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《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第171話『夢娼ソティア──私は、現実にいない方がいい』
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──夢の中で、名前は泡のように消える。
それでも、ふれた手のぬくもりだけは、確かにそこにあった。
*
「本日のお部屋はこちらとなります。
ご希望の施術は“再夢接触型”でよろしいですか?」
夢娼館《レヴェリス》の受付嬢がそう尋ねたとき、
流星ははっきりと答えた。
「昨夜の施術の続きを希望する。
相手の名前は分からない。
でも──あの手に、もう一度ふれたい」
「承りました。
それでは、再夢誘導香を焚きますので、意識をお預けください」
香が、ふわりと広がる。
流星の視界が白くにじみ、やがて──
世界が静かに、“夢”へ沈んでいく。
*
最初に感じたのは、水に溶けた泡のような、
やさしい湿度だった。
空は淡い藍色で、星の粒が近い。
空気がやけにやわらかく、肌をなでるような風が吹いている。
そして、その中央に──
ひとりの少女が、膝を抱えて座っていた。
淡い青のローブ。
銀糸のような髪。
瞳は深い夜の湖を思わせる薄青。
その姿は、どこか“人ではない”透明感に満ちていた。
「……会いに、来たの?」
少女は、流星を見ずに言った。
「昨日、あなたの背中にふれたのは、わたし。
でも、あなたが目覚めたとき、
わたしはもう“いなかった”ことになってたでしょ?」
「……あんたが、“夢娼”か?」
「……うん。
わたしは、“ソティア”。
この都市で最初に、“夢の中だけで癒す施術”を始めた女」
「なんで、そんなことを?」
「だって──夢の中でなら、わたし、優しくできるから」
*
風がそよぐ。
ソティアの髪がゆれるたび、香の粒が舞った。
「現実だと、うまく話せないの。
ふれられない。
人が怖い。
でも、夢の中なら……
ちゃんと、あたたかくなれる」
「あなたの手、昨日、少し震えてた」
「……ごめん。
ほんとは、ふれるのも怖かった。
でも、あなたの背中にふれたとき、
“この人はちゃんと私を受け入れてくれる”って思えた」
「だから……今日も、来てくれてうれしい」
「……お前、ずっとそうしてきたのか?」
「うん。
わたし、“現実にいると、誰かを傷つける気がして”
だから、夢の中だけにいたかった。
現実では存在しない、
“泡のような愛し方”だけで、癒していたかった」
「でも、目覚めた人は、
誰もわたしを覚えてないの。
“誰かに癒された”とは言うのに──
その“誰か”が、ずっと、わたしであることを誰も知らない」
流星は、その言葉を黙って受け止めていた。
「……なあ、ソティア」
「ん?」
「お前が現実にいないと、“誰もお前にありがとうって言えねぇんだよ”」
「……」
「癒されたって、名前が残らなきゃ、
その手はずっと“無かったこと”にされちまう」
「ふれたことは残る。
でも、“ふれた人”が残らないのは、
それは──お前自身が“癒された”って感じられないってことだろ?」
ソティアの目が、大きく見開かれた。
「……癒した側、が……癒される……?」
「そうだ。
誰かが“ありがとう”って言ってくれることで、
施術師も救われるんだよ」
「お前は、ずっと“誰かを癒して”きたけど──
誰からも“ありがとう”をもらってないんじゃねぇか?」
ソティアの目から、ひと雫の涙がこぼれた。
「……わたし……
覚えてて、ほしかったのかもしれない。
“夢の中だけでいい”って言いながら……
ほんとは……“現実にもいたかった”のかもしれない……」
流星は、そっと手を差し出した。
「だったら、俺が“名前”を残すよ。
お前を癒してくれたのは“夢娼”じゃない。
“ソティア”だった、ってな」
ソティアは、その手をおそるおそる取った。
そして、ほつれるように笑った。
「……ありがとう。
やっと、“目が覚めた気がする”よ」
それでも、ふれた手のぬくもりだけは、確かにそこにあった。
*
「本日のお部屋はこちらとなります。
ご希望の施術は“再夢接触型”でよろしいですか?」
夢娼館《レヴェリス》の受付嬢がそう尋ねたとき、
流星ははっきりと答えた。
「昨夜の施術の続きを希望する。
相手の名前は分からない。
でも──あの手に、もう一度ふれたい」
「承りました。
それでは、再夢誘導香を焚きますので、意識をお預けください」
香が、ふわりと広がる。
流星の視界が白くにじみ、やがて──
世界が静かに、“夢”へ沈んでいく。
*
最初に感じたのは、水に溶けた泡のような、
やさしい湿度だった。
空は淡い藍色で、星の粒が近い。
空気がやけにやわらかく、肌をなでるような風が吹いている。
そして、その中央に──
ひとりの少女が、膝を抱えて座っていた。
淡い青のローブ。
銀糸のような髪。
瞳は深い夜の湖を思わせる薄青。
その姿は、どこか“人ではない”透明感に満ちていた。
「……会いに、来たの?」
少女は、流星を見ずに言った。
「昨日、あなたの背中にふれたのは、わたし。
でも、あなたが目覚めたとき、
わたしはもう“いなかった”ことになってたでしょ?」
「……あんたが、“夢娼”か?」
「……うん。
わたしは、“ソティア”。
この都市で最初に、“夢の中だけで癒す施術”を始めた女」
「なんで、そんなことを?」
「だって──夢の中でなら、わたし、優しくできるから」
*
風がそよぐ。
ソティアの髪がゆれるたび、香の粒が舞った。
「現実だと、うまく話せないの。
ふれられない。
人が怖い。
でも、夢の中なら……
ちゃんと、あたたかくなれる」
「あなたの手、昨日、少し震えてた」
「……ごめん。
ほんとは、ふれるのも怖かった。
でも、あなたの背中にふれたとき、
“この人はちゃんと私を受け入れてくれる”って思えた」
「だから……今日も、来てくれてうれしい」
「……お前、ずっとそうしてきたのか?」
「うん。
わたし、“現実にいると、誰かを傷つける気がして”
だから、夢の中だけにいたかった。
現実では存在しない、
“泡のような愛し方”だけで、癒していたかった」
「でも、目覚めた人は、
誰もわたしを覚えてないの。
“誰かに癒された”とは言うのに──
その“誰か”が、ずっと、わたしであることを誰も知らない」
流星は、その言葉を黙って受け止めていた。
「……なあ、ソティア」
「ん?」
「お前が現実にいないと、“誰もお前にありがとうって言えねぇんだよ”」
「……」
「癒されたって、名前が残らなきゃ、
その手はずっと“無かったこと”にされちまう」
「ふれたことは残る。
でも、“ふれた人”が残らないのは、
それは──お前自身が“癒された”って感じられないってことだろ?」
ソティアの目が、大きく見開かれた。
「……癒した側、が……癒される……?」
「そうだ。
誰かが“ありがとう”って言ってくれることで、
施術師も救われるんだよ」
「お前は、ずっと“誰かを癒して”きたけど──
誰からも“ありがとう”をもらってないんじゃねぇか?」
ソティアの目から、ひと雫の涙がこぼれた。
「……わたし……
覚えてて、ほしかったのかもしれない。
“夢の中だけでいい”って言いながら……
ほんとは……“現実にもいたかった”のかもしれない……」
流星は、そっと手を差し出した。
「だったら、俺が“名前”を残すよ。
お前を癒してくれたのは“夢娼”じゃない。
“ソティア”だった、ってな」
ソティアは、その手をおそるおそる取った。
そして、ほつれるように笑った。
「……ありがとう。
やっと、“目が覚めた気がする”よ」
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