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第89話『病院、そして診断──膀胱炎』
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「……行くぞ」
ケントに手を引かれるまま、
ハルカは半ば引きずられるようにして、近所の総合病院へやってきた。
「うぅぅ……は、恥ずかしい……」
待合室で、ハルカは椅子に縮こまるように座った。
顔は真っ赤、両手は膝の上でグーのままだ。
(膀胱のことを診てもらうとか……! そんなの……!)
恥ずかしすぎて、膀胱よりも心臓が破裂しそうだった。
隣のケントは、何も言わずに待っている。
腕を組み、じっと前を見据えたまま。
けれどその横顔は、どこか緊張しているようにも見えた。
──まるで、
ハルカが怖がらないように、黙って隣にいてくれているみたいに。
「佐藤ハルカさーん」
名前を呼ばれ、ハルカはビクッと体を震わせた。
「さ、佐藤です……!」
おずおずと立ち上がり、診察室へ向かう。
背中に、ケントの視線を感じた気がした。
***
「最近、頻尿や排尿時の痛みなどありましたか?」
問診票を見た医者が、淡々とした口調で尋ねる。
「え、えっと……あの、ちょっとだけ、そ、そういうのが……」
しどろもどろに答えるハルカ。
顔が、これ以上ないくらい真っ赤だった。
(うぅぅ、恥ずかしいよぉぉぉ……!)
膀胱のことなんて、誰にも知られたくなかった。
ましてや、さっきまで隣にいたケントには絶対に知られたくなかった。
でも──
今は、ちゃんと治さなきゃ。
(ケントが……心配してくれたんだもん)
勇気を出して、ちゃんと話した。
***
診察と簡単な検査のあと、医者はにっこり笑って言った。
「軽い膀胱炎ですね。お薬を出しますから、きちんと飲んでください。
無理しなければ、すぐ良くなりますよ」
「……よかったぁ……」
ハルカは、ほっと息をついた。
あの痛みも、不安も、
ちゃんと原因がわかれば、少しだけ怖くなくなった。
***
会計を済ませ、待合室へ戻ると、
ケントが壁にもたれて待っていた。
ハルカを見つけると、
無言で、小さくうなずいた。
「……軽い膀胱炎だったって」
ハルカが小声で報告すると、
ケントも小さく息を吐いた。
「そっか」
ただ、それだけ。
だけど──
その一言に、すごく大きな安堵がこもっているのが、すぐにわかった。
(ケント……ずっと、心配してくれてたんだ)
ありがとう、って言いたかった。
でも、なぜか言葉が出てこなかった。
二人は並んで座りながら、
しばらく無言だった。
病院の待合室の空気は、冷たくて、静かで。
その中で──
どちらともなく、ちらりと横目で相手を見た。
目が合いそうになって、
慌てて逸らした。
(……なんだろう、この感じ)
ぎこちないけど、
少しだけ、あったかい。
今までとは、
ちょっと違う空気が、二人の間に流れていた。
冬の病院の待合室で、
ハルカとケントは、
ほんの少しだけ、大人になった気がした。
(続く)
ケントに手を引かれるまま、
ハルカは半ば引きずられるようにして、近所の総合病院へやってきた。
「うぅぅ……は、恥ずかしい……」
待合室で、ハルカは椅子に縮こまるように座った。
顔は真っ赤、両手は膝の上でグーのままだ。
(膀胱のことを診てもらうとか……! そんなの……!)
恥ずかしすぎて、膀胱よりも心臓が破裂しそうだった。
隣のケントは、何も言わずに待っている。
腕を組み、じっと前を見据えたまま。
けれどその横顔は、どこか緊張しているようにも見えた。
──まるで、
ハルカが怖がらないように、黙って隣にいてくれているみたいに。
「佐藤ハルカさーん」
名前を呼ばれ、ハルカはビクッと体を震わせた。
「さ、佐藤です……!」
おずおずと立ち上がり、診察室へ向かう。
背中に、ケントの視線を感じた気がした。
***
「最近、頻尿や排尿時の痛みなどありましたか?」
問診票を見た医者が、淡々とした口調で尋ねる。
「え、えっと……あの、ちょっとだけ、そ、そういうのが……」
しどろもどろに答えるハルカ。
顔が、これ以上ないくらい真っ赤だった。
(うぅぅ、恥ずかしいよぉぉぉ……!)
膀胱のことなんて、誰にも知られたくなかった。
ましてや、さっきまで隣にいたケントには絶対に知られたくなかった。
でも──
今は、ちゃんと治さなきゃ。
(ケントが……心配してくれたんだもん)
勇気を出して、ちゃんと話した。
***
診察と簡単な検査のあと、医者はにっこり笑って言った。
「軽い膀胱炎ですね。お薬を出しますから、きちんと飲んでください。
無理しなければ、すぐ良くなりますよ」
「……よかったぁ……」
ハルカは、ほっと息をついた。
あの痛みも、不安も、
ちゃんと原因がわかれば、少しだけ怖くなくなった。
***
会計を済ませ、待合室へ戻ると、
ケントが壁にもたれて待っていた。
ハルカを見つけると、
無言で、小さくうなずいた。
「……軽い膀胱炎だったって」
ハルカが小声で報告すると、
ケントも小さく息を吐いた。
「そっか」
ただ、それだけ。
だけど──
その一言に、すごく大きな安堵がこもっているのが、すぐにわかった。
(ケント……ずっと、心配してくれてたんだ)
ありがとう、って言いたかった。
でも、なぜか言葉が出てこなかった。
二人は並んで座りながら、
しばらく無言だった。
病院の待合室の空気は、冷たくて、静かで。
その中で──
どちらともなく、ちらりと横目で相手を見た。
目が合いそうになって、
慌てて逸らした。
(……なんだろう、この感じ)
ぎこちないけど、
少しだけ、あったかい。
今までとは、
ちょっと違う空気が、二人の間に流れていた。
冬の病院の待合室で、
ハルカとケントは、
ほんの少しだけ、大人になった気がした。
(続く)
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