190 / 228
《砂漠の秘宝と、快楽を記す遺跡へ》 ――触れ合いを石に刻んだ民の、失われた祈りとは?
第173話『流星、夢の中で愛される』
しおりを挟む
──これは、幸福という名の、深い夢だった。
目を閉じた瞬間から、すべての感覚がまるで水の中に溶けていくようだった。
重力も、温度も、時間の流れさえも消え、
そこにあったのは、ただただ、やわらかく甘い“安心感”だった。
そして。
「ようこそ、わたしの夢へ」
ソティアの声が、風のように耳元に届いた。
*
《夢層領域:第六深層/接触施術空間》
流星が目を開けると、そこには“星の見える室内”があった。
天井がない。
ベッドが、浮いている。
空は夜で、灯りは香で、壁は香泡でできていた。
ソティアが、隣にいた。
静かに、微笑んでいた。
そして、何も言わずに流星の手を握った。
「あなたのこと、忘れていたわ」
「でもね──好きだった」
流星の身体が、ぞくりと震える。
「……どういう意味だ?」
「わたしの施術は、“感情を刻んで、記憶を消す”の。
だから……施術の最中に、あなたのことが大好きになっても、
終わる頃には、その気持ちは全部消えている」
「でも、いま……夢の中で、あなたにふれた瞬間──
その“消えたはずの気持ち”が、また浮かび上がってきたの」
「……わたしはあなたを、忘れて、でも好きだった」
流星は返す言葉を見つけられなかった。
彼女の瞳は透き通っていて、まるで“夜空そのもの”だった。
*
施術が始まる。
流星の意識は、香の波に溶けていく。
ソティアの手が、首筋にふれる。
指先は冷たく、次の瞬間には熱を帯び、
まるで感情がそのまま“触覚”に乗って伝わってくるようだった。
(ふれられてる──)
(なのに、もう……思い出せない)
ソティアが背中に手を滑らせ、胸元に額を預ける。
「名前はいらない。記録も、いらない。
でも……この心の温度だけは、あなたの奥に刻む」
流星の身体は、浮遊し始める。
重力も、境界も消え、
快楽と幸福感だけが、深層へ深層へと沈み込んでいく。
言葉がいらない。
記憶すら、必要がない。
ただ、ふれられている。
「あなたを、愛してる」
(……だれが?)
(……今、俺の手を握ってるのは……)
(……俺、いまどこに……)
(俺……って、誰だっけ……)
*
──現実。
香庁モニター室。
アリシアの顔が蒼白になる。
「……ダメ。これ、深層に沈みすぎてる。
現実認識値が急速に低下してるわ」
ミレーユが椅子から立ち上がる。
「流星の脳波、“夢側との同調率98%”。
このままじゃ、“現実での自己認識”が戻らなくなる」
「……でも、彼は言ってた。
“彼女の名前を残す”って」
「でもそれって、“戻ってこられたら”の話でしょ!?」
リリアが叫ぶ。
「今の流星は──“ソティアに愛された存在”として、
夢の中で“完成しようとしてる”のよ!」
*
──夢の最深部。
ソティアが、そっと唇を寄せてきた。
「もう、帰らなくていいよ。
あなたは、ここで愛されたの。
それで、ぜんぶ終わっていい」
その一言が、まるで鎮魂歌のようだった。
でも。
流星の指が、ふるえた。
彼は、声にならない声でつぶやいた。
「……ソティア……」
「……え?」
「俺は……帰るよ」
「……っ」
「帰って──“お前がいたこと”を、現実に刻む」
「俺は、お前に愛された夢を、
“夢のままで終わらせない”」
「だから……ごめん。
お前を、ちゃんと……名前で呼ばせてくれ」
ソティアの瞳が、大きく揺れる。
そして、ぽろりと涙をこぼした。
「……ありがとう」
「そんなふうに……わたしを愛してくれる人が、
現実にいるなんて、思わなかった」
その言葉と同時に、夢の世界が崩れ始めた。
ソティアが、手を差し出す。
「また……来てくれる?」
流星は頷いた。
「次は“現実”で、会いに行くよ」
目を閉じた瞬間から、すべての感覚がまるで水の中に溶けていくようだった。
重力も、温度も、時間の流れさえも消え、
そこにあったのは、ただただ、やわらかく甘い“安心感”だった。
そして。
「ようこそ、わたしの夢へ」
ソティアの声が、風のように耳元に届いた。
*
《夢層領域:第六深層/接触施術空間》
流星が目を開けると、そこには“星の見える室内”があった。
天井がない。
ベッドが、浮いている。
空は夜で、灯りは香で、壁は香泡でできていた。
ソティアが、隣にいた。
静かに、微笑んでいた。
そして、何も言わずに流星の手を握った。
「あなたのこと、忘れていたわ」
「でもね──好きだった」
流星の身体が、ぞくりと震える。
「……どういう意味だ?」
「わたしの施術は、“感情を刻んで、記憶を消す”の。
だから……施術の最中に、あなたのことが大好きになっても、
終わる頃には、その気持ちは全部消えている」
「でも、いま……夢の中で、あなたにふれた瞬間──
その“消えたはずの気持ち”が、また浮かび上がってきたの」
「……わたしはあなたを、忘れて、でも好きだった」
流星は返す言葉を見つけられなかった。
彼女の瞳は透き通っていて、まるで“夜空そのもの”だった。
*
施術が始まる。
流星の意識は、香の波に溶けていく。
ソティアの手が、首筋にふれる。
指先は冷たく、次の瞬間には熱を帯び、
まるで感情がそのまま“触覚”に乗って伝わってくるようだった。
(ふれられてる──)
(なのに、もう……思い出せない)
ソティアが背中に手を滑らせ、胸元に額を預ける。
「名前はいらない。記録も、いらない。
でも……この心の温度だけは、あなたの奥に刻む」
流星の身体は、浮遊し始める。
重力も、境界も消え、
快楽と幸福感だけが、深層へ深層へと沈み込んでいく。
言葉がいらない。
記憶すら、必要がない。
ただ、ふれられている。
「あなたを、愛してる」
(……だれが?)
(……今、俺の手を握ってるのは……)
(……俺、いまどこに……)
(俺……って、誰だっけ……)
*
──現実。
香庁モニター室。
アリシアの顔が蒼白になる。
「……ダメ。これ、深層に沈みすぎてる。
現実認識値が急速に低下してるわ」
ミレーユが椅子から立ち上がる。
「流星の脳波、“夢側との同調率98%”。
このままじゃ、“現実での自己認識”が戻らなくなる」
「……でも、彼は言ってた。
“彼女の名前を残す”って」
「でもそれって、“戻ってこられたら”の話でしょ!?」
リリアが叫ぶ。
「今の流星は──“ソティアに愛された存在”として、
夢の中で“完成しようとしてる”のよ!」
*
──夢の最深部。
ソティアが、そっと唇を寄せてきた。
「もう、帰らなくていいよ。
あなたは、ここで愛されたの。
それで、ぜんぶ終わっていい」
その一言が、まるで鎮魂歌のようだった。
でも。
流星の指が、ふるえた。
彼は、声にならない声でつぶやいた。
「……ソティア……」
「……え?」
「俺は……帰るよ」
「……っ」
「帰って──“お前がいたこと”を、現実に刻む」
「俺は、お前に愛された夢を、
“夢のままで終わらせない”」
「だから……ごめん。
お前を、ちゃんと……名前で呼ばせてくれ」
ソティアの瞳が、大きく揺れる。
そして、ぽろりと涙をこぼした。
「……ありがとう」
「そんなふうに……わたしを愛してくれる人が、
現実にいるなんて、思わなかった」
その言葉と同時に、夢の世界が崩れ始めた。
ソティアが、手を差し出す。
「また……来てくれる?」
流星は頷いた。
「次は“現実”で、会いに行くよ」
0
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」
銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の
一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の
関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事
を裏でしていた。ある日のこと学校を
出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ
こりゃーと思っていると、女神(駄)が
現れ異世界に転移されていた。魔王を
倒してほしんですか?いえ違います。
失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな!
さっさと元の世界に帰せ‼
これは運悪く異世界に飛ばされた青年が
仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの
と商売をして暮らしているところで、
様々な事件に巻き込まれながらも、この
世界に来て手に入れたスキル『書道神級』
の力で無双し敵をバッタバッタと倒し
解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに
巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、
時には面白く敵を倒して(笑える)いつの
間にか世界を救う話です。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる