ち上がり、両手を広げるようにして宣言した。
「快楽とは、秩序であるべきです。混沌と衝動のままに与えられる快楽は、いずれ国を蝕みます。だからこそ──」
「全ての快楽は、我が定めた基準に従うべきですわ」
──その言葉に、空気が凍る。
「……どういう意味だ?」
流星が眉をひそめる。
エイリーンは笑った。艶やかで、しかしどこか狂気じみた笑み。
「快楽に“正解”を用意するのですわ。
“これを気持ちよいと感じなさい”──“これで満足しなさい”──
そうすれば民は争わず、癒しは均一化され、国家は安定する」
「それって……」
アリシアが言葉を失う。
「“感情の国家管理”じゃないか」
「まさか、住民の快楽の反応を“数値化”して……?」
「そのとおり。すべての市民の性感・情動は“快楽指標”で評価されておりますの」
エイリーンは、傍らの官僚型淫魔に指示を出し、スクロール型魔導タブレットを開示した。
そこには、住民一人一人の快楽記録ログが詳細に刻まれていた。
「これは……完全な“快楽カルテ”!?」
「快楽も、感情も、選ばれた方が幸せ。統制は秩序。あなたのように、“自分で選ぶ”などという行為こそ──混沌をもたらすのですわ」
「それが……この国の“癒し”かよ」
流星は静かに言った。
「快楽にだって個性がある。誰かに“これで満足しろ”って決められて、従ってるだけじゃ……それは、癒しじゃねぇ」
エイリーンは目を細め、やや挑発的に問いかける。
「では、流星様。あなたの“癒しの基準”は?」
「そうだな……その日、一番疲れてる部位を、無言で揉んでくれる指先の圧と温度と、香りが混ざって……」
「ストップ!! ストップだ煩悩勇者!! それは個人の性的嗜好だ!!」
アリシアが全力で遮る。
「でも、でもそういう自由な快楽って話でしょ!?」
「話を逸らすな!!」
エイリーンが、どこか楽しげに笑った。
「ええ……やはり、あなたは“愉快な異物”ですわね。ならば、こうしましょう」
玉座の奥から、七人の女たちが現れた。
それぞれ、異なる姿、異なる雰囲気、異なる艶。
──《淫魔王直属・七大快楽官》──
「あなたには、この七人の“快楽基準官”による試験を受けていただきます」
「試験?」
「はい。毎夜一人ずつ、彼女たちが“定められた快楽”を施します。それに適切に反応できれば合格。“逸脱”すれば、“再教育ルーム”行きですわ」
「……完全に、地獄じゃねぇかコレ」
「さあ、流星様。
快楽とは何か──あなた自身で証明なさってくださいませ」
淫魔の女王は、玉座から笑みを浮かべる。
その瞳の奥には、まだ消えぬ“あの夜の記憶”が、残っていた。
──淫魔王国《アストラシア》。
魔族の中でも“本能を司る種族”とされる淫魔たちが築いたこの国は、今や「快楽による統治」を掲げ、豊かさと混沌の渦中にあった。
「うわ……何だ、この街並み」
流星が呆然と口を開ける。
目の前には、王都《ヴァルセイリア》の壮麗な景観が広がっていた。
金銀の装飾をあしらった建物。肌を大胆に露出した住民たち。通りには“誘惑の音楽”が常に流れ、香が焚かれ、笑い声が絶えない。
リリアが険しい顔で言う。
「……はっきり言って、街全体が“風俗テーマパーク”だな」
「だが、おかしい」
アリシアが冷静に分析する。
「明るく華やかに見えるのに……その下に、冷たい“統一感”がある。喜び方まで、統制されているみたい」
「快楽が……作られてる?」
ミレーユが訝しむ。
「うん。香りも、“自律感情制御香”の可能性がある。街全体に、“幸福に感じることが義務”として仕込まれてる……そんな空気」
「幸せを強制されるって……それ、地味に一番きついヤツじゃない?」
ヴァネッサが肩をすくめながら、道端の案内板を指さす。
《ようこそ! 快楽の都ヴァルセイリアへ!
笑顔の少ない方は市民登録できません♡》
「……笑わなきゃ、国民になれないのか」
流星は、喉の奥に渇いたものを感じた。
「ここって、本当に……癒しの国か?」
*
淫魔王国の中央宮殿《アストラシア宮》。
黄金と紫のカーテンが翻る謁見の間には、かつて出会ったあの女王──エイリーン=アストラシアの姿があった。
光沢ある漆黒のドレス、曲線を描く髪、そして何より、瞳に宿る“征服の色”。
「お久しぶりですわ、煩悩の勇者様」
艶やかな声。
しかしその微笑みの下には、かすかに滲む執着と……何か、揺らぎのようなものがあった。
「ご足労感謝いたします。“貴方の指先”で、私の快楽は基準を失いましたの」
「……そんなつもりはなかった」
「ええ、分かっています。でも、事実は変えられません」
エイリーンは立ち上がり、両手を広げるようにして宣言した。
「快楽とは、秩序であるべきです。混沌と衝動のままに与えられる快楽は、いずれ国を蝕みます。だからこそ──」
「全ての快楽は、我が定めた基準に従うべきですわ」
──その言葉に、空気が凍る。
「……どういう意味だ?」
流星が眉をひそめる。
エイリーンは笑った。艶やかで、しかしどこか狂気じみた笑み。
「快楽に“正解”を用意するのですわ。
“これを気持ちよいと感じなさい”──“これで満足しなさい”──
そうすれば民は争わず、癒しは均一化され、国家は安定する」
「それって……」
アリシアが言葉を失う。
「“感情の国家管理”じゃないか」
「まさか、住民の快楽の反応を“数値化”して……?」
「そのとおり。すべての市民の性感・情動は“快楽指標”で評価されておりますの」
エイリーンは、傍らの官僚型淫魔に指示を出し、スクロール型魔導タブレットを開示した。
そこには、住民一人一人の快楽記録ログが詳細に刻まれていた。
「これは……完全な“快楽カルテ”!?」
「快楽も、感情も、選ばれた方が幸せ。統制は秩序。あなたのように、“自分で選ぶ”などという行為こそ──混沌をもたらすのですわ」
「それが……この国の“癒し”かよ」
流星は静かに言った。
「快楽にだって個性がある。誰かに“これで満足しろ”って決められて、従ってるだけじゃ……それは、癒しじゃねぇ」
エイリーンは目を細め、やや挑発的に問いかける。
「では、流星様。あなたの“癒しの基準”は?」
「そうだな……その日、一番疲れてる部位を、無言で揉んでくれる指先の圧と温度と、香りが混ざって……」
「ストップ!! ストップだ煩悩勇者!! それは個人の性的嗜好だ!!」
アリシアが全力で遮る。
「でも、でもそういう自由な快楽って話でしょ!?」
「話を逸らすな!!」
エイリーンが、どこか楽しげに笑った。
「ええ……やはり、あなたは“愉快な異物”ですわね。ならば、こうしましょう」
玉座の奥から、七人の女たちが現れた。
それぞれ、異なる姿、異なる雰囲気、異なる艶。
──《淫魔王直属・七大快楽官》──
「あなたには、この七人の“快楽基準官”による試験を受けていただきます」
「試験?」
「はい。毎夜一人ずつ、彼女たちが“定められた快楽”を施します。それに適切に反応できれば合格。“逸脱”すれば、“再教育ルーム”行きですわ」
「……完全に、地獄じゃねぇかコレ」
「さあ、流星様。
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